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【浪江原発訴訟】裁判長も涙目で聴いた最終意見陳述 相次いだバッシング、適正賠償得ぬまま旅立った町民たち…結審し判決言い渡しは来年3月14日

集団ADRでの和解案(慰謝料一律増額)を東京電力が6回にわたって拒否し続けた問題で、浪江町民が国や東電を相手取って起こした「浪江原発訴訟」の第19回口頭弁論が28日午後、福島地裁203号法廷(小川理佳裁判長)で行われた。代理人弁護士や役場職員として賠償請求支援に携わった女性原告が意見陳述。女性は「もっと早期に、もっと多くの被災者が存命のうちに適正な賠償をする機会が無数にあった」と涙ながらに訴えた。目に涙を浮かべながら聴き入った小川裁判長はこの日で弁論を終結(結審)。判決日を2024年3月14日15時に指定した。集団ADR申し立てから10年、提訴からは4年半。浪江町民の長い闘いはまだ終わらない。
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【答えに窮した「いつ帰れる?」】
 区域外避難者には冷淡な小川裁判長の目にも涙が浮かんでいた。
 女性原告が行った最終意見陳述。役場職員として町民の苦労と東電の不誠実な対応を目の当たりにしてきただけあって、言葉には迫力と重みがあった。
 「町民はそれぞれ避難状況に違いはありましたが、同等の被害を受けていると感じました。そして、みな一様に『月10万円の慰謝料は適正な賠償ではない』と憤っておりました。そのため、町は再三にわたり、東京電力に対し適正な賠償を要求しましたが、受け入れられることはありませんでした」
 先の見えない避難生活。多くの町民から『いつ浪江に帰れるのか』と尋ねられたという。しかし、答えられるはずもない。
 「『自分は年寄りで先は長くない。避難先で死ぬのは嫌だ。あなたの見立てで、いつ帰れるのか示してほしい』と懇願されたこともありました。除染もインフラ復旧もまだ始まったばかりで、答えようがありませんでした。帰還できるよう生活基盤を整えるには莫大な費用がかかります。町の財政でまかなえるものではなく、国に頼らざるを得ませんでした。そのため、町が帰還時期の見通しを立てることは不可能でした」
 東電社員と一緒に町民の避難先を訪れ、賠償請求書の作成支援をしたこともあった。
 「訪問先では、町民が口々に避難によるつらさ、苦しさを長時間話されました。友人や知人、家族と別離し、独りさびしく暮らす避難生活を目の当たりにし、何度も胸が締め付けられる想いをしました。訪問して直接見聞きした被害の実態を踏まえ、同行した東電社員を介して適正な賠償を求めましたが、納得のいく賠償はされませんでした。東電は被害の実態を目の当たりにしても適正な賠償をしませんでした。町民のために町が主導できることはADR申し立ての支援だということに行き着きました」
 そして2013年5月29日、浪江町は町民を代理して集団ADRを申し立てた
 「当時の馬場有町長は、被害の実態を明らかにし適正な賠償を求め、町民の生活再建が図られるようサポートするのが町としての当然の役割だと言いました」
 馬場町長の想いは、陳述書として公表された。しかし、世間の反応は強烈だった。

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(上)2018年6月27日に亡くなった馬場町長。ADR集団申立にあたっては、陳述書に「最後までサポートしていく」と決意を綴っていた
(中)代理人弁護士による意見陳述でも「避難先の差別や偏見」が取り上げられた
(下)最終意見陳述を行った女性原告は、世間からの強烈なバッシングを涙ながらに語った

【「もっと賠償しろとは何事だ」】
 「賠償支援係の電話は鳴りやみませんでした」
 全国各地からのバッシングだった。
 「批判、非難、誹謗中傷の電話でした。『月に10万円ももらっているくせに、もっと賠償しろとは何事だ』、『お前らは賠償金をもらって遊んで暮らして何様だ』との暴言や、なかには恫喝のようなものもありました。反響は覚悟のうえでしたが正直、想像を超えるものでした」
 インターネットでは、検索エンジンに「浪江町」と入力すると「浪江町 たかり」などと表示されるほどだった。
 「多くの町民が誹謗中傷を目にしたのだろうと思います。町が進めたADRによって、間接的であっても傷ついた町民がいると実感したことは、9年間の賠償請求支援業務のなかでもっとも苦しいことでした」
 何度働きかけても、何度要求書を提出しても、1万5700人以上ものADR申し立てで和解案が示されても、東京電力に受け入れられなかった損害…。国や東電の不誠実な対応に加え、世間のバッシングも加わった。女性は、こんな思いも吐露した。
 「全国各地からの誹謗中傷に対してはこれまで、『日常のすべてから引きはがされた避難生活は、経験をしなければ理解できない』と飲み込んで、心にふたをしてきました。9年間、町民から直接聴き、目の当たりにした被害の実態は到底、月額10万円で慰藉されるものではありません」
 今になって「追加賠償」の手続きが始まったが、馬場町長をはじめ多くの町民が天国に旅立ってしまった。東電が和解案を拒否している間に864人の町民が鬼籍に入った。この訴訟でも、2018年11月の提訴後に29人が亡くなっている。
 「東電のホームページには『亡くなられた方も、全額お支払いさせていただきます』とありますが、早期に適正な賠償がなされず、いわれのない非難や誹謗中傷により傷ついたまま亡くなられた町民にとっては、何の慰藉にもなりません」
 そもそも東電はなぜ、2014年に提示された和解案を受け入れなかったのか。なぜ今になって追加賠償なのか。
 女性は小川裁判長を正視して、こう締めくくった。
 「もっと早期に、もっと多くの被災者が存命のうちに適正な賠償をする機会が無数にあったことを考慮いただき、また東電の不誠実な対応により、馬場町長をはじめ多くの町民が適正な賠償を受けることなく無念のまま亡くなられた事実を真摯に受け止めていただき、どうか適正な判断をしていただきたい」

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(上)(中)東電が和解案を受け入れていれば起こす必要などなかった裁判。第1回口頭弁論期日では、原告たちが福島駅前で裁判の意義を訴えた
(下)団長として原告の先頭に立ってきた鈴木正一さん。「厳しいと思うが、みんなで喜べるような判決を期待したい」=福島市市民会館

【「みんなで喜べる判決を」】
 訴状などによると、原告たちは原発事故による損害賠償として「コミュニティ破壊慰謝料」、「避難慰謝料」、「被曝不安慰謝料」を合わせた1100万円、集団ADRの和解案を東電が違法に拒否したことによる精神的損害として110万円の計1210万円を一律に支払うよう請求している(総額88億5720万円)。
 提訴日は2018年11月27日。馬場有町長が亡くなって5カ月後の月命日が選ばれた。
 結審にあたり、原告弁護団は550ページにもおよぶ最終準備書面を提出。法廷では4人の女性代理人弁護士が①コミュニティを破壊されたことによる精神的損害②避難生活による精神的損害③被曝による将来健康被害が生じることへの不安等の精神的損害④本件原発事故に関する被告国の責任⑤被告東電の和解案受諾義務違反―について陳述した。
 ①では、昨年5月26日に実施された「現地進行協議」(裁判官が実際に現地を歩く、いわゆる現地検証)で訪れた場所のスライドを示しながら、原発事故が破壊したコミュニテイについて改めて主張。
 ⑤では、「(東電が)自由裁量によって賠償の要否等を決める立場にあるなどとは到底評価できません」、「東電は、ADR手続きにおいて示された和解案を『尊重』することを声高に、明確に対外的に表明し続けてきました」、「高齢者から『町が代理するから集団ADRに参加できる』という声も大変多く聞かれました」、「ADR手続きの打ち切りで、浪江町民は『町で解決できないものを個人で解決できるはずがない』というあきらめの気持ちを加速させていきました」、「浪江町民に深い精神的苦痛を与えたことは疑う余地はありません」などと、東電の和解案拒否を厳しく非難している。
 被告東電は約80ページの最終準備書面を提出。弁護団事務局長・濱野泰嘉弁護士によると、主に損害論(既に払いすぎとも言える賠償金を支払っている)についての主張を展開しているという。
 原告団長の鈴木正一さんは、閉廷後の報告集会で「集団ADRを取り仕切っていたのが、町長だった馬場有さんでした。馬場さんが亡くなったのが2018年6月27日。つまり昨日が5回目の命日。その翌日に結審しました。馬場さんとは、町議会で正副議長を4年間、務めた仲です(筆者注:鈴木さんは1987年から5期18年間、浪江町議を務めた)。私が原告団長を引き受けたのも、彼の遺志を受け継いでいきたいという思いからでした。いつも、どこかに馬場さんがいるような気がします」と話し、次のように語った。
 「厳しいと思うが、みんなで喜べるような判決を期待したい」



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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