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【原発事故と国内避難民】「原発避難者を1人も取り残すな」 昨秋の会見で国連特別報告者・ダマリーさんが伝えたかったこと~7月の報告書提出を前に

昨年9月26日から10月7日まで行われた国内避難民の人権に関する国連特別報告者セシリア・ヒメネス・ダマリーさんの訪日調査。最終報告書が7月4日、国連人権理事会に提出される。離日直前に日本記者クラブで行われた記者会見を今一度おさらいしておきたい。予定時間を大幅に超過した昨秋の会見で、彼女は何を伝えたかったのか。「避難の権利は『移動の自由』にかかわる人権」、「『子ども被災者支援法』を適用するべき」、「誰一人、取り残さないでいただきたい」など、弁護士でもあるダマリーさんの言葉を改めてかみしめたい。
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【「避難者全員が『国内避難民』」】
 「私に与えられた任務は、国連総会や国連人権理事会での決議に基づいています。できる限り国際人権法にのっとって、国内避難民の方々の状況を調べさせていただきました」
 会見はまず、ダマリーさんが約30分間、訪日調査の意義や内容、調査終了時点での考察について述べた。
 「国内避難に関する指導原則(筆者注:『 国内強制移動に関する指導原則』という表現もある)は、国内避難民について次のように定義しています。『自然もしくは人為的災害の影響の結果として、またはこれらの影響を避けるため、自らの住居もしくは常居所地から逃れもしくは離れることを強いられまたは余儀なくされた者またはこれらの者の集団であって、国際的に承認された国境を越えていないものをいう』。つまり、福島第一原発事故による避難者の方々は、政府の避難指示が出された地域か否かにかかわらず(強制避難者も区域外避難者も)国際法の下では等しく『国内避難民』として扱われるのです。避難をする権利は『移動の自由』にかかわる人権です」
 ダマリーさんは、避難者の多くが被曝リスクへの懸念を抱えていること、避難先での就職・生計の問題を抱えていることを挙げたうえで、こう強調した。
 「重要なのは帰還をするか避難を継続するかにかかわらず、恒久的な対策が講じられなければならないということです。また、避難元に帰還するか否かは、あくまでも避難者自身が決めるべきです」
 「避難者に影響を及ぼし得る決定プロセスに参加する権利、避難者の意見が反映される権利を堅持しなければなりません。何が、どのような動機で決められるのかについて意見を述べる権利も保障されなければなりません」
 区域外避難者(いわゆる〝自主避難者〟)を巡っては、発災当初から「政府の避難指示が出ていないのに勝手に怖がって避難した」というイメージがつきまとっている。福島県は、2017年3月末で区域外避難者への住宅無償提供を打ち切った。しかし、国際人権法にはそのような区別は存在しないという。
 「国内避難民の方々は、避難指示の有無(強制避難か自主避難か)を問わず全員が国内避難民であり、他の日本国民と同等の権利・権限を有します。支援や援助を受けるうえでの区別は取り除くべきです。国際人権法に基づかない基準で決めてはなりません」

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(上)今年1月、福島地裁の小川理佳裁判長は国家公務員宿舎から退去できずにいる区域外避難者2世帯に対し、明け渡しと賃料などの支払いを命じる判決を言い渡した
(下)区域外避難者への住宅無償提供打ち切りに加え、国家公務員宿舎から退去できずにいる県民に対する〝追い出し訴訟〟。福島県の内堀知事の仕打ちは、国際法上は許されない行為だ

【「『子ども被災者支援法』適用せよ」】
 「避難を継続する人々、特に脆弱な人々(高齢者や障害者を含めて)には住宅支援を継続するべきです」
 国も福島県も、原発事故発生から6年で区域外避難者への住宅無償提供を打ち切った。2020年3月には、福島県の内堀雅雄知事が都内の国家公務員宿舎「東雲住宅」から退去できずにいる区域外避難者を相手取って〝追い出し訴訟〟を起こした。福島県内で暮らす親族の住所を勝手に調べて手紙を送ったうえに訪問。訴訟をちらつかせながら「追い出しへの協力」を求めたこともあった。福島県だけでなく、東京都が起こした〝追い出し訴訟〟も係争中だ。
 そのことについて筆者が質問すると、ダマリーさんは次のように答えた。
 「どのような試みであれ、『移動の自由』を制限することは国際法に違反します。仮に国内法に基づくものであっても、です。基本にあるのは『国内避難に関する指導原則』。避難民も日本の国民、市民であるということです。避難民であろうとなかろうと、他の日本国民と等しく権利が守られるべき対象であるのです」
 別の質問に対しては、より具体的に答えている。
 「緊急性がある場合、対象者が脆弱性を持っている場合には、どのレベルであっても行政が仮設住宅の提供などをするべきです。しかし、2017年に住宅無償提供が打ち切られました。国家公務員宿舎から退去してもらうための訴訟も起こされています。今回の調査で対象となっている避難者と話をしましたが、他に行くところがどこにもないということが分かりました。障害者で、どこにも行き先がないという人もいました。避難民であるがゆえに脆弱性が追加されているという要素もあります」
 実効性を伴わないまま歳月だけが過ぎている「子ども被災者支援法」にも言及した。
 「『子ども被災者支援法』など、日本には既に多くの法律があると強調したい。しかしながら、これらの法律が完全に実施されることなく、書類にとどまってしまっています。そのことが問題を生じさせているのではないでしょうか。避難民の権利を考えて、これらの法律を適用するべきです」
 「被害者一人一人に最後まで寄り添う」とどれだけ耳にしただろうか。しかし、実際には寄り添うどころか国際法上は当たり前の権利すら認められていないのが、原発避難者なのだ。

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①②「国連特別報告者の訪日調査を実現する会」は今年4月、外務大臣宛てに要望書を提出。国連人権理事会での勧告を受け入れるよう求めている。賛同団体は30を超えるという
③今月下旬から原発避難者がジュネーブに渡り、避難者の置かれた現状などについて国連人権理事会でスピーチをする予定。「国連特別報告者の訪日調査を実現する会」は、滞在費などに充てるカンパを募っている

【「国内避難民数が明確でない」】
 朝日新聞の記者は、復興庁が〝帰還意思のない避難者〟を統計から除外した問題について質問した。
 復興庁は〝所在確認〟をするなかで帰還意思のない人や所在確認できなかった人などを統計から意図的に除外。避難者としてカウントされなかった原発避難者は、既に亡くなっていた114人を除いても6490人に達している(2022年8月24日号参照)。
 「帰還意思の有無を尋ねるのは基本的な質問だと思います。でも、それと実際に帰還できるか否かは別問題。この2つははっきりと区別するべきです。国内避難民と実際に面会するとは、どの国でもほとんどの人が『帰還したい』と答えます。一方で、『帰還できるか』という問いには、多くが『帰還できない』。帰還するための状況が整っていないケースがほとんどだからです」
 「避難先で子どもたちが学校に通っている。修了するまでは残りたいという人もいます。帰還の意思があったとしても、避難を継続したいさまざまな理由があるのです。帰還意思の有無ではなく、実際の状況がどうであるかによって判断されるべきでしょう」
 また、ダマリーさんは「国内避難民の数が明確ではありません。これは改善すべき問題だと捉えています」とも指摘した。
 自身の調査について「私に与えられた任務は大変重要」としたうえで「今なお避難を続けている方々、11年経った今でも苦しんでいる方々について私は特に強調して提言したい。今後も日本の国内避難民の方々の人権に関心を寄せて注目しつつ、支援を続けていただきたい。国内避難民の権利に目を向けて欲しい」と呼びかけたダマリーさん。会見の終盤では、次のような言葉も口にした。
 「SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)は、『誰一人取り残さない』とうたっています。日本の国内避難民もぜひ、取り残さないでいただきたい
 なお、福島県職員はダマリーさんが記者会見に合わせて公表した「予備的所見」について、「あくまでもこの時点でのダマリーさんの個人的なご意見」、「正式な報告書ではない」との見方を示している(2023年2月3日号参照)。



(了)
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鈴木博喜

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