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【福島国際研究教育機構】「原発避難から町に戻ったと思ったら今度は立ち退き…」 再び国家プロジェクトに住まいを追われる浪江町民の苦悩

震災・原発事故後の復興の起爆剤にしようと福島県双葉郡浪江町への設置が決まった「福島国際研究教育機構」(F-REI=以下エフレイ)。今月1日の仮事務所開所式は岸田文雄首相や内堀雅雄知事らが出席して華々しく行われたが、その陰で「立ち退き問題」に苦悩している町民がいる。予定地の大半は農地だが、なかには避難指示解除を受けて町に戻り、新たに土地を購入して暮らしていたところに再び「国家プロジェクト」の名のもとに住まいを追われようとしている人も。住民はどれだけ「お国のため」に振り回されるのか。苦悩に包まれる現場を歩いた。
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【「用地買収はこれから」】
 「エフレイ」は福島復興再生特別措置法に基づいて設置された法人。研究機関などが入る施設の誘致に田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町が名乗りを挙げたが、浪江駅の西側、川添字中ノ目地区を中心に設置されることが昨年9月の「第35回復興推進会議」で決まった。7年後の2030年度には50の研究機関が入り、約5000人の交流人口を生じさせるとされている。
 福島県のホームページでは「福島をはじめ東北の復興を実現するとともに、日本の科学技術力・産業競争力の強化に貢献する、世界に冠たる『創造的復興』の中核拠点」、「福島イノベーション・コースト構想の取組により整備された拠点間の連携等を促進し、構想を更に具現化、発展させる」と紹介されているほか、内堀知事も昨年12月の県議会で「福島国際研究教育機構の設立に伴う研究員等の新たな居住や往来が見込まれております」と答弁するなど〝肝いり〟のプロジェクトだ。一方、浪江町民からは「何の施設ができるのかさっぱり分からない」との声も聞かれる。
 今月1日には、岸田首相も出席して仮事務所の開所式が行われた。各省庁から集められた官僚など約60人が常駐することになるが、多くはいわき市など浪江町外から通うという。
 法人が発足したばかりとあって、福島県も浪江町も「具体化はこれから」と口を揃える。
「いまは用地買収に向けて手続きをしているところ。相手(地権者)もあることなので、いつまでに(買収を終える)というのは決まっていない。国が住民説明会を開いたが、具体的な用地の取得はこれから」(福島県福島イノベーション・コースト構想推進課)
 「いまはまだ用地買収の前の段階。予定地は完全に固まったわけではないので、あくまで仮定の話だが、住宅が引っかかる可能性がある。もし立ち退いてもらう必要が出てくるようであれば、しっかりご理解・ご協力いただける形で進めたい。いずれにしても具体化するのはこれから」(浪江町F-REI立地室)
 だがしかし、実際には国や町が町民に具体的な立ち退き話を持ち掛けていた。「仮定の話」などではないのだ。

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(上)施設建設予定地の大半は田畑だが、少ないとはいえ住宅もある。住民には既に立ち退きが求められている=西側から常磐線方向を撮影
(中)浪江町への立地が正式決定した翌日には、早くも岸田首相が施設建設予定地を視察していた。
(下)福島県のホームページに掲載されている図には「世界に冠たる『創造的復興の中核拠点』を目指す」とまで書かれている

【拒否すれば強制執行?】
 「立ち退いてくれってことですよ」
 地権者の1人は、困惑した表情で話した。怒っているというより、弱り切った表情だった。
 この地権者の自宅は建設予定地に面している。これまでに復興庁や町役場の担当者が何度か自宅を訪ねてきた。当初は自宅を避けて施設を建設するという話もあったが、役場職員から「国から(住宅を)どけてくれと言われた」と告げられたという。
 「エフレイの建設予定地を見たら、うちが入っちゃってるんです。邪魔だということになっちゃった要は道路際から建てたいのでしょう。だから私の家があると邪魔なんです」
 昨年12月3日、施設建設予定周辺に農地や宅地を持つ地権者たちを対象に住民説明会が町内で開かれた。町からは成井祥副町長が、復興庁からは福島国際研究教育機構準備室の江口哲郎参事官らが出席したが、そこで配布された「都市施設の区域(案)」と書かれた地図が、立ち退きがもはや「仮定の話」などではないことを物語っていた。施設建設予定地として塗りつぶされた約16・9ヘクタールの土地に、自宅敷地が含まれていたからだ。
 「もし立ち退きに応じないで突っぱねたらどうなるの?」
 この地権者は復興庁の官僚に尋ねた。官僚は「最終手段としては強制的に立ち退かせる方法もあるけど、そういうことはやりたくない」と答えたという。「私の家を強制的にどかしてでも道路際から建てたいということなのでしょう」と地権者。役場職員にも同じ趣旨の質問をしたことがあるが、寄り添った答えはなかったという。「最後まで突っ張ることもできるでしょうけど、家のすぐ横に高い塀とともに大きな施設を建てられたら、やっぱり嫌ですから…」。想いは複雑だ。
 国が7年後の施設供与開始を目指しているため、土地造成を考えると、実際の立ち退きまでに残された時間は少ない。「立ち退くにしても期限があるでしょう。お金は寄越すだろうけど、新たな土地は自分で探さなくてはいけない…。年齢が年齢だから、いまから土地を求めて新しい家を建てるって大変なんですよ…。代替地を用意してもらわないと困ります」。
 高齢の地権者にとっては土地を探して家を建て、家財道具などの一切を移動されるのは大変な労力となる。

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(上)施設建設予定地ではドローンなどを使った測量が行われた=昨年12月に開かれた住民説明会での配布資料より
(中)(下)施設立地地の選定にあたっては、浪江町の予定地は「地元理解の醸成が十分に見込まれ」、「既存建築物は少ない」点も高く評価された。立ち退きを迫られる町民の気持ちなど二の次三の次なのだ

【「国の事業…仕方ない」】
 地権者のなかには、2011年3月の震災・原発事故で避難を余儀なくされ、避難指示の部分解除を受けて町に戻って来たと思ったら今回の立ち退き話に直面した人もいる。
 国策で進められた原発が事故を起こして避難。2017年3月末で帰還困難区域以外の避難指示が解除されると、老朽化した避難元自宅を解体し、町内の別の場所に土地を求めて家を建てた。それが川添地区だった。
 土地と建物で数千万円を要した。庭もきれいに整備した。庭ではきれいな花が咲いている。新しい土地での生活にも慣れてきた。その矢先、再び「国家プロジェクト」の名のもとで住まいを追われようとしている。こんな理不尽があるだろうか。地権者が「立ち退いたとして、移転先も将来またどけと言われやしないか心配です」と話すのもうなずける。
 ある地権者は「あそこの家も建てて数年。まだきれいでしょ。あそこも立ち退きの対象ですよ」と指差しながら、国や町の取り組みには一定の理解を示した。それはしかし、理解というより「あきらめ」にも似た心境だった。
 「ちゃんとお金(補償金)をもらえるのであれば立ち退いても構わないです。国がやることだからしょうがないです。いや本心はね、ここからまた新たな家に引っ越すというのは年齢的に大変です。だからここでずっと暮らしたいけれど、国の事業だと言われれば仕方ないですからね」
 なかには「立ち退きの精神的損害を考えれば、実費に上乗せして補償してもらいたいくらいです。そんなことを言ってもしょうがないですけどね…やってられませんよ」と吐き捨てるように話す人もいる。
 帰還町民を追い出して〝立派〟な施設を建設するのが復興庁の進める「復興」なのだろうか。7年後(原発事故発生からは19年後)に5000人規模の交流人口が浪江町に生じれば、一定の経済効果はあるだろう。しかし、その陰で理不尽な立ち退き話に頭を悩ませている町民がいることも忘れてはいけない。
 今月23日には、2回目の住民説明会が町内で開かれる。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)
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