【女川原発運転差止請求訴訟】「避難計画の実効性、判断するまでもない」仙台地裁が〝門前払い〟判決 原告は悔し涙「事故の危険性は福島で確かめられたじゃないか」
- 2023/05/25
- 13:30
東北電力が2024年2月にも計画している女川原子力発電所2号機(宮城県女川町、石巻市)再稼働に反対し、宮城県や石巻市の広域避難計画には実効性がないとして石巻市民17人が起こした「女川原発運転差止請求訴訟」で、仙台地方裁判所(齊藤充洋裁判長)は24日午前、住民らの請求を棄却する判決を言い渡した。齊藤裁判長は住民たちが積み上げた主張や証拠に見向きもせず、わずか20ページの判決文で「事故が発生する具体的な危険があることについての主張立証がない」と門前払い。悔し涙を流した住民たちは仙台高裁に控訴する意向を示した。

【5回の弁論は何だったのか】
門前払い、肩すかし…どんな言葉を使えば裁判官の怠慢や判決の矛盾点を表現できるだろうか。しかも、判決文はたったの22ページ。代理人弁護士の1人は「そのうち、裁判官の考え方が書かれているのはわずか数ページだけです」とあきれ顔で話した。
原告団長の原伸雄さん(81)は事前取材で「裁判所が政府や最高裁に対して忖度せず、これまでに提出された書面や証拠に正面から向き合ってくれるかどうか…」と話していたが、正面から向き合うどころか〝ガン無視〟だった。
避難計画の不備、実効性には一切踏み込まず、「放射性物質が異常に放出される事故が発生する具体的な危険があることについての主張立証がない」、「避難計画の実効性に関する個別の争点について判断するまでもない」と住民の訴えを一蹴した。5回にわたって開かれた弁論や調査嘱託の採用はいったい何だったのか。
火事が起きた場合に備えてつくられる避難計画の不備を指摘するとき、「避難が必要な火事が起きる危険性」を立証しなければ議論に入れないなんて、そんな馬鹿な話があるだろうか。
避難計画について、石巻市は「原子力災害発生時に住民の避難等を安全かつ確実に実施するための基本的事項を定めたもの」と定義している。当たり前だが、女川原発2号機が再稼働された場合に原子力災害が起こる「具体的な危険があること」についての説明などない。そもそも「五重の防護があるから過酷事故など絶対に起こらない」と言われ続けた福島第一原発で事故が起きた。その教訓を踏まえて避難計画がつくられた。仙台地裁はその点もまったく無視した。
閉廷後、原告団事務局長の日野正美さんは怒りに唇を震わせた。
「中身に踏み込んで棄却するのならまだしも…これでは、原発事故が起きる危険性を住民が説明しないと訴えてはいけないと言っているのと同じですよ。福島の事故は何だったんですか。悔しいですよ。12年前の過酷事故でふるさとに帰ることができない人々が大勢いるんです。裁判所は、そういうことも考えて判断して欲しかったです」
日野さんの目は涙で真っ赤だった。



(上)5回の弁論など完全に無視した仙台地裁判決
(中)原告団長の原さんは記者会見で抗議声明を読み上げた
(下)弁護団長の小野寺信一弁護士は「誰が考えてもおかしな判決だ」と憤りを口にした
【「国策におもねった判決だ」】
法廷では怒号が飛び交ったという。閉廷後の報告集会でも、当然のように原告たちから怒りの言葉が相次いだ。
「結論ありきの判決以外の何物でもない。時間をかけてつくった書面や証拠に全然触れずに判決文を書くなんて、本当に裁判官なんだべか?それなりに勉強した人が判決文を平気で書くのだから、日本の裁判はとんでもないな」(男性)
「私たちは、再稼働したからといって直ちに事故が起こるなんて主張はしていない。結局、門前払いありきの判決だったのだろう」(男性)
「国策におもねった裁判官の保身のための判決だったと思う。避難計画は、放射性物質が環境中に放出されることが前提。しかも、過酷事故の危険性は過去の事故が確かな証拠だろう。判決はそれを無視している。住民が被曝することを是としているとしか思えない判決だ。避難計画の不備を承知で再稼働させるのであれば、それこそ住民の人格権を否定していることになると思う」(男性)
「国や司法に次世代は託せないと強く思った」(女性)
原告団長の原さんは「肩すかしを食らった。それだけでなく、土俵から逃げ出されてしまった」とマイクを握った。
「何のための2年間だったのか。昨年11月の結審から半年間。これはいったい何だったのか、大変疑問に思う」
実は原さんたちが「同じような内容だった」と振り返る決定がある。避難計画の不備を理由に女川原発再稼働同意を差し止める仮処分申し立てに対し、仙台地裁(大寄麻代裁判長)は2020年7月、申し立てを却下した。裁判所は、そのときも同じように住民側に過酷事故発生の具体的危険性を立証しろと言い放っている。今回はそのときよりもさらに書面や証拠を積み上げて訴訟に臨んだが、裁判所はそれらには見向きもせず、まるでコピペでもするかのような判決を言い渡したのだった。



(上)判決を受け、原告団・弁護団連名で発表された抗議声明
(中)原告団事務局長の日野さんは、閉廷後の集会で「司法は死んだのか!」と憤りを口にした。「原発事故が起こるということを立証しなければ、私たちは裁判すらできないのか」
(下)原さんたち住民の闘いの場は仙台高裁に移る。
【】
弁護団長を務める小野寺信一弁護士は記者会見で「このまま引き下がるわけにはいかない」と語気を強めた。
「裁判の最大の争点は、本当に逃げられるのかということ。逆に避難計画が原因で新たな被害(被曝リスク)を生じさせるのではないかということ。逃げられるのか、被曝リスクを避けられるのかと問うているのに、放射性物質の放出自体を立証しないと避難計画の中身に入らないと裁判所は言う。避難計画は放射性物質が外部に放出されることが大前提。誰が考えてもおかしな判決だ」
甫守一樹弁護士は「裁判所は、調査嘱託を採用した時点では避難計画の実効性について審理する意向があったんだと思う。こういう1カ月もあればかけるような判決を言い渡すのであれば、調査嘱託を採用する必要性はまったくない。昨年6月の最高裁判決の影響や、岸田政権への忖度が疑われる。こういう判決が繰り返されるようであれば、同じような惨劇がいつ起きないとも限らない」と指摘した。
「過酷事故発生の具体的危険性について主張・立証ができるのであれば、避難計画の議論に入るまでもなく原発の運転は差し止められる。しかし、それを住民に求めるのは不可能だ」と語ったのは畠山裕太弁護士。松浦健太郎弁護士も「結審から半年も要してこの判断か、と驚いている」と語った。
判決を受けて、東北電力は改めて2024年2月の再稼働を目指すとのコメントを公表した。
「再稼働が来年2月に迫っており、控訴審は急いで判決を得なければいけない」(原さん)
住民たちの闘いの場は仙台高裁に移る。
(了)

【5回の弁論は何だったのか】
門前払い、肩すかし…どんな言葉を使えば裁判官の怠慢や判決の矛盾点を表現できるだろうか。しかも、判決文はたったの22ページ。代理人弁護士の1人は「そのうち、裁判官の考え方が書かれているのはわずか数ページだけです」とあきれ顔で話した。
原告団長の原伸雄さん(81)は事前取材で「裁判所が政府や最高裁に対して忖度せず、これまでに提出された書面や証拠に正面から向き合ってくれるかどうか…」と話していたが、正面から向き合うどころか〝ガン無視〟だった。
避難計画の不備、実効性には一切踏み込まず、「放射性物質が異常に放出される事故が発生する具体的な危険があることについての主張立証がない」、「避難計画の実効性に関する個別の争点について判断するまでもない」と住民の訴えを一蹴した。5回にわたって開かれた弁論や調査嘱託の採用はいったい何だったのか。
火事が起きた場合に備えてつくられる避難計画の不備を指摘するとき、「避難が必要な火事が起きる危険性」を立証しなければ議論に入れないなんて、そんな馬鹿な話があるだろうか。
避難計画について、石巻市は「原子力災害発生時に住民の避難等を安全かつ確実に実施するための基本的事項を定めたもの」と定義している。当たり前だが、女川原発2号機が再稼働された場合に原子力災害が起こる「具体的な危険があること」についての説明などない。そもそも「五重の防護があるから過酷事故など絶対に起こらない」と言われ続けた福島第一原発で事故が起きた。その教訓を踏まえて避難計画がつくられた。仙台地裁はその点もまったく無視した。
閉廷後、原告団事務局長の日野正美さんは怒りに唇を震わせた。
「中身に踏み込んで棄却するのならまだしも…これでは、原発事故が起きる危険性を住民が説明しないと訴えてはいけないと言っているのと同じですよ。福島の事故は何だったんですか。悔しいですよ。12年前の過酷事故でふるさとに帰ることができない人々が大勢いるんです。裁判所は、そういうことも考えて判断して欲しかったです」
日野さんの目は涙で真っ赤だった。



(上)5回の弁論など完全に無視した仙台地裁判決
(中)原告団長の原さんは記者会見で抗議声明を読み上げた
(下)弁護団長の小野寺信一弁護士は「誰が考えてもおかしな判決だ」と憤りを口にした
【「国策におもねった判決だ」】
法廷では怒号が飛び交ったという。閉廷後の報告集会でも、当然のように原告たちから怒りの言葉が相次いだ。
「結論ありきの判決以外の何物でもない。時間をかけてつくった書面や証拠に全然触れずに判決文を書くなんて、本当に裁判官なんだべか?それなりに勉強した人が判決文を平気で書くのだから、日本の裁判はとんでもないな」(男性)
「私たちは、再稼働したからといって直ちに事故が起こるなんて主張はしていない。結局、門前払いありきの判決だったのだろう」(男性)
「国策におもねった裁判官の保身のための判決だったと思う。避難計画は、放射性物質が環境中に放出されることが前提。しかも、過酷事故の危険性は過去の事故が確かな証拠だろう。判決はそれを無視している。住民が被曝することを是としているとしか思えない判決だ。避難計画の不備を承知で再稼働させるのであれば、それこそ住民の人格権を否定していることになると思う」(男性)
「国や司法に次世代は託せないと強く思った」(女性)
原告団長の原さんは「肩すかしを食らった。それだけでなく、土俵から逃げ出されてしまった」とマイクを握った。
「何のための2年間だったのか。昨年11月の結審から半年間。これはいったい何だったのか、大変疑問に思う」
実は原さんたちが「同じような内容だった」と振り返る決定がある。避難計画の不備を理由に女川原発再稼働同意を差し止める仮処分申し立てに対し、仙台地裁(大寄麻代裁判長)は2020年7月、申し立てを却下した。裁判所は、そのときも同じように住民側に過酷事故発生の具体的危険性を立証しろと言い放っている。今回はそのときよりもさらに書面や証拠を積み上げて訴訟に臨んだが、裁判所はそれらには見向きもせず、まるでコピペでもするかのような判決を言い渡したのだった。



(上)判決を受け、原告団・弁護団連名で発表された抗議声明
(中)原告団事務局長の日野さんは、閉廷後の集会で「司法は死んだのか!」と憤りを口にした。「原発事故が起こるということを立証しなければ、私たちは裁判すらできないのか」
(下)原さんたち住民の闘いの場は仙台高裁に移る。
【】
弁護団長を務める小野寺信一弁護士は記者会見で「このまま引き下がるわけにはいかない」と語気を強めた。
「裁判の最大の争点は、本当に逃げられるのかということ。逆に避難計画が原因で新たな被害(被曝リスク)を生じさせるのではないかということ。逃げられるのか、被曝リスクを避けられるのかと問うているのに、放射性物質の放出自体を立証しないと避難計画の中身に入らないと裁判所は言う。避難計画は放射性物質が外部に放出されることが大前提。誰が考えてもおかしな判決だ」
甫守一樹弁護士は「裁判所は、調査嘱託を採用した時点では避難計画の実効性について審理する意向があったんだと思う。こういう1カ月もあればかけるような判決を言い渡すのであれば、調査嘱託を採用する必要性はまったくない。昨年6月の最高裁判決の影響や、岸田政権への忖度が疑われる。こういう判決が繰り返されるようであれば、同じような惨劇がいつ起きないとも限らない」と指摘した。
「過酷事故発生の具体的危険性について主張・立証ができるのであれば、避難計画の議論に入るまでもなく原発の運転は差し止められる。しかし、それを住民に求めるのは不可能だ」と語ったのは畠山裕太弁護士。松浦健太郎弁護士も「結審から半年も要してこの判断か、と驚いている」と語った。
判決を受けて、東北電力は改めて2024年2月の再稼働を目指すとのコメントを公表した。
「再稼働が来年2月に迫っており、控訴審は急いで判決を得なければいけない」(原さん)
住民たちの闘いの場は仙台高裁に移る。
(了)
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