【原発汚染水を海に流すな】「理解も合意もしていないぞ!」首相官邸前でシュプレヒコール 「岸田首相は市民の声を聴け」と改めて海洋放出反対訴える
- 2023/08/20
- 07:38
今月末にも放出開始が強行されようとしている原発汚染水の海洋放出計画に対し、反対の意思を岸田文雄首相に伝えようと18日午前、福島県民や都民などが都内の首相官邸前に集まり、炎天下で大粒の汗を流しながら横断幕やプラカードを掲げながら「海洋放出反対」を改めて訴えた。参議院議員会館での集会では、経産省と東電に海洋放出しないよう求める要請書が提出されたほか、市民が次々とマイクを握り「代替案はある」、「いったん立ち止まって欲しい」と訴えた。「これ以上海を汚すな!市民会議」と「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」の共催。なお岸田首相は20日、福島第一原発を訪問する。市民の声を無視したまま。

【「ならぬことはならぬ」】
涙で言葉にならなかった。
福島県いわき市から参加した米山努さんは、こみ上げてくる涙をこらえきれず、何度も言葉に詰まった。
「いわきの自宅からは海が見えます。海を散歩するのが好きですから、毎日のように………5年くらい前から海洋放出の反対運動に………参加してきました。トリチウムは有害です。調べれば調べるほど、その有害性に驚かされます」
そう話すのが精一杯だった。院内集会が終わっても、米山さんの目には大粒の涙が浮かんでいた。そこには怒りがあり、無力感があり、切迫感があった。
「感極まってしまって、話したいことの半分も言えなかった。おそらく海洋放出されてしまうだろうという〝あきらめ〟も抱きながら運動してきた。でも、こんなに大勢の人が集まってくれて…」
声をあげてもあげても無視される。経産省資源エネルギー庁の官僚とどれだけ意見交換の場を持っても国や東電の意思は変わらない。岸田文雄首相は「聞く力」を掲げていたのではないのか。首相官邸前では、いないことにされ続ける市民たちが改めて怒りを爆発させた。
「岸田首相は日米韓首脳会合のためにアメリカに行ってしまっています。岸田首相が聴くべき声は米韓大統領の意向ではありません。聴くべきは、福島県内、日本国内、海外の多くの市民の声です」(武藤類子さん)
「多くの原発事故被害者が〝放射性液体廃棄物〟の海洋投棄に反対しています。でも、国や東電には文書約束を守る気配がありません。今日は、岸田首相に会津藩の『什の掟』を贈ります。そこには『嘘言(うそ)を言ふことはなりませぬ』、『ならぬことはならぬものです』と書かれています。ならぬことはならぬものです」(佐藤和良さん)
いまなお帰還困難区域に指定されている浪江町津島地区の三瓶春江さんも「私たちが住む津島地区の山だけでなく、今度は海までも汚す。世界が怒って良いと思います。子どもたちの命を守るためにがんばっていきたい」と語気を強めた。
海の問題なのだから津島の人々には関係ないじゃん、と思う人もいるだろう。三瓶さんに反対する理由をあえて尋ねた。
「問題として同じだからです。原発事故が起きなければ私たちも避難する必要がなかったし、海洋放出問題も生じなかった。私たちは山であり、海洋放出は海。同じだと思う。これが前例となって将来、どこかで原発事故が起きた場合に『日本が海に流したのだから良いでしょ』と言われてしまうようなことを私たちが許して良いのか。良くないですよね」
首相官邸前でシュプレヒコールをあげる市民たちに、強烈な陽射しは容赦なく照りつけた。警備にあたる警察官たちも厳しい目つきでにらみ続けた。





岸田文雄首相は渡米して不在だったが、多くの人が官邸前交差点に集まり、用意した横断幕やプラカードを掲げながら「海洋放出反対」を訴えた=東京都千代田区永田町
【「モルタル固化など代替案ある」】
参議院議員会館の会議室は、座りきれないほどの人であふれかえった。
「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表の織田千代さんはマイクの前に立った。人前でスピーチをするのはこれで何度目だろう。毎回毎回、緊張と怒りで声や手を震わせながら「海洋放出反対」を訴えてきた。官僚に何度も頭を下げた。福島県庁の職員にも東電社員にも、何度も何度も頭を下げた。
「一貫して海洋放出に反対し続けてきましたが、今月中にも海洋放出が始まると言われています。問題ないものなら、なぜ希釈する必要があるのでしょうか。原発事故被害者として、理解も納得もできません。不信感は募るばかりです。海洋放出は、原発事故後に再び人為的に放射能を拡げることを意味します。原発事故そのものを矮小化しているようにも見えます。事故を経験した大人の責任として、未来の子どもたちにきれいな海を手渡したい。約束を守ることの大切さを伝えたいのです。『海洋放出はやめて』と叫び続けましょう」
江の島取材では、多くのサーファーが「海に流すしか方法はないんでしょ」と口にした。武藤類子さんは「海洋放出しか方法がないわけではない」と強調した。
「堅牢な大型タンクでの保管。モルタル固化やコンクリート固化などの代替案が出されているではありませんか。他にできることがあるのにやらないのは政策として正しいとは思えません。ぜひ立ち止まってください、考え直してください。どうかよろしくお願い致します」
集会には経産省職員や東電社員も出席。岸田首相宛ての要請書を受け取った。
要請書は「海洋放出の強行は廃炉や被害回復を妨げ、漁業者や福島県民をはじめあらゆる関係者に不利益をもたらす恐れがあることから、いったん立ち止まり、2015年の福島県漁連等との文書約束を守って、汚染水の海洋放出はやめること」などい4項目を求めているが、経産省職員や東電社員は内容について一切コメントすることなく途中退室した。
経産省からは「経産省職員や東電社員に対し、氏名などを尋ねたり名刺交換をしたりしないこと」などの〝ルール〟が提示されており、声をかけたが答えることはなかった。東電社員は「経産省さんからそのように言われているので。われわれは従っているだけです」とだけ答えた。





①②経産省職員と東電社員に手渡された要請書。経産省からは「職員の特定につながる一切の行為を控えること」などとして背後からの撮影のみ許可された。東電社員も「経産省さんからそう言われている。われわれは従っているだけ」と同様だった
③「原発事故を経験した大人の責任として、未来の子どもたちにきれいな海を手渡したい」と、改めて海洋放出反対を訴えた織田千代さん
④⑤江の島のサーファーからも「海に流す以外に方法はない」との声が多く聞かれたが、代替案はある。「ALPS処理汚染水、押さえておきたい14のポイント」で詳しく解説されている
【弁護士「海洋放出は違法」】
日本有機農業研究会理事長で「東海第二原発差止訴訟」の原告でもある魚住道郎さんも「国際的な誤りをわれわれ人民が正さなければ誰が正すのか」と改めて海洋放出反対を表明。
「脱原発弁護団全国連絡会」共同代表の海渡雄一弁護士は、法的な面から「海洋放出は、国内法上も国際法上も違法だ」と話した。
「あの水は、原発事故後の国や東電の無策、遮水措置を講じなかったために増やしてしまった水です。間違って漏らすことはあっても、故意に海に流すなんてあり得ません。その結果、消費者が海産物を買わなくなるのは風評被害ではなく『正当な自衛行為』です。しかも、IAEAは報告書で『(海洋放出計画を)推奨も支持もしない』とはっきり書いている」
そして、裁判闘争を模索していることを明かした。
「脱原発弁護団としては、非常に困難な状況ではあるが、あらゆる努力を続けて何らかの裁判手続きで海洋放出を食い止める努力を続けていきたい」
参加者たちは「太平洋は東電のものではない」などのシュプレヒコールとともにプラカードを掲げ、改めて海洋放出反対を訴えた。きょう20日には岸田首相が昼前後に福島第一原発を訪れる。海洋放出設備の視察や東電幹部との意見交換が予定されているというが、海に流さないよう求めている市民の声には耳を傾けない。賛否を明言しないまま〝事実上の容認〟を続けてきた福島県の内堀雅雄知事に後押しされるように、今月中にも海洋放出を始めたい考えだ。
織田さんとともに反対運動の先頭に立ってきた佐藤和良さんは「仮に22日に政府が関係閣僚会議を開いて海洋放出日を決めたとしても、反対運動を続けてまいります。われわれもさまざまな法的な検討をしています。漁業者ばかりが矢面に立たされるのではなく、われわれひとりひとりが『関係者』です」と力を込めた。
関西から参加した水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)は、反対の声をあげ続ける人たちにエールを送るように、そして自らを鼓舞するように語った。
「まだまだ一部の人の話にとどまってしまっています。私の周囲でも『海に流す水は安全なんでしょ』という人が少なくないです。どうやって市民に拡げていくか。本気にならないと絶対に止められません」
なお、集会には山崎誠衆院議員、阿部知子衆院議員(いずれも立憲民主党)、岩渕友参院議員(日本共産党)、大椿ゆうこ参院議員(社民党)も参加した。
(了)

【「ならぬことはならぬ」】
涙で言葉にならなかった。
福島県いわき市から参加した米山努さんは、こみ上げてくる涙をこらえきれず、何度も言葉に詰まった。
「いわきの自宅からは海が見えます。海を散歩するのが好きですから、毎日のように………5年くらい前から海洋放出の反対運動に………参加してきました。トリチウムは有害です。調べれば調べるほど、その有害性に驚かされます」
そう話すのが精一杯だった。院内集会が終わっても、米山さんの目には大粒の涙が浮かんでいた。そこには怒りがあり、無力感があり、切迫感があった。
「感極まってしまって、話したいことの半分も言えなかった。おそらく海洋放出されてしまうだろうという〝あきらめ〟も抱きながら運動してきた。でも、こんなに大勢の人が集まってくれて…」
声をあげてもあげても無視される。経産省資源エネルギー庁の官僚とどれだけ意見交換の場を持っても国や東電の意思は変わらない。岸田文雄首相は「聞く力」を掲げていたのではないのか。首相官邸前では、いないことにされ続ける市民たちが改めて怒りを爆発させた。
「岸田首相は日米韓首脳会合のためにアメリカに行ってしまっています。岸田首相が聴くべき声は米韓大統領の意向ではありません。聴くべきは、福島県内、日本国内、海外の多くの市民の声です」(武藤類子さん)
「多くの原発事故被害者が〝放射性液体廃棄物〟の海洋投棄に反対しています。でも、国や東電には文書約束を守る気配がありません。今日は、岸田首相に会津藩の『什の掟』を贈ります。そこには『嘘言(うそ)を言ふことはなりませぬ』、『ならぬことはならぬものです』と書かれています。ならぬことはならぬものです」(佐藤和良さん)
いまなお帰還困難区域に指定されている浪江町津島地区の三瓶春江さんも「私たちが住む津島地区の山だけでなく、今度は海までも汚す。世界が怒って良いと思います。子どもたちの命を守るためにがんばっていきたい」と語気を強めた。
海の問題なのだから津島の人々には関係ないじゃん、と思う人もいるだろう。三瓶さんに反対する理由をあえて尋ねた。
「問題として同じだからです。原発事故が起きなければ私たちも避難する必要がなかったし、海洋放出問題も生じなかった。私たちは山であり、海洋放出は海。同じだと思う。これが前例となって将来、どこかで原発事故が起きた場合に『日本が海に流したのだから良いでしょ』と言われてしまうようなことを私たちが許して良いのか。良くないですよね」
首相官邸前でシュプレヒコールをあげる市民たちに、強烈な陽射しは容赦なく照りつけた。警備にあたる警察官たちも厳しい目つきでにらみ続けた。





岸田文雄首相は渡米して不在だったが、多くの人が官邸前交差点に集まり、用意した横断幕やプラカードを掲げながら「海洋放出反対」を訴えた=東京都千代田区永田町
【「モルタル固化など代替案ある」】
参議院議員会館の会議室は、座りきれないほどの人であふれかえった。
「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表の織田千代さんはマイクの前に立った。人前でスピーチをするのはこれで何度目だろう。毎回毎回、緊張と怒りで声や手を震わせながら「海洋放出反対」を訴えてきた。官僚に何度も頭を下げた。福島県庁の職員にも東電社員にも、何度も何度も頭を下げた。
「一貫して海洋放出に反対し続けてきましたが、今月中にも海洋放出が始まると言われています。問題ないものなら、なぜ希釈する必要があるのでしょうか。原発事故被害者として、理解も納得もできません。不信感は募るばかりです。海洋放出は、原発事故後に再び人為的に放射能を拡げることを意味します。原発事故そのものを矮小化しているようにも見えます。事故を経験した大人の責任として、未来の子どもたちにきれいな海を手渡したい。約束を守ることの大切さを伝えたいのです。『海洋放出はやめて』と叫び続けましょう」
江の島取材では、多くのサーファーが「海に流すしか方法はないんでしょ」と口にした。武藤類子さんは「海洋放出しか方法がないわけではない」と強調した。
「堅牢な大型タンクでの保管。モルタル固化やコンクリート固化などの代替案が出されているではありませんか。他にできることがあるのにやらないのは政策として正しいとは思えません。ぜひ立ち止まってください、考え直してください。どうかよろしくお願い致します」
集会には経産省職員や東電社員も出席。岸田首相宛ての要請書を受け取った。
要請書は「海洋放出の強行は廃炉や被害回復を妨げ、漁業者や福島県民をはじめあらゆる関係者に不利益をもたらす恐れがあることから、いったん立ち止まり、2015年の福島県漁連等との文書約束を守って、汚染水の海洋放出はやめること」などい4項目を求めているが、経産省職員や東電社員は内容について一切コメントすることなく途中退室した。
経産省からは「経産省職員や東電社員に対し、氏名などを尋ねたり名刺交換をしたりしないこと」などの〝ルール〟が提示されており、声をかけたが答えることはなかった。東電社員は「経産省さんからそのように言われているので。われわれは従っているだけです」とだけ答えた。





①②経産省職員と東電社員に手渡された要請書。経産省からは「職員の特定につながる一切の行為を控えること」などとして背後からの撮影のみ許可された。東電社員も「経産省さんからそう言われている。われわれは従っているだけ」と同様だった
③「原発事故を経験した大人の責任として、未来の子どもたちにきれいな海を手渡したい」と、改めて海洋放出反対を訴えた織田千代さん
④⑤江の島のサーファーからも「海に流す以外に方法はない」との声が多く聞かれたが、代替案はある。「ALPS処理汚染水、押さえておきたい14のポイント」で詳しく解説されている
【弁護士「海洋放出は違法」】
日本有機農業研究会理事長で「東海第二原発差止訴訟」の原告でもある魚住道郎さんも「国際的な誤りをわれわれ人民が正さなければ誰が正すのか」と改めて海洋放出反対を表明。
「脱原発弁護団全国連絡会」共同代表の海渡雄一弁護士は、法的な面から「海洋放出は、国内法上も国際法上も違法だ」と話した。
「あの水は、原発事故後の国や東電の無策、遮水措置を講じなかったために増やしてしまった水です。間違って漏らすことはあっても、故意に海に流すなんてあり得ません。その結果、消費者が海産物を買わなくなるのは風評被害ではなく『正当な自衛行為』です。しかも、IAEAは報告書で『(海洋放出計画を)推奨も支持もしない』とはっきり書いている」
そして、裁判闘争を模索していることを明かした。
「脱原発弁護団としては、非常に困難な状況ではあるが、あらゆる努力を続けて何らかの裁判手続きで海洋放出を食い止める努力を続けていきたい」
参加者たちは「太平洋は東電のものではない」などのシュプレヒコールとともにプラカードを掲げ、改めて海洋放出反対を訴えた。きょう20日には岸田首相が昼前後に福島第一原発を訪れる。海洋放出設備の視察や東電幹部との意見交換が予定されているというが、海に流さないよう求めている市民の声には耳を傾けない。賛否を明言しないまま〝事実上の容認〟を続けてきた福島県の内堀雅雄知事に後押しされるように、今月中にも海洋放出を始めたい考えだ。
織田さんとともに反対運動の先頭に立ってきた佐藤和良さんは「仮に22日に政府が関係閣僚会議を開いて海洋放出日を決めたとしても、反対運動を続けてまいります。われわれもさまざまな法的な検討をしています。漁業者ばかりが矢面に立たされるのではなく、われわれひとりひとりが『関係者』です」と力を込めた。
関西から参加した水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)は、反対の声をあげ続ける人たちにエールを送るように、そして自らを鼓舞するように語った。
「まだまだ一部の人の話にとどまってしまっています。私の周囲でも『海に流す水は安全なんでしょ』という人が少なくないです。どうやって市民に拡げていくか。本気にならないと絶対に止められません」
なお、集会には山崎誠衆院議員、阿部知子衆院議員(いずれも立憲民主党)、岩渕友参院議員(日本共産党)、大椿ゆうこ参院議員(社民党)も参加した。
(了)
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