【原発汚染水を海に流すな】そもそも初めから平行線 福島の市民団体が企画した官僚との意見交換会から考える「無視され続ける民意」
- 2023/06/12
- 18:20
7月にも始まると言われている福島第一原発汚染水の海洋放出。10日には、西村康稔経済産業相が福島県漁連地元紙は1面トップで「議論は平行線」と報じた。しかし、さっさと海に流してしまいたい国と流さず陸上保管を続けて欲しい市民との「平行線」は何も今に始まったことはない。福島の市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」(織田千代、佐藤和良共同代表)が企画した過去3回の意見交換会でも、官僚側は安全性や必要性を強調するばかり。反対する市民や専門家の声は無視されたまま、東電は12日朝、希釈放出設備の試運転を始めた。

【「基準値以上は流さない」】
2020年9月3日、いわき市文化センターで2時間以上にわたって行われた1回目の意見交換会には、経産省資源エネルギー庁廃炉・汚染水対策官の木野正登参事官が出席。「リスクはもちろんゼロでは無いが、影響は極めて小さいものであるという正確な情報を発信すること、しっかりと国民の皆様に伝えていくことが風評の抑制につながり、福島のためになるとわれわれは考えている」と述べるなど、「水の安全性」を強調し続けた。
処理後の汚染水には規制基準を超える放射性物質が63核種存在することは確認できており、濃度は基準値の1倍から2万倍まで様々。しかし当時、議会や市町村長には「2万倍」ではなく「100倍以上」としか説明していなかった。
「今後、処分をする際には1倍以上のものは二次処理をする。しっかり告示濃度1未満にしたうえで処分をするということは約束している。これからもしっかりと説明していきたい。関係者の理解を得るべく、引き続き努力を続ける」
「建屋に残っているトリチウムもいずれタンクの中に溜まる可能性がある。そうすると最大2000兆ベクレル。ただ、必ずしも2069兆ベクレル全てが海に出るかどうかはまだ分からない」
出席した市民からは「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(ロンドン条約)に違反するのではないか、との指摘も挙がった。
木野参事官は「ALPS処理水も放射性物質を含んでいるので沖合で投棄すると国際条約違反になる。原子力施設はどうしても放射性物質が出来てしまう。それを基準値以下にきちんと薄めたうえで処分するというのが別の法律で決められている」と回答。さらに次のように述べた。
「(沖合ではなく)陸からであっても、危険な物を流せば海を汚してしまうことになる。一方、事業活動上、出てしまうものがある。それを人間への影響がない範囲、法律上の基準値以下にすることが大事なんだと思う。その基準は必ず守る。処分する際は必ず基準値以下になっていることを確認する。そこは約束する。基準値以上のものを処分することはない」



2020年9月から2021年11月にわたって3回、行われた意見交換会。出席したエ庁の官僚は時に声を荒げながら、海洋放出の必要性や安全性を繰り返した
【「廃炉作業の妨げになる」】
2回目は2021年6月26日、いわき産業創造館で行われた。資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室の奥田修司室長が出席したが、低姿勢の木野氏とは一転、時に声を荒げながら海洋放出の必要性を強調した。
東電は2015年8月、福島県漁連に対し『関係者の理解なしには、いかなる処分も行わず、多核種除去設備で処理した水は発電所敷地内のタンクに貯留いたします』と文書で約束した。県漁連はいまも反対に変わりないが、東電は海洋トンネルの建設工事を完了。試運転まで始めている。それは約束を反故にしていることにならないのか。
奥田室長は「われわれとしてはお約束を反故にしたつもりはございません」と繰り返した。
「約束を反故にしたかのように受け取られていることについては、お詫びを申し上げたい」
「ですから、さっき申し上げたように約束を破ったという認識はしてございません」
さらに強調したのは「海洋放出をしないと廃炉作業が進まなくなってしまう」という点だ。
「単に陸上保管をし続けるということだけでは、復興と廃炉は両立できないと思ってございます」
「廃炉作業を進めていこうと考えるなかでは、陸上保管のスペースはなくなってきている」
「廃炉を進めるということをあきらめれば陸上保管できる」
「原子炉建屋の中に880トンの燃料デブリが残ったままでいるのは(地震や津波などの)リスクになるので、安定的に管理をしたい。ロボットアームのメンテナンス設備や訓練設備、取り出したデブリを保管しておく場所を敷地内につくらないと廃炉全体が進んでいかない。デブリの取り出しは可能か?可能だと思っています」
合意形成プロセスの問題については、奥田室長は「われわれとしてはですね、決定する主体は政府だと思っています。われわれの責任で決定をしですね、実施していくことだ。悪影響はないという自信があるから決定した」と明言。これに対し、出席者から「決定権は国ではなく、被害を受けた当事者にある」と怒りの声があがった。


「これ以上海を汚すな!市民会議」が企画した「『関係者の声』ハガキ作戦!」。福島県原子力安全対策課によると、これまでに約3500枚のハガキが福島県庁に届いたという。内堀知事にも報告されているというが、反対の声は無視され続けている
【「呼ばれれば説明に行く」】
2021年11月27日、いわき産業創造館で行われた3回目の意見交換会には、資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室の福田光紀室長が出席した。前任の奥田氏にような高圧的な物言いではなかったが、話の内容はまったく同じだった。何度も口にした言葉が「浄化」、「希釈」、「規制基準以下」の3つだった。
「いわゆる燃料デブリに触れた水、そして雨水や地下水が原子炉建屋のなかに入っている。これらの『汚染水』を『多核種除去設備(ALPS)』で規制基準を下回るまで浄化をさせていただき、貯蔵タンクで保管している」
「私たちは『汚染水』を処分することは考えていない。しっかりと浄化させていただいて、放射性リスクを規制基準以下にまで下げて『処理水』の状態にしたうえで、そのうえで海水でしっかりと希釈させていただき、放出することを考えている。『汚染水』が海洋放出されるわけではないことはご理解いただきたい」
「しっかりと規制基準のなかに収まるように浄化・希釈をするのが大前提だ」
「1000基を超える貯蔵タンクが廃炉作業に支障をきたす」、ロンドン条約違反についても「条約が禁じているのは、船などで廃棄物を沖合に持って行って海洋投棄すること。決して条約違反ではない」。結局、官僚側は出てくる人が変わるだけで言っていることは何ら変わらなかった。
市民側は「政府として県民公聴会を開催するべき」と何度も求めている。しかし、一度も実現していない。
福田室長は「お呼びいただければしっかりとご説明に伺う」と答えたが、これには、出席者が「『お呼びいただければ』ではなく、エネ庁自ら一般住民が参加して意見を言える場をつくることが必要だ」と反論した。タウンミーティングの開催を求める声にも言葉を濁しただけだった。
閉会後、取材に応じた福田室長は、県民公聴会について次のように答えている。
「どういう方法が一番適切なのか。私たちも検討しなければいけないし、関係者の方々にも引き続きご相談しなければいけない。すぐに『タウンミーティングをやります』とはなかなか言えない」
政府の海洋放出方針決定(2021年4月13日)から2年余。この間、ずっと平行線。民意は無視されたままなのだ。
(了)

【「基準値以上は流さない」】
2020年9月3日、いわき市文化センターで2時間以上にわたって行われた1回目の意見交換会には、経産省資源エネルギー庁廃炉・汚染水対策官の木野正登参事官が出席。「リスクはもちろんゼロでは無いが、影響は極めて小さいものであるという正確な情報を発信すること、しっかりと国民の皆様に伝えていくことが風評の抑制につながり、福島のためになるとわれわれは考えている」と述べるなど、「水の安全性」を強調し続けた。
処理後の汚染水には規制基準を超える放射性物質が63核種存在することは確認できており、濃度は基準値の1倍から2万倍まで様々。しかし当時、議会や市町村長には「2万倍」ではなく「100倍以上」としか説明していなかった。
「今後、処分をする際には1倍以上のものは二次処理をする。しっかり告示濃度1未満にしたうえで処分をするということは約束している。これからもしっかりと説明していきたい。関係者の理解を得るべく、引き続き努力を続ける」
「建屋に残っているトリチウムもいずれタンクの中に溜まる可能性がある。そうすると最大2000兆ベクレル。ただ、必ずしも2069兆ベクレル全てが海に出るかどうかはまだ分からない」
出席した市民からは「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(ロンドン条約)に違反するのではないか、との指摘も挙がった。
木野参事官は「ALPS処理水も放射性物質を含んでいるので沖合で投棄すると国際条約違反になる。原子力施設はどうしても放射性物質が出来てしまう。それを基準値以下にきちんと薄めたうえで処分するというのが別の法律で決められている」と回答。さらに次のように述べた。
「(沖合ではなく)陸からであっても、危険な物を流せば海を汚してしまうことになる。一方、事業活動上、出てしまうものがある。それを人間への影響がない範囲、法律上の基準値以下にすることが大事なんだと思う。その基準は必ず守る。処分する際は必ず基準値以下になっていることを確認する。そこは約束する。基準値以上のものを処分することはない」



2020年9月から2021年11月にわたって3回、行われた意見交換会。出席したエ庁の官僚は時に声を荒げながら、海洋放出の必要性や安全性を繰り返した
【「廃炉作業の妨げになる」】
2回目は2021年6月26日、いわき産業創造館で行われた。資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室の奥田修司室長が出席したが、低姿勢の木野氏とは一転、時に声を荒げながら海洋放出の必要性を強調した。
東電は2015年8月、福島県漁連に対し『関係者の理解なしには、いかなる処分も行わず、多核種除去設備で処理した水は発電所敷地内のタンクに貯留いたします』と文書で約束した。県漁連はいまも反対に変わりないが、東電は海洋トンネルの建設工事を完了。試運転まで始めている。それは約束を反故にしていることにならないのか。
奥田室長は「われわれとしてはお約束を反故にしたつもりはございません」と繰り返した。
「約束を反故にしたかのように受け取られていることについては、お詫びを申し上げたい」
「ですから、さっき申し上げたように約束を破ったという認識はしてございません」
さらに強調したのは「海洋放出をしないと廃炉作業が進まなくなってしまう」という点だ。
「単に陸上保管をし続けるということだけでは、復興と廃炉は両立できないと思ってございます」
「廃炉作業を進めていこうと考えるなかでは、陸上保管のスペースはなくなってきている」
「廃炉を進めるということをあきらめれば陸上保管できる」
「原子炉建屋の中に880トンの燃料デブリが残ったままでいるのは(地震や津波などの)リスクになるので、安定的に管理をしたい。ロボットアームのメンテナンス設備や訓練設備、取り出したデブリを保管しておく場所を敷地内につくらないと廃炉全体が進んでいかない。デブリの取り出しは可能か?可能だと思っています」
合意形成プロセスの問題については、奥田室長は「われわれとしてはですね、決定する主体は政府だと思っています。われわれの責任で決定をしですね、実施していくことだ。悪影響はないという自信があるから決定した」と明言。これに対し、出席者から「決定権は国ではなく、被害を受けた当事者にある」と怒りの声があがった。


「これ以上海を汚すな!市民会議」が企画した「『関係者の声』ハガキ作戦!」。福島県原子力安全対策課によると、これまでに約3500枚のハガキが福島県庁に届いたという。内堀知事にも報告されているというが、反対の声は無視され続けている
【「呼ばれれば説明に行く」】
2021年11月27日、いわき産業創造館で行われた3回目の意見交換会には、資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室の福田光紀室長が出席した。前任の奥田氏にような高圧的な物言いではなかったが、話の内容はまったく同じだった。何度も口にした言葉が「浄化」、「希釈」、「規制基準以下」の3つだった。
「いわゆる燃料デブリに触れた水、そして雨水や地下水が原子炉建屋のなかに入っている。これらの『汚染水』を『多核種除去設備(ALPS)』で規制基準を下回るまで浄化をさせていただき、貯蔵タンクで保管している」
「私たちは『汚染水』を処分することは考えていない。しっかりと浄化させていただいて、放射性リスクを規制基準以下にまで下げて『処理水』の状態にしたうえで、そのうえで海水でしっかりと希釈させていただき、放出することを考えている。『汚染水』が海洋放出されるわけではないことはご理解いただきたい」
「しっかりと規制基準のなかに収まるように浄化・希釈をするのが大前提だ」
「1000基を超える貯蔵タンクが廃炉作業に支障をきたす」、ロンドン条約違反についても「条約が禁じているのは、船などで廃棄物を沖合に持って行って海洋投棄すること。決して条約違反ではない」。結局、官僚側は出てくる人が変わるだけで言っていることは何ら変わらなかった。
市民側は「政府として県民公聴会を開催するべき」と何度も求めている。しかし、一度も実現していない。
福田室長は「お呼びいただければしっかりとご説明に伺う」と答えたが、これには、出席者が「『お呼びいただければ』ではなく、エネ庁自ら一般住民が参加して意見を言える場をつくることが必要だ」と反論した。タウンミーティングの開催を求める声にも言葉を濁しただけだった。
閉会後、取材に応じた福田室長は、県民公聴会について次のように答えている。
「どういう方法が一番適切なのか。私たちも検討しなければいけないし、関係者の方々にも引き続きご相談しなければいけない。すぐに『タウンミーティングをやります』とはなかなか言えない」
政府の海洋放出方針決定(2021年4月13日)から2年余。この間、ずっと平行線。民意は無視されたままなのだ。
(了)
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