fc2ブログ

記事一覧

【12年目の浪江町はいま】「一歩一歩やるしかないけど…」厳しい地域再生 特定復興再生拠点区域で避難指示解除 町民感情考慮し華やかさ排した式典

原発事故後の帰還困難区域のうち、浪江町が「特定復興再生拠点区域」に指定した室原、末森、津島の3地区で3月31日午前10時、避難指示が解除された。特に高齢の町民から早期の避難指示解除が熱望されていた一方、今年1月から2月にかけて行われた住民説明会では厳しい意見も噴出していた。吉田栄光町長は、この日も「解除に12年もかかって申し訳ない」とお詫びを繰り返す〝浪花節〟に終始し、具体的な町の復興までは見通せていない。解除に至らない区域の方が圧倒的に多く、華やかさを排した式典には福島県知事の姿もなし。原発事故からの復興がいかに難しいかを見せつけられる「解除」だった。
202304010134314a0.jpg

2023033119355603e.jpg

【「拠点外は今年中に方向性」】
 午前10時。初夏を思わせる暑さのなかで始まった避難指示解除式は、町の防災無線を通じたアナウンスで始まった。
 「こちらは防災浪江広報です。本日午前10時をもちまして浪江町特定復興再生拠点区域の避難指示が解除されましたことをお知らせ致します」
 常磐道・浪江インターチェンジの隣地に建設中の「室原地区防災拠点」。先に完成した駐車場で行われた「特定復興再生拠点区域」避難指示解除式は、決して盛大ではなかった。
 役場職員は前日、「解除されない区域(拠点外)がまだまだ多くありますし、町民の方々はさまざまな想いを抱いています。式典はあまり派手にはせず粛々とやります」と語っていた。そして、吉田栄光町長のあいさつは、いつものように浪花節。「お詫び」が軸となっていた。
 「私はこの室原で生まれて育ちました。高齢者の方々はふるさとに帰りたくて『早く解除してください』、『栄光、俺いづ帰られんだ?早く帰してくれな』…。そんな方もお亡くなりになりました。この室原でも、小さいうちからお世話になっていた方々がこの12年間のなかで、その想いを果たすことができずお亡くなりになった方々が多くおられます。ようやく解除になりました。震災からもう12年も経過して、ようやく解除。本当に申し訳なかったなと謝る気持ちであります」
 2017年3月31日に帰還困難区域以外(居住制限区域、避難指示解除準備区域)の避難指示が解除されたときは、町民から汚染や被曝リスクが指摘されたにもかかわらず区域全体が解除された。しかし、今回は帰還困難区域のなかで、町が「特定復興再生拠点」に指定した区域だけの解除。特に山間部の津島地区では、実に98・4%が避難指示の対象とならない〝拠点外〟だ。
 吉田町長は、あいさつのなかで「今日は国や県の関係者がお出ででありますが、区域外にあっては間を開けずに早くふるさとに帰っていただける方向を今年中にはお示しをしたい」と語ったが、それ以上の具体的な言及はなかった。
 「復興は大きな高い、かつて経験のない登山だとすれば、まだ半分も登り切っておりません。今日の3拠点の解除で新たに登り、そして次の世代に素晴らしいふるさとを皆さんと一緒に残してまいりたい」と吉田町長。「今日解除になった3地区、農業が盛んなところです。解除になれば民間投資も増えてくるでしょう。この3地区を新たなスタートとして活発に復興を前へ進めてまいります」とも。しかし、原発事故からの〝復興〟は簡単ではない。

20230401015938aee.jpg

202304010156060ce.jpg

2023040101562180e.jpg
(上)浪江町防犯見守り隊の隊長が「ただいまより町内の合同パトロールを開始致します」と〝宣言〟。警察や消防との合同パトロールに出発するセレモニーで式典を終えた
(中)閉式後、囲み取材に応じた吉田栄光町長。「避難指示解除に12年もかかってしまい申し訳ない想いだ」と繰り返した。終了時には「良い記事を書いてください」とも
(下)原子力災害現地対策本部の師田晃彦副本部長が代読したメッセージで、太田房江本部長は「浪江町の復興に向けてしっかりと取り組みを進める」などと空虚な言葉を並べた=室原地区防災拠点

【どうする津島の生活環境】
 式典後の囲み取材でも、吉田町長の〝浪花節〟は続いた。
 「複雑な想いです。当町は8割が帰還困難区域。3地区の住民にあっては、避難指示解除まで12年もかかった。喜びよりは私自身としては大変申し訳ない、お詫びをしたいという想いと、それ以上にまだ帰れない、(方向性が)示されていない町民の方々が多くおられますから、そういう方々の想いを考えると複雑。早い段階での課題解決が私の大きな責任だと強い想いをしているところです」
 「当然、3地区の方は喜んでいらっしゃって、今朝も『栄光良かったな、おめでとう』と電話をいただいた。そういう想いも受け止めているが、それで終わるものではありません」
 お詫びを繰り返す吉田町長に、筆者は改めて真意を尋ねた。
 「県議を長くやらせていただいて、大きい立場(議長)もいただきながら議員生活をさせていただきました。特に双葉郡8町の代表ということで、それぞれの避難住民の方々にはご苦労をおかけしてきた。そのなかで12年も経って、ようやく私のふるさと浪江で3地区が解除になった。この12年の経過というのは非常に重い。申し訳ないですが、亡くなられた方も多くおられます。亡くなる前に早く帰してくれと…。私も昨年2月に母を亡くしました。今日の解除には間に合わなかった。私のような想いをしている住民の方々は多くおられるはずです。そういったことから、12年という長きにわたる避難生活というものにお詫びをしたいということです」
 昨年8月の町長就任から8カ月。〝ハネムーン期間〟は過ぎた。「早い段階での課題解決」と言うが、例えば津島地区の生活環境はどのように整えるのか。筆者の質問に吉田町長は具体的には答えなかった。
 「津島地区の方々の帰った後の生活環境については、お話しをいただいております。私も当然、町長として受け止めております。その上に立って帰りたいという方々もおられるわけでありますから、そういった方々の生活をするうえでの支援を町としても最低限考えなければいけないことかと思っております」
 なお、式典には内閣府の官僚たちも出席したが、太田房江・原子力災害現地対策本部長(経済産業副大臣)は欠席。福島県の内堀雅雄知事の姿もなかった。〝避難指示解除の光と影〟は直視せず、きょう4月1日に浪江町内で開かれる「福島国際研究教育機構」開所式には岸田文雄首相とともに出席するという。

202304010221297b3.jpg

20230401021709157.jpg

20230401021723fb7.jpg
(上)避難指示が解除された室原・末森地区でも桜が満開。しかし、花見をする住民の姿はなく、行き交う車もほとんどない。町民の1人は「一度壊された地域を再生するのは本当に大変」と語った
(中)避難指示解除に向けて行われた除染。末森仮置場に表示された空間線量率は毎時0・42マイクロシーベルトだった。事故前の約10倍だ
(下)地区全体の1・6%しか避難指示が解除されない津島地区。「拠点外」の昼曽根では、道路から20メートル範囲の〝際除染〟が行われたが、それでも手元の線量計は毎時1マイクロシーベルトを上回った

【「マイナスからのスタートだ」】
 式典会場の一角では、女性が「ああ、これで堂々と家に帰れる!許可証も何も要らなくなる!」と喜びを爆発させるように語った。避難指示解除に合わせて整備された「福島再生賃貸住宅・津島住宅団地」に入居する石井絹江さんも「誰かが戻らないとね」と前向きな想いを口にした。
 「(避難先の)福島市と津島を行ったり来たりでやっていこうかなと考えています。それで駄目なら仕方ない…。でも放射能とは向き合わなければならないですからね」
 津島住宅団地は当初、3世帯のみの入居が決まっていたが、現在は9世帯に増えたという。「まだ書類審査を進めているところですが、不備がなければ空室は1戸のみになります」(役場職員)。
 確かに吉田町長の言うように、早く避難元に戻りたいと願う町民はいる。旧居住制限区域に戻って暮らす70代女性は「避難先では死にたくないと考えた。孤独死であっても浪江で死にたい。そういうものよ」と話した。その意味では避難指示解除は大きな一歩であることは間違いない。しかし、原発事故が根こそぎ壊した地域コミュニティは簡単には戻らない。準備宿泊を申し込んだ世帯が3地区合わせて12世帯にとどまっていることからも、地域再生の困難さがうかがえる。
 式典を見守った今野秀則さん(「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」原告団長)が複雑な胸中を口にした。
 「厳しいよね。いったん壊されて、12年で干支がひと回りして、地域社会はなくなってしまったも同然。先人が津島をいちから開拓したように、地域社会ができる道をもう一度たどらないといけないでしょうね。哀しいですよ。一歩一歩やるしかない。やるしかないんだけど、それが今日の解除で始まるかと言えば、ちょっと厳しいんじゃないかな。ゼロじゃないからね。マイナスからのスタートだから」
 避難指示が解除された「特定復興再生拠点区域」では、桜が満開になっていた。だが、花見をしている住民はいない。歩いている人はなく、行き交う車もほとんどない。放射能汚染と12年の歳月。震災・原発事故前には2万人を超えていた町の居住人口は、まだその1割にも達していない。



(了)
スポンサーサイト



プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)
https://www.facebook.com/taminokoe/


福島取材への御支援をお願い致します。

・auじぶん銀行 あいいろ支店 普通2460943 鈴木博喜
 (銀行コード0039 支店番号106)

・ゆうちょ銀行 普通 店番098 口座番号0537346

最新記事

最新コメント

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
ニュース
40位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
時事
16位
アクセスランキングを見る>>

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
ニュース
40位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
時事
16位
アクセスランキングを見る>>