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【12年目の「ふるさと津島」はいま(後編)】「原発事故さえなければ…」泣く泣く実家の解体決めた妻 そして生活環境整わぬまま〝拠点内〟の避難指示解除へ

帰還困難区域に指定された浪江町津島地区では今月末に一部の「特定復興再生拠点区域」が避難指示解除される。「3・11」から一夜明けた12日、福島県中通りで避難生活を送る50代の夫妻に、自宅のある津島地区を案内してもらった。避難指示解除と言っても夫妻のような〝拠点外〟が大半で、しかも帰還意向を示さないと除染の対象にすらならない。バリケードの向こう側で朽ちて行くわが家。豊かな生活を奪った原発事故への怒りと続く放射能汚染…。後編は妻の実家や生活環境など整っていない拠点内の現状をリポートする。
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【「せめて物置だけでも残したい】
 少し離れた場所にある妻の実家へ車で向かった。
 「ここは、お母さん(妻)が働いていた工場。ガラスも破られてしまってなかが見えるね。大手メーカーの下請け、孫請けで電子部品の基盤のはんだ付けや組み立てをしていたんだよ」
 夫が工場の前で車を停めた。今となっては言われなければ工場と分からない状態になってしまったが、夫妻にとっては大切な想いでの場所でもある。
 「お母さんは学校を出た後、しばらく県外で働いていたんだ。何年かで津島に戻って来たんだよな?俺はその頃、この工場で働いていたんだ。で、そこに新入社員として入って来たのがお母さんだった」
 30年以上も前のことだが、夫はその頃のことを今でも鮮明に覚えている。「俺が一方的に惚れた」。初めは遠くから眺めているだけだったが、徐々に距離が縮まり交際に発展。そして結婚した。仲の良さは今もあの頃のままだ。
 妻の実家に着いた。
 実家も除染はされていない。主要道路から20メートル範囲だけを除染する〝際除染〟は行われたが、「何の意味もないよ。莫大なお金をかけてね…」と夫。事前に「実家は自宅より酷い状況になってるよ」と話していたが、その通りだった。
 屋根に穴が開き、雨のせいで床が腐って抜けてしまっている。立派な仏壇も傾いていた。現実を直視するのはつらいのだろう。妻が車から出たのはわずかな時間だけ。ほとんど車中で待っていた。「潰れるのは時間の問題」と夫はつぶやいたが、言うまでもなく妻にとっては大切な大切な生家だ。
 「ここは、じいちゃんばあちゃんが開拓したときのままなの。昭和30年代に栃木県の足尾からやって来て原生林を切り開いた。重機なんかないから全部手作業。裏山にキノコがあってね、ばあちゃんは毎日採ってた。茹でて炒めたり味噌汁に入れたり」
 夫にとってもここは大事な家。慣れないスーツを着て結婚のあいさつに訪れた。ガチガチに緊張して親に頭を下げたのを覚えている。しかし…。この家ももう、解体するしかなくなってしまった。
 「ここも解体してもらう。帰還意向は出したから除染の対象にはなったけど、いつになるのやら…。解体してしまったら思い出の場もなくなってしまう。だからせめて物置だけは残したいと考えています。原発事故がなければ壊す必要なんかないのにね…」(妻)

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(上)妻の実家は屋根に穴が開き床は抜け、仏壇が傾いてしまっていた。妻は言葉少なに「解体を決めたが、せめて物置だけは残したい」と話した
(中)「特定復興再生拠点区域」除染が行われたが、区域内にはガソリンスタンドも商店もない
(下)除染が行われたのは津島全体のわずか1・6%にすぎない。妻の実家も帰還困難区域の中

【スーパーもスタンドもない】
 浪江町では今月31日午前10時、帰還困難区域に設定した「特定復興再生拠点区域」(室原、末森、津島)の避難指示が解除される。1月から2月にかけて福島県内外で行われた住民説明会では、吉田栄光町長は「解除ありきの説明会ではない。ご意見をふまえて私が判断する」と何度も繰り返したが、結局は国の意向を受け入れる形で予定通りの解除が決まった。
 今月18日には、町営津島住宅団地(住民の帰還と新規移転者の移転を促進し、地域の再生を活性化させるために国の福島再生加速化交付金を活用して町が整備・供給する「福島再生賃貸住宅」)の完成式が行われ、入居者にカギが引き渡された。だが、現時点で入居が決まっているのは3世帯のみ。残りの7戸は再募集中だ。
 内閣府原子力被災者生活支援チームの佐藤猛行支援調整官は、住民説明会で「避難指示解除の要件は満たしている」と述べたが、夫は愛車を運転しながら「生活環境は整ったなんて良く言えるよね」と怒りを口にした。
 避難指示解除の要件の1つに「電気、ガス、上下水道、主要交通網、通信など日常生活に必須なインフラや医療・介護・郵便などの生活関連サービスがおおむね復旧すること」がある。
 実際に夫妻と「特定復興再生拠点区域」を歩いてみても、生活環境が整ったと思える状況にないのが分かる。
 「ここが津島で一番大きな通り。いわゆる〝メインストリート〟だった」と夫が言う通りには、個人経営のスーパーマーケットが残っていた。ガラス越しに店内をのぞくと「お弁当」、「フローズンフード」などの表示が見えた。近くには旅館や新聞販売店もあった。理容室や美容室もあったが、多くは解体されて外灯に取り付けられた看板だけが残っている。
 JAふたば津島支店が経営していたガソリンスタンドも今は営業していない。津島支店も長く職員が立ち入っていないのか、玄関には原発事故発生直後の新聞が散乱していた。コンビニもない。銀行もない。これが「津島部分解除」の現実だった。

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(上)国は住民説明会で改めて「避難指示解除の要件は満たしている」と強調したが………
(中)31日10時に避難指示が解除される「特定復興再生拠点区域」。しかし、津島は宅配便の配達すらしてもらえない
(下)18日には入居予定者にカギが引き渡された「津島住宅団地」。10戸のうち入居が決まったのは3戸にとどまっている

【宅配便も「まだエリア外」】
 津島に戻っても荷物を届けてもらえない。室原や末森は佐川急便の配達エリアになるが、津島は除外されている。佐川急便相馬営業所に確認したが「避難指示が部分解除されても津島はまだ配達エリアにはなっていません。津島に宅配便を送る方法?いまのところはないと思います」とのことだった。
 「2017年に居住制限区域と避難指示解除準備区域が解除されたときは、コンビニもあったし、ガソリンスタンドもあった。でも、津島の避難指示解除は何にもない…。買い物するのにガソリン使って30分かけてイオン浪江店まで行かなくちゃいけない。で、帰りもまた、ガソリンを使って帰ってくる」
 夫の指摘はもっともだ。住民説明会でも「津島には店もガソリンスタンドもありません。ガソリン代を使って町中心部まで給油しに行かなければいけない。デマンドタクシーがあるとはいえ、イオンまでの買い物は不便」という意見があった。「町の中心部から近い室原や末森と同列で考えないで欲しい」と語気を強めた男性もいた。
 「子育てするような世代は戻らないよね。じゃあ、避難指示解除で高齢者だけが帰還して、それで地域コミュニティと言えるのか。病気で倒れたらどうするの?南相馬の病院や医大病院に搬送すると言ったって間に合わないよ。亡くなった後に見つかるかもしれないし…」
 町役場の職員によると、31日は華々しいセレモニーは予定していないという。
 「まだ避難指示が解除されない区域の方が大半ですし…住民の方々の気持ちを考えれば派手な式典などできません。室原地区で簡単なセレモニーを粛々とやる予定です」
 今月10日、岸田文雄首相はワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の始球式のため東京ドームにいた。原発再稼働を強引に進める岸田首相は、津島地区を訪れたことがない。安倍晋三元首相も、町役場に隣接する仮設商店街で小女子やなみえ焼きそばを食べただけだった。
 「呑気に始球式なんかやってる場合じゃないよ。何やってんだって」
 夫は吐き捨てるように言った。幹線道路には「みんなで創ろう うつくしま つしま」と書かれた看板があった。津島の人々は故郷を失ったのではない。奪われたのだ。そしてそれは、地域のごくごく一部が避難指示解除されても変わらない。
 ルームミラーに映った津島の自然がどんどん遠くなっていった。
前編はここをクリック


(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)
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