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【原発避難者から住まいを奪うな】「住宅無償提供打ち切りの根拠を具体的に示せ」など、裁判長が双方に詳細な求釈明 ~「住まいの権利裁判」第4回口頭弁論

昨年3月、国家公務員宿舎に入居する区域外避難者11人が福島県知事を相手取って起こした損害賠償請求訴訟(住まいの権利裁判)の第4回口頭弁論が22日夕、東京地裁103号法廷(大嶋洋志裁判長)で行われた。福島県は退去などを求める反訴状と第4準備書面を陳述。避難者側は反訴状に対する答弁書、第5準備書面を陳述した。大嶋裁判長は双方に細かく求釈明。福島県が住宅無償提供打ち切りの根拠や親族訪問時のやり取りなどについてどう回答するか、注目だ。次回期日は暫定的に6月19日とされたが、改めて調整されることになった。
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【親族訪問時のやり取りも】
 この日の弁論は40分ほど行われた。
 提出書面などの確認をひと通り終えると、大嶋裁判長は「裁判所から釈明がありますのでメモのご準備を」と述べ、双方に合わせて10を超える質問をし、後日の回答を求めた。
 特に福島県(代理人は湯浅亮弁護士)に対する求釈明は、これまでの他の訴訟にはないものだった。
 ・国に応急仮設住宅供与を要請しなかったことについて
 「答弁書のなかで、『考慮要素』として①国との協議状況②災害公営住宅の整備状況③除染作業の進捗状況─を挙げているが、それぞれ具体的にはどのような『状況』をおっしゃっているのか。具体的に主張していただきたい」
 ・復興公営住宅を福島県外に建設しないことについて
 「福島県外に復興公営住宅を建設すること自体は可能であるという趣旨の回答をいただいているが、公営住宅法第3条の規定のみから『県外住宅建設の法的義務がない』と言い切れるのかどうか」
 ・親族住所の調査について
 「第3準備書面では『応急仮設住宅の供与事務の一環として行った』と主張している。しかし、この時点で既に災害救助法の枠組みではなくてセーフティネット使用貸付契約に変わっている。この主張でよろしいのか」
 ・親族宅訪問について
 「親族に接触した際の記録は何か保存されているのかどうか。どういうやり取りをしたのか(知りたい)」
 裁判所の姿勢について、井戸謙一弁護士は閉廷後の報告集会で「この裁判の最大の争点は、福島県知事が区域外避難者に対する住宅無償提供を2017年2月末で打ち切ったことが、行政権行使の裁量の逸脱・濫用か否かという点。福島県はなぜ延長せず打ち切ったのか、裁量の逸脱・濫用があるかどうかについてきちんと判断するためには、具体的に福島県に説明させる必要があるということだと思う。原告、被告のどちらにも偏らずフラットな立場で、争点をきちんと判断するために必要な求釈明をしたと評価していい」と述べた。

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(上)酒田芳人弁護士も報告集会で「裁判長の求釈明は非常に良いこと。特に福島県に対しては本質的な質問をしていた。裁判官は、きちんと問題意識を持って事実を明らかにしようとしている。そういう姿勢は評価していい」と述べた
(下)原告でもあり反訴被告でもある原発避難者の1人は「裁判長が細かく質問しているのを法廷で見て、ちゃんと考えてくれているんだなと感じた。良い判決を期待したい」と話した=衆議院第二議員会館

【息子の想い受け継いだ母親】
 法廷では、避難者側の3人の代理人弁護士が意見陳述した。
 林治弁護士は、第5準備書面の概略を説明。福島県が避難者親族の住所を調べ上げて訪問し、未退去などについて〝協力〟を迫った問題について「親族との別居は様々な理由や事情があり、別居している親族がどこに住んでいるかは個人にとって知られたくない秘密。それを認識されること自体がプライバシー侵害となる。そのことは、生活困窮者が親族に『扶養照会』されることを理由に生活保護の申請をしていないことからも分かる。そもそも、親族の住所を探り当てて接触しても、転居や2倍家賃の支払いには結びつかない」と述べた。
 光前幸一弁護士は、福島県が提出した反訴状に対する答弁書の要旨を陳述した。
 「反訴被告(避難者)らは、身の危険を避けるため、やむなく福島県外に避難し、災害救助法に基づき福島県から無償提供された建物で避難生活を開始した。福島県は2017年3月で住宅の無償提供を一方的に打ち切り、セーフティネット契約(2年間)への切り替えを迫った。この措置は憲法25条、13条、社会権規約等に基づいて立法化された『子ども被災者支援法』に違反する。現時点でも災害救助法に基づいて住み続ける権利がある。2017年3月末での住宅無償提供打ち切りは避難者の個別事情を一切考慮していない。行政の裁量権を逸脱し、無効だと考える」
 柳原敏夫弁護士は、避難当事者の意見陳述を再開するよう求めた。
 「原告の1人が昨年急死し、母親が訴訟を承継した。『息子がこの裁判のなかで訴えたかった無念な想いを受け継ぎ、話したい』という気持ちが最大の理由だ。この深い想いは、単なる陳述書では表現しきれない。裁判所には、このような想いを受け止めたうえで過去に前例のない原発事故によって発生した本件紛争の実像を理解し、実像にふさわしい判断をお願いしたい。そのためにも、これまで2回で中断している意見陳述を再開していただきたい。強く希望します」
 大嶋裁判長は「ここでは決定できない。改めて検討、ということになる。次回期日前には検討結果を伝える」と答えるにとどまった。

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(上)村田弘さん(「福島原発かながわ訴訟」原告団長)は、開廷前に行われた集会で「避難者の生存権にかかわる住宅問題は、原発事故被害のど真ん中、中心的な問題だ。このまま闇に葬らせてはいけない」と語気を強めた=東京地裁
(下)報告集会で「生活基盤としての住まいを失うということは『人権の危機』にほかならない」などと語った津久井弁護士=衆議院第二議員会館

【「住まいの喪失は『人権の危機』」】
 報告集会では、兵庫県で阪神大震災後の住宅問題に携わる津久井進弁護士が著書「まもられなかった人たち 検証『借上復興公営住宅』の強制退去策」を軸に講演した。
 「生活基盤としての住まいを失うということは『人権の危機』にほかならない。高齢者などを追い出すことは公として正義として許されるのか。(追い出しを認めた)神戸地裁などの判決はしゃかいてきに失格だと言い続けたい」
 津久井弁護士はさらに、災害救助法について「救助の必要があるときには100年経っても構わない。少なくとも放射性物質の半減期を迎えるまでは危機が続くと考えれば、6年で切る(住宅の無償提供を打ち切る)必要はない」と指摘。
 今回問題となっている親族訪問(福島県が避難当事者に無断で親族の連絡先を調べ上げ、法的手段をにおわせる文書を送付し、職員が直接訪問して退去への〝協力〟を求めた)については「神戸でも、弁護団がつくまでは、借り上げ住宅に入居している人々に職員が日参した。本人だけでなく、保証人になった知人のところも職員が訪問した。こういうのは常とう手段のひとつなんだと思う。」
 井戸弁護士によると、関東地方からの避難者が大阪市から明け渡しを求められている裁判が大阪地裁で係争中という。「ご本人は精神的に不安定になっている。大阪でもギリギリまで追い詰められている方がいる」。
 参加者からは、こんな意見もあった。
 「私たちは人権についてしっかりと学んでこなかった。原発事故は人権侵害。これからは、しつこく人権を世に訴えていくことが必要なのではないか」
 6月には、国連特別報告者セシリア・ヒメネス・ダマリーさんの訪日調査に関する報告書が公表される。福島県の内堀雅雄知事に対しても厳しい言葉が並ぶと思われるが、「武器としての国際人権~日本の貧困・報道・差別」(集英社新書)の著者・藤田早苗さん(エセックス大学人権センターフェロー)は、こう言う。
 「間違ってはいけないのは、国連の勧告は〝水戸黄門の印籠〟ではありません。国連特別報告者は〝世直し〟に来てくれるわけでもありません。私たちが使うための道具でしかないのです。私たちも勉強しないといけません」
  報告集会の司会を務めた瀬戸大作さんは「僕ら自身が国際人権法をどうやって学び、広め、使い、闘っていくか。そういうことをやっていかないといけない」と呼びかけた。



(了)

なお「親族訪問問題」については、こちらをクリック
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鈴木博喜

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