【146カ月目の汚染水はいま】「海洋放出するな!」「海を汚すな!」福島県民たちが東電前や国会前で抗議行動 韓国の女性たちも「陸上保管続けろ」と連帯のアピール
- 2023/05/17
- 20:07
8月にも強行されると言われている原発汚染水の海洋放出。福島で反対運動を続けている市民たちが16日、都内の東電本店前や国会前などで改めて「海洋放出するな」「海を汚すな」と抗議の声をあげる「東京行動」を実施した。福島県の市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」(織田千代、佐藤和良共同代表)と「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」の共催で、福島県民だけでなく、首都圏で原発問題に取り組んでいる人々も参加。また、韓国で脱原発運動を続けている女性たちも「陸上での長期保管を決断していただきたい」とマイクを握った。

【「水で薄めても安全でない」】
JR新橋駅からほど近い東京電力本店前で行われた海洋放出反対の集会。
「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表の佐藤和良さん(いわき市議)は「4月のG7気候・エネルギー・環境相会合では、西村康稔経産大臣に対し、ドイツのレムケ環境大臣が記者会見で『処理水の放出は歓迎するということはできない』とはっきり言った。つまり、海洋放出などしない方が良いのではないかという声が全世界で渦巻いているということだ」と、改めて東電に対して海洋放出しないよう訴えた。
議員会館前に場所を移して正午から行われた集会では、福島県三春町から駆け付けた大河原さきさんが国会議事堂を背にマイクを握った。
「福島県だけではなく全国の漁業者も断固反対しています。核実験の被害を受けた太平洋の島々からも、『生活のすべてを支えている海を放射能で汚すな』と強い抗議の声があがっています」
「燃料デブリを冷やした水は放射性物質だけでなく多くの化学物質も含み、安全ではありません。放射能はいくら水で薄めても分解せず、海の微生物や動植物に濃縮します。それらはいつか、私たちの食卓に上がります。『放射能汚染水は薄めて流せば問題ない』などと言う非科学的な政治家など信用しません」
13時から衆議院第一議員会館で行われた院内集会では、参加者が次々と海洋放出反対の想いを述べた。
「放射性物質は、生命の源である細胞を破壊します。そういうものを環境中に放出するなど、とても許すことはできません」藤田操さん(たらちねクリニック院長)
「きれいな海を残していくためにも、私よりも年下の子どもたちが海とともに生きていかれるよう、今を生きる一人として汚染水を海に流すことを拒否します」(福島県から京都府に原発避難した女性)
村田弘さん(福島県南相馬市小高区から神奈川県横浜市に原発避難)は、三好達治の詩「郷愁」を引用して、次のように訴えた。
「その詩には≪海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がゐる。そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に海がある≫という一節があります。母なる海をこれ以上汚すということは、どんなことがあっても許せない。罰当たりはやめろ、と言い続けたい」
伴英幸さん(原子力資料情報室共同代表)は、ずらりと座った官僚たちに「これだけの反対があるのになぜ、日本政府は強行しようとしているのか。適切に答えていただきたい」と問いかけたが、誰も答えなかった。





国内はもとより、韓国から来日した人々も東電本店前や国会前などで「海に流すな!」と訴えた
【韓国の女性「国家の暴力だ」】
「東京行動」には、国内からだけでなく韓国で脱原発運動「脱核市民行動」に取り組んでいる女性たちも参加。海洋放出しないよう訴えた。
東電前でマイクを握ったのは、韓国YWCAのユ・エスダさん。
「海洋放出が女性や子どもたちに大きな影響を与えるだろうと心配しています。韓国政府が積極的に反対しないばかりか容認するような態度をとっていることに対し、怒りを感じています。日本政府も東電も、当事者の方々の話をもっと聴かなければなりません。これからも皆さんとともに反対の声をあげていきます。汚染水を海に流すな!」
「環境運動連合」のチェ・ギョンスクさんは、衆議院第二議員会館前の集会でスピーチした。
「韓国でも多くの市民が汚染水海洋放出を心配しています。私は、海洋放出は〝国家の暴力〟だと考えています。反対する多くの声を無視するものだからです。視察団の派遣で海洋放出に〝お墨付き〟を与えるのなら、韓国政府も〝共犯〟です。今からでも、陸上での長期保管を決断していただきたい。海洋放出を放棄していただきたい」
院内集会後、改めてチェさんにインタビューをした。チェさんはまず、日本人の関心の低さに言及した。
「韓国では海洋放出問題への関心は高いです。日本人よりも関心が高いと思います。済州島での世論調査では、住民の90%が反対でした」
「日本では福島の人たちだけが孤立して反対の声をあげていて、福島以外の国民の関心があまりないように映ります。原発事故などなかったかのような日本政府の〝宣伝〟が成功しているのでしょう」
韓国政府は海洋放出に関する「視察団」を4日間、日本に派遣することを決めている。
「視察団は3泊4日で訪日するようですが、そんな短い時間では何も調べることはできません。提示された情報に対し、何か言うこともできません。東電の説明だけを聴いて帰ってくることになるのでしょう」とチェさん。「それをもって海洋放出に〝お墨付き〟を与えることになるのではないかと危惧しています」と危機感を口にした。
海洋放出を進めたい側からは「韓国の原発だってトリチウム水を海に流しているのではないか」との声が少なくない。
これに対してチェさんは「韓国を含めどこの国の原発でも汚染水は発生し、海に流しています。もちろん、その意味で原発反対運動を展開していかなければいけません」と前置きしたうえで、こう反論した。
「福島第一原発の汚染水は溶け落ちた燃料棒に触れた水。一般的な原発の水とは異なります」





①②東電本店前で小早川智明社長あての要請書を読み上げた織田さん。「理解と合意のない海洋放出はしない」など4項目を求めている
③④院内集会では、岸田文雄首相(原子力災害対策本部長)宛ての要請書も提出されたが、受け取った原子力規制庁の官僚は「自分が受け取るとは知らなかった。要請書をどうするのかと尋ねられても…」と話すお粗末ぶりだった
⑤「小名浜機船底曳網漁業協同組合」理事の柳内孝之さんは「漁業者は納得していません」と改めて会放出中止を訴えた=日比谷公園大音楽堂
【「漁業者は納得していない」】
夜は日比谷野外音楽堂での集会と、東電本店を経由する銀座デモ。
集会で、福島県いわき市の織田千代さん(「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表)は「海は美しい生命のかたまりです」と訴えた。
「福島の復興にとって海洋放出は欠かせない、と言われることが良くあります。本当にそうでしょうか?海洋放出は再び人の手で放射能を拡げてしまうことを意味します。私たちが経験した〝重荷〟をほかの土地に拡げてしまうことは本当の復興とは言えません。未来の子どもたちに美しい海を手渡すために、原発事故に由来する放射能の拡がりをストップさせましょう」
集会には「小名浜機船底曳網漁業協同組合」理事の柳内孝之さんも参加した。
「原発事故により、福島の漁業者は苦悩を強いられてきています」
柳内さんが強調したのは、試験操業から本格操業に向けて少しずつ前進してきた福島の漁業が、海洋放出によって再び足を引っ張られるのではないかという懸念だ。
「試験操業は2020年3月で終了。その時点で出荷が制限された水産物は皆無だったからです。しかし、本格操業(震災・原発事故前のように制限のない操業)には至っていません。いまは本格操業に向けた移行期間です。水揚げ量はまだ、震災・原発事故前の2割にすぎません」
「いまだに放射性物質に対する不安の声がある」として、いまも水揚げのたびに市場で放射能の検査をしているが、原発事故で水産物の流通は激変したという。
「『福島産を除いた流通』が確立してしまったこと、多くの仲買業者が廃業したことが福島の漁業再生を難しくしています。また、タンクの汚染水が海に漏れ出すという事態が何度かありました。そのたびに福島の水産物の受け入れを拒否されたのです」
夏にも始まると言われる海洋放出。柳内さんは言う。
「『関係者の理解なしにいかなる処分も行わない』という文書での約束を無視し、海洋放出するのでしょうか。漁業者は納得していませんし、多くの方々が理解しているとも思えません。国や東電には、社会と向き合い責任ある対応をとって欲しいです」
参加者たちは夜の銀座をデモ行進した。
「海を汚すな!」、「漁業を守れ!」、「子どもを守れ!」
海洋放出は福島だけの問題ではない。原発でつくられた電力を消費していた首都圏こそ、真剣に向き合わなければならない。
(了)

【「水で薄めても安全でない」】
JR新橋駅からほど近い東京電力本店前で行われた海洋放出反対の集会。
「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表の佐藤和良さん(いわき市議)は「4月のG7気候・エネルギー・環境相会合では、西村康稔経産大臣に対し、ドイツのレムケ環境大臣が記者会見で『処理水の放出は歓迎するということはできない』とはっきり言った。つまり、海洋放出などしない方が良いのではないかという声が全世界で渦巻いているということだ」と、改めて東電に対して海洋放出しないよう訴えた。
議員会館前に場所を移して正午から行われた集会では、福島県三春町から駆け付けた大河原さきさんが国会議事堂を背にマイクを握った。
「福島県だけではなく全国の漁業者も断固反対しています。核実験の被害を受けた太平洋の島々からも、『生活のすべてを支えている海を放射能で汚すな』と強い抗議の声があがっています」
「燃料デブリを冷やした水は放射性物質だけでなく多くの化学物質も含み、安全ではありません。放射能はいくら水で薄めても分解せず、海の微生物や動植物に濃縮します。それらはいつか、私たちの食卓に上がります。『放射能汚染水は薄めて流せば問題ない』などと言う非科学的な政治家など信用しません」
13時から衆議院第一議員会館で行われた院内集会では、参加者が次々と海洋放出反対の想いを述べた。
「放射性物質は、生命の源である細胞を破壊します。そういうものを環境中に放出するなど、とても許すことはできません」藤田操さん(たらちねクリニック院長)
「きれいな海を残していくためにも、私よりも年下の子どもたちが海とともに生きていかれるよう、今を生きる一人として汚染水を海に流すことを拒否します」(福島県から京都府に原発避難した女性)
村田弘さん(福島県南相馬市小高区から神奈川県横浜市に原発避難)は、三好達治の詩「郷愁」を引用して、次のように訴えた。
「その詩には≪海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がゐる。そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に海がある≫という一節があります。母なる海をこれ以上汚すということは、どんなことがあっても許せない。罰当たりはやめろ、と言い続けたい」
伴英幸さん(原子力資料情報室共同代表)は、ずらりと座った官僚たちに「これだけの反対があるのになぜ、日本政府は強行しようとしているのか。適切に答えていただきたい」と問いかけたが、誰も答えなかった。





国内はもとより、韓国から来日した人々も東電本店前や国会前などで「海に流すな!」と訴えた
【韓国の女性「国家の暴力だ」】
「東京行動」には、国内からだけでなく韓国で脱原発運動「脱核市民行動」に取り組んでいる女性たちも参加。海洋放出しないよう訴えた。
東電前でマイクを握ったのは、韓国YWCAのユ・エスダさん。
「海洋放出が女性や子どもたちに大きな影響を与えるだろうと心配しています。韓国政府が積極的に反対しないばかりか容認するような態度をとっていることに対し、怒りを感じています。日本政府も東電も、当事者の方々の話をもっと聴かなければなりません。これからも皆さんとともに反対の声をあげていきます。汚染水を海に流すな!」
「環境運動連合」のチェ・ギョンスクさんは、衆議院第二議員会館前の集会でスピーチした。
「韓国でも多くの市民が汚染水海洋放出を心配しています。私は、海洋放出は〝国家の暴力〟だと考えています。反対する多くの声を無視するものだからです。視察団の派遣で海洋放出に〝お墨付き〟を与えるのなら、韓国政府も〝共犯〟です。今からでも、陸上での長期保管を決断していただきたい。海洋放出を放棄していただきたい」
院内集会後、改めてチェさんにインタビューをした。チェさんはまず、日本人の関心の低さに言及した。
「韓国では海洋放出問題への関心は高いです。日本人よりも関心が高いと思います。済州島での世論調査では、住民の90%が反対でした」
「日本では福島の人たちだけが孤立して反対の声をあげていて、福島以外の国民の関心があまりないように映ります。原発事故などなかったかのような日本政府の〝宣伝〟が成功しているのでしょう」
韓国政府は海洋放出に関する「視察団」を4日間、日本に派遣することを決めている。
「視察団は3泊4日で訪日するようですが、そんな短い時間では何も調べることはできません。提示された情報に対し、何か言うこともできません。東電の説明だけを聴いて帰ってくることになるのでしょう」とチェさん。「それをもって海洋放出に〝お墨付き〟を与えることになるのではないかと危惧しています」と危機感を口にした。
海洋放出を進めたい側からは「韓国の原発だってトリチウム水を海に流しているのではないか」との声が少なくない。
これに対してチェさんは「韓国を含めどこの国の原発でも汚染水は発生し、海に流しています。もちろん、その意味で原発反対運動を展開していかなければいけません」と前置きしたうえで、こう反論した。
「福島第一原発の汚染水は溶け落ちた燃料棒に触れた水。一般的な原発の水とは異なります」





①②東電本店前で小早川智明社長あての要請書を読み上げた織田さん。「理解と合意のない海洋放出はしない」など4項目を求めている
③④院内集会では、岸田文雄首相(原子力災害対策本部長)宛ての要請書も提出されたが、受け取った原子力規制庁の官僚は「自分が受け取るとは知らなかった。要請書をどうするのかと尋ねられても…」と話すお粗末ぶりだった
⑤「小名浜機船底曳網漁業協同組合」理事の柳内孝之さんは「漁業者は納得していません」と改めて会放出中止を訴えた=日比谷公園大音楽堂
【「漁業者は納得していない」】
夜は日比谷野外音楽堂での集会と、東電本店を経由する銀座デモ。
集会で、福島県いわき市の織田千代さん(「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表)は「海は美しい生命のかたまりです」と訴えた。
「福島の復興にとって海洋放出は欠かせない、と言われることが良くあります。本当にそうでしょうか?海洋放出は再び人の手で放射能を拡げてしまうことを意味します。私たちが経験した〝重荷〟をほかの土地に拡げてしまうことは本当の復興とは言えません。未来の子どもたちに美しい海を手渡すために、原発事故に由来する放射能の拡がりをストップさせましょう」
集会には「小名浜機船底曳網漁業協同組合」理事の柳内孝之さんも参加した。
「原発事故により、福島の漁業者は苦悩を強いられてきています」
柳内さんが強調したのは、試験操業から本格操業に向けて少しずつ前進してきた福島の漁業が、海洋放出によって再び足を引っ張られるのではないかという懸念だ。
「試験操業は2020年3月で終了。その時点で出荷が制限された水産物は皆無だったからです。しかし、本格操業(震災・原発事故前のように制限のない操業)には至っていません。いまは本格操業に向けた移行期間です。水揚げ量はまだ、震災・原発事故前の2割にすぎません」
「いまだに放射性物質に対する不安の声がある」として、いまも水揚げのたびに市場で放射能の検査をしているが、原発事故で水産物の流通は激変したという。
「『福島産を除いた流通』が確立してしまったこと、多くの仲買業者が廃業したことが福島の漁業再生を難しくしています。また、タンクの汚染水が海に漏れ出すという事態が何度かありました。そのたびに福島の水産物の受け入れを拒否されたのです」
夏にも始まると言われる海洋放出。柳内さんは言う。
「『関係者の理解なしにいかなる処分も行わない』という文書での約束を無視し、海洋放出するのでしょうか。漁業者は納得していませんし、多くの方々が理解しているとも思えません。国や東電には、社会と向き合い責任ある対応をとって欲しいです」
参加者たちは夜の銀座をデモ行進した。
「海を汚すな!」、「漁業を守れ!」、「子どもを守れ!」
海洋放出は福島だけの問題ではない。原発でつくられた電力を消費していた首都圏こそ、真剣に向き合わなければならない。
(了)
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