【149カ月目の汚染水はいま】「海を汚されたくない」「広い海に流すしかない」…湘南の海でサーファーに聞いた「海洋放出計画に賛成？反対？」

反対の声を無視して今月末にも強行されようとしている原発汚染水の海洋放出計画。メディアで報じられるときに決まって枕詞になるのが「福島の漁業者」という言葉。いまのところ福島県漁連は反対の姿勢を貫いているが、そもそもこれは「福島の問題」なのだろうか。「漁業者の問題なのだろうか」。そこで、湘南の海でサーファーたちに海洋放出に賛成か反対か尋ねた。2月の代々木公園に続くシール投票。今回も賛否は分かれ、もっとも多かったのが「分からない」、「賛成とも反対とも決められない」だった。それでも国と東電は海洋放出を強行しようとしている。それは「しょうがない」ことですか？


【「本当に安全か分からない」】
　アニメの影響で多くの外国人観光客が写真を撮っていた江ノ電・鎌倉高校前駅で降りると、多くのサーファーが海に出ていた。声をかけたサーファーの大半が海洋放出計画に「NO」と言った。
　「本当に安全な水で海に流しても大丈夫という確証がないですから。本当に安全だと言うのなら飲んでみろよって言いたくなりますね。一般市民は本当に安全かどうかなんて分からない。中国が騒ぐ気持ちも分かります」
　砂浜で身体を休めていた40代男性は、きっぱりと言った。
　「そりゃ無関心ではないですよ。潮の流れから考えると湘南エリアに直接、福島から放出された水が流れてくることは恐らくないと思うけど、徐々に影響は出ると思うんですよね。原発事故後、原因不明で亡くなったり体調を崩したりする人がいるじゃないですか。それが放射能とまったく無関係とは思えないんですよね」
　東京都在住の20代男性は「自分としては（安全だという）確信が持てないので、海に流さない方がいいんじゃないかな」と答えた。やはり都内から波乗りに来ていた50代男性は「反対の理由？単純に海が汚れるから。身体に悪いんでしょ？海に流さないに越したことはないと思うんですよね」。地元の40代男性も「なんとなく汚いのは嫌だな…。昔、いわきによくサーフィンしに行っていたんですよ。原発事故後はなんとなく行きにくくなっちゃってますけど。海を汚されたくはないですね」と話した。
　賛成意見を口にしたのは地元の2人。共通していたのは「しょうがない」だった。
　「他に方法があるのなら海に流さない方が良いけど『処理水』ですよね？放射能などのリスクは取り除かれているということですよね？国と東電がそう言っているのであればなあ…結局は広い海に流すしかないんじゃないかなあ。めっちゃ消極的賛成ですけど、現実問題を考えるとしょうがないんじゃないかなあ」（50代、男性）
　「しょうがないんじゃないですか？だって溜めておくわけにはいかないじゃないですか。どうしようもないですよね。国や東電が安全に処理してくださると言っているので、そこを信用します。サーファーが海を汚されたくないって言うのもちょっと利己的で、海に入るから汚すなって言うのは違うと思いますよ」（40代、女性）



（上）湘南のサーファーの間でも意見が分かれた海洋放出問題。ただ、ほとんどが決めかねている様子で、賛成意見を明確に口にしたサーファーはほとんどいなかった
（下）今年2月、代々木公園で行われた「発見！ふくしまお魚まつり」会場で〝常磐もの〟を味わう人々40人にシール投票してもらった結果。このときも賛否は分かれた


【「子や孫に悪影響あるかも」】
　実は、サーファーの多くの答えが「分からない」、「賛成とも反対とも決められない」だった。
　「うーん、賛成とも反対とも言えないですね。基準値以下まで処理しているとは言っているけれど、どこまで本当なのか正直分からないです。本当に基準値以下になっているのであれば仕方ないかなとは思うけど、それでも怖いなとも思います」（東京都、20代、男性）
　「分からない。個人的には良いんじゃないかなあとは思うんですけど、ただ、詳しくは良く分からないから…そこまで知識がないので。きちんとしているのなら良いんじゃないかなとは思いますけどね。福島の漁師さんのことを考えると賛成とは言いにくいところはありますね」（神奈川県、50代、男性）
　「分からない。もう限界で海に流さなきゃいけないだろうし、でも問題はあるんだろうな…五分五分ってところです」（神奈川県、60代、男性）
　「分からないです。まったく関心ないです」とだけ答えた20代女性サーファーもいた。
　江の島では多くの大学ヨット部が合宿中。そのうちの1人が取材に応じてくれた。
　「どの情報を信じたら良いのか…国や東電の話を聴いていると大丈夫なのかなと思いますが、海に流す水が〝悪いもの〟であることには変わりないですよね。なので〝反対寄りの分からない〟です。もうすぐ流し始めちゃうんですか？環境に与える影響ももちろんですけど、それが風評被害につながるのであれば、なおさら反対ですね。良い気持ちはしないので、大手を振って賛成する人はいないと思いますよ」
　海で生計を立てている人々も意見が分かれた。
　腰越漁港の漁師は「他に方法がないんだもんな、やるっきゃねえべ。ただただ陸上保管を続けててもしょうがないしね。それをきれいにして流すわけだから。悪いことじゃねえと思うよ。国や東電が人体に影響がないって言ってるんだから」（40代男性）
　別の漁師は「すみません、どこまで安全なのかが分からないです。国際的な基準値を下回ってると言って流し始めて、いずれ人体に悪影響が出るかもしれないですし、でも、ずっと陸上保管を続けるわけにもいかない。賛否を決められないです」（30代男性）
　釣り船店を営む80代男性は「日本はきちんと管理して基準値まで下げられる国。国際的にも認められているんだから。中国のように偏屈な国は何でも反対。他国なんか黙って処理もせずに流してるかもしれないでしょ」ときっぱり。
　一方、70代男性は「いくら基準値以下にしていると言ったって、明確なあれ（確証）がないじゃん。いまは良いかもしれないけど、子や孫の世代に悪影響が出るかもしれないしね。白血病やガンを罹患しても国は『因果関係はない』って補償してくれないからね」と反対意見を語った。



多くの人でにぎわっていた江の島周辺の海。海洋放出問題は「福島」や「漁業者」だけの問題ではないが「遠い場所の話だし、あんまり話題にはならないですね」という声もあった


【「遠い場所の話」との声も】
　海洋放出計画を巡っては、岸田文雄首相が今月7日、「漁業者との信頼関係は少しずつ深まっていると認識をしている」と述べるなど、海に流す方針は全く変えていない。
　国も東電も「基準値以下にして海に流すので汚染水ではなく〝処理水〟」と強調しているが、一方で風評被害対策として海水浴シーズンや底曳網漁を考慮し、今月21日から31日の間に放出を始めるとの見方が有力だ。
　計画に移管して反対し続けている福島の市民団体「これ以上海を汚すな！市民会議」（織田千代、佐藤和良共同代表）は7月17日、福島県いわき市小名浜で「海の日アクション2023　汚染水を海に流すな！～海といのちを守るパレード～」を開催。
　共同代表の織田千代さんは「国も東電も『基準値以下に薄めて流すから問題ない』と言っています。薄めないと流せないもので、処理が完全にできていない『汚染水』だということです。どんなものが、いつまで流されるのか分かりません。間違いなく次の世代、その先までも汚染された海を手渡すことになってしまいます。『廃炉のため、復興のため海洋放出は避けて通れない』として、国と東電は流す流すと言っています。いったいなぜ、そんなに急ぐのでしょうか？そんな復興が本当の復興でしょうか？『関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない』という文書約束があります。約束をどうかしっかり守って、海洋放出をストップして欲しいです」と改めて放出計画の撤回を求めた。
　5月に都内で行われた抗議行動には韓国の女性たちも参加。
　「環境運動連合」のチェ・ギョンスクさんは「韓国でも多くの市民が汚染水海洋放出を心配しています。私は、海洋放出は〝国家の暴力〟だと考えています。反対する多くの声を無視するものだからです。視察団の派遣で海洋放出に〝お墨付き〟を与えるのなら、韓国政府も〝共犯〟です。今からでも、陸上での長期保管を決断していただきたい。海洋放出を放棄していただきたい」と訴えた。
　なお、今回の取材では「遠い場所の話だし、あんまり話題にはならないですね。今すぐに自分たちに悪影響が生じることがないので。すぐ近くで流すのなら別ですけど。でも、どんどん流したらいずれ、こちらにも影響が出るかもしれないですね。海はつながっているので。何も悪影響が出ないままなら良いですけどね」という漁師の声もあった。また、サーフショップを経営する男性は「汚染水って最初から決めつけてるんですね」と回答を拒否したことも付記しておきたい。

※海洋放出に関する過去記事は、ここをクリック


（了）