fc2ブログ

記事一覧

【子ども脱被ばく裁判】原告団長「国や福島県による重大な人権侵害に正しい司法判断を」~仙台高裁で「親子裁判」控訴審が結審、判決言い渡しは12月18日

原発事故後の福島県内の被曝リスクや行政の怠慢を正面から問う「子ども脱被ばく裁判」の控訴審で、審理が分離された国家賠償請求訴訟(親子裁判)の第7回口頭弁論が7月31日午後、仙台高裁10号法廷(石栗正子裁判長)で行われた。原告団長の今野寿美雄さんが意見陳述。「国や福島県の人権侵害を助長しないような、法の番人としての判決を!」と力強く訴えた。石栗裁判長は弁論を終結させ、判決言い渡し日を12月18日15時に指定した。国連特別報告者も注目する国や福島県によるSPEEDI情報隠蔽や〝山下安全講演〟。石栗裁判長は子どもたちに無用な被爆を強いたと判断するか。
20230801083726cc9.jpg

【「司法は行政の人権侵害を正せ」】
 「忌々しい原発事故から12年、国や福島県の情報隠蔽、避難の権利や選択の問題を取り上げたこの裁判を提訴してから8年が経ちました。しかし、国や福島県は自分たちの過ちを認めず、何の反省もないまま〝次の原発事故〟に向かって突き進んでいるようにしか思えません」 
 原告団長・今野寿美雄さんは、傍聴席の最後列にまで届くような大きな声で、ゆっくりと意見陳述をした。
 昨年9月、国内避難民に関する国連特別報告者だったセシリア・ヒメネス=ダマリーさんの訪日調査がようやく実現した。今年6月に公表された報告書には、次のような表現がある。

 52「At the onset of the disaster, the failure to release SPEEDI emissions data, the lack of information justifying evacuation zones and attempts to downplay the severity of the situation prevented citizens from making informed decisions on evacuation and eroded trust in government information about radiation」

 当時の政府は「ただちに健康に影響ない」と盛んに口にした。山下俊一氏(福島県放射線健康リスク管理アドバイザー.)は福島県内を巡って〝安全講演〟をくり返した。SPEEDI情報は住民に開示されなかった。これら「大したことはないと思わせるような試み」によって、本来は十分な情報を得たうえで避難するべきか決定するべきなのにできなかった。
 政府が示した放射線情報は、当時も今も住民を安心させようとフィルターがかかったものばかりだ。ヒメネス=ダマリーさんが空間線量のモニタリング継続はもちろん、土壌汚染についても中立的な科学的情報を提示するよう求めている箇所もある。
 今野さんは「当時、福島県内に住んでいた18歳以下の子どもから、分かっているだけでも300人を超える小児甲状腺ガンが発症している。しかし、国も福島県も(原発事故の)放射能とは関係ないと言ってこの現実を放置している」として「年20ミリシーベルトでの避難指示解除、区域外避難者への住宅無償提供打ち切りなど、重大な人権侵害が堂々と行われている」と述べた。
 一審福島地裁を含め、被曝リスクや被曝強要と正面から向き合おうとしない裁判所に対し、今野さんは「これまでの判決は、これらの人権侵害を助長していることになります。法の番人である裁判所が憲法を活かそうとしないのでは『司法は死んだ』と言わざるを得ません。三権分立ならぬ三権連立、寄せ鍋状態です」と怒りを口にした。
 「いま司法が憲法を守り、行政を正す判断をしなければ日本の未来はありません。子どもたちは子どもたちだけでは自分を守れません。子どもたちを守るのは私たち大人の責任であり義務です」と改めて訴えた今野さん。
 「裁判所には、私たちの期待する判断をしていただきたい」と意見陳述を締めくくった。傍聴席から拍手が起こった。石栗裁判長は淡々とそれを制した。

20230801084029b06.jpg

20230801083732db4.jpg
(上)原告団長の今野寿美雄さん。意見陳述で「子どもたちは子どもたちだけでは自分を守れません。子どもたちを守るのは私たち大人の責任であり義務です」と訴えた
(下)判決は12月18日に言い渡される。原告(控訴人)も支援者も、忖度のない司法判断を心待ちにしている


【「国も福島県も無用な被曝をさせた」】
 法廷では、光前幸一弁護士が第13準備書面の要旨を説明。「国や福島県の違法行為は個々に、独立して行われたものでなく、ヒメネス=ダマリー氏がいみじくも指摘されたとおり、『事態の深刻さを軽視する試み』(attempt to downplay the severity of the situation)として連続、連環するものだ」と指摘した。
 この裁判は、2011年3月11日当時、福島県内に居住していた親子が原告で、被告は国と福島県。彼らの『5つの不合理な施策』(①SPEEDIやモニタリング結果など必要な情報を隠蔽した②安定ヨウ素剤を子どもたちに服用させなかった③それまでの一般公衆の被曝限度の20倍である年20mSv基準で学校を再開した④事故当初は子どもたちを集団避難させるべきだったのに、させなかった⑤山下俊一氏などを使って嘘の安全宣伝をした)―によって子どもたちに無用な被曝をさせ、精神的苦痛を与えたことに対する損害賠償(1人10万円)を求めている。
 国も福島県も住民にSPEEDI情報や空間線量を知らせず、適切な避難方法も提案しなかった。安定ヨウ素剤は配らず、県立高校の合格発表を屋外で行い、卒業式も実施。授業も再開した。
 光前弁護士は「原発の安全神話が事故への事前対策の不備を招き、さらに、これが発生した事故の過小評価、事故情報の不開示、隠蔽の積み重ねとなって、控訴人らの避難の自己選択権を奪い、無用な被曝を強い、将来の健康不安をもたらしている。事故情報の隠蔽は、事故直後の被曝状況調査の不作為を招き、被災者の今後の救済にも困難を負わせている」と述べた。
 そして、裁判所に対して次のように求めた。
 「裁判所におかれては、各原告(控訴人)が、法廷において必死の思いで語った無念の意見陳述を再読していただきたい。そこには、ダマリー氏が国連総会で報告された日本の情報公開の問題点(筆者注:訪日調査報告書は国連人権理事会に提出された)が、生の事実として語られている。個々の違法事由に通底するわが国行政の情報隠蔽体質を直視し、原審のような、違法事由を分解して皮相に取り上げ、テクニカルな形式判決に堕することのないことを切に期待する」
 石栗裁判長は弁論を終結させ、判決日を12月18日15時に指定した。原告(控訴人)側の弁護団は「判決言い渡しについては、主文だけでなく判決要旨の告知をお願いしたい」と求めた。石栗裁判長は「ご要望は(承った)」とだけ答えた。

20230801084312898.jpg

202308010849388a6.jpg
(上)原告(控訴人)の1人、佐藤美香さん(左)は閉廷後の報告集会で「子どもを守るのは大人の責任。体調は良くないが元気に判決を聞けるよう頑張りたい」。荒木田岳さん(右)は「第三者のように高みで見物している裁判所を当事者に引きずり込んだ良い意見陳述だった。良い判決を期待したい」と語った
(下)福島県中通りから県外に避難している女性原告(控訴人)は「勝つことしか考えていない。これからも支援をお願いしたい」と涙ながらに話した=仙台弁護士会館


【「裁判所は国際人権を無視できない」】
 ヒメネス=ダマリーさんの報告書は日本政府が翻訳しないため現在、有志を中心に研究者も交えて翻訳作業が行われている。仙台高裁には弁護団による仮訳が提出されたが、有志による日本語訳が完成した場合には差し替えるという。
 「実現する会」の代表世話人も務める田辺保雄弁護士は閉廷後の報告集会で「裁判所は国際人権を無視できないだろうと思う。国際社会からの指摘など、かなり詳細に説明をした。裁判官も法律家だし、私たちはきちんと筋の通った主張をしているわけだから『あなた方の独自の見解だろう』と切って捨てることはできないと思う。どういう判断をするか興味がある」と述べた。
 古川弁護士もヒメネス=ダマリーさんの報告書に触れ、「国際的には厳しく指弾されなければいけないことが、日本人ができない、日本のなかでできないということは非常に残念」と語った。「勝つべき裁判だが、日本の裁判所は少しおかしいので楽観はできない」。
 弁護団長の井戸謙一弁護士は、体調不良のためリモート参加した。
 「証人申請をずべて却下したという点では裁判所の姿勢を評価できないが、少なくとも主張レベルでは十分な機会をこちらに与えたと言える。国際人権の問題と裁量権の逸脱・濫用の問題を中心に主張を展開したが、主張を促すような石栗裁判長の発言もあった。単なる〝ガス抜き〟で、言いたいことを言わせるというものではなかったと信じて期待したい」
 2021年3月1日に福島地裁(遠藤東路裁判長)で言い渡された一審判決では、遠藤裁判長は「5つの不合理な施策」を1つ1つ否定。
 「本件原発事故当時の防災指針における避難等に関する指標は、放射線に対する感受性の強い子どもに合わせて統一されたものであり、ICRPやIAEAの国際的基準に照らしても合理性を有する」
 「(山下氏の講演会などでの発言は)一般聴衆に対する誤解を招く内容や不適切な表現を一部に含むものではあったが、放射線の健康被害に関する科学的知見を一般の参加者向けに平易に説明したものであり、原告らが主張するような評価(放射線の健康被害に関する科学的知見に著しく反する内容であるとか、混乱を避け福島県の経済復興を最優先課題とする発言であるなど)は相当ではなく、一部の発言については訂正し、積極的に誤解を与えようとする意図はうかがわれない」などとして請求を棄却した。



(了)
スポンサーサイト



プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)
https://www.facebook.com/taminokoe/


福島取材への御支援をお願い致します。

・auじぶん銀行 あいいろ支店 普通2460943 鈴木博喜
 (銀行コード0039 支店番号106)

・ゆうちょ銀行 普通 店番098 口座番号0537346

最新記事

最新コメント

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
ニュース
103位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
時事
50位
アクセスランキングを見る>>

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
ニュース
103位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
時事
50位
アクセスランキングを見る>>