【原発避難者から住まいを奪うな】「福島県は1日も早く〝追い出し訴訟〟取り下げて」清水奈名子教授が仙台で講演 「日本政府の人権侵害を世界が注視している」
- 2023/08/28
- 19:00
仙台高裁第3民事部(瀬戸口壯夫裁判長)が7月10日、福島県が2人の区域外避難者を相手取って起こした国家公務員宿舎からの〝追い出し訴訟〟控訴審をわずか30分で即日結審させた問題で、避難者側の意見書を書いた宇都宮大学国際学部教授の清水奈名子さん(国際機構論)が27日午後、宮城県仙台市内で「国際人権法と避難者の権利~国内避難民特別報告者による勧告と原発避難者立退き訴訟」と題して講演した。「国際人権法に照らしても一審判決は問題。避難者の権利が保障されていない」などと語った清水さんは「福島県職員が人々のためになるような仕事をするためにも、一日も早く訴えを取り下げていただきたい」と求めた。

【「12年経っても世界が注視」】
「国際人権法に照らしても一審判決は問題。避難者の権利が保障されていない」
清水さんはまず、今回の〝追い出し訴訟〟において国際人権法を参照する必要性や国際社会からの注目について解説した。
「今回の原発事故の最大の特徴は、原発事故に直接由来する一次被害だけではなく、事故後の対応策に由来する二次被害がどんどん増え続けているということです。その典型的な事例として今回の立ち退き裁判があると考えています」
しかし、わが国には原発事故に伴う長期避難を想定した国内法はない。低線量被曝を避ける権利を保障する国内法もない。
「これを『法の欠缺(けんけつ)』と言います。法制度がないときには、上位規範となる国際人権法や憲法を参照して政府の法的義務を確認する作業が必要となります」
原発事故に伴う避難者を「国内避難民」として権利保障するよう求める国際世論は高まっている。
「今年1月の第4回普遍的定期審査(UPR、4年半に一度、国連加盟国すべての国の人権状況が審査される制度)では、オーストリアが『福島原発事故による避難者を国内避難民として認識し、住居、健康、生活と子どもの教育を含む避難者の人権を確実に保障すること』と勧告。バヌアツも『強制や経済的ひっ迫を受けることなく、福島原発の近郊に人々が帰還する前に、国内避難民の安全、健康と権利に関するさらなる科学的エ ビデンスを明らかにすると同時に、それらを提供すること』と日本政府に求めています。世界はまだ見ているんです。発生から12年が経っても、避難者の人権が保障されているかどうか、国際社会はずっと注視しているんです」
昨年9月には、国内避難民に関する国連特別報告者だったセシリア・ヒメネス=ダマリーさんの訪日調査が4年がかりでようやく実現。報告書が7月に報告されたが、本件〝追い出し訴訟〟に関して踏み込んだ言及をしているという。
「ダマリーさんの報告書は102の段落で構成されていますが、権利の侵害(violation of their rights)という表現をしている箇所は、この立ち退き裁判に言及した第69段落だけです。いかに報告者がこの裁判の違法性を強く訴えたいと考えたかが分かります。人権理事会の基本的任務は対話と協力ですから『人権侵害だ』とはっきり言うのはよほどの場合だけです。また、自由権規約第12条に書かれた『移動・居住及び出国の自由』の侵害に至ると読み取れる報告をされたというのも重要です」






講演で「国際人権法に照らしても一審判決は問題。避難者の権利が保障されていない」、「1日も早く、福島県県の判断で裁判をやめてほしい」などと語った清水奈名子教授=仙台市戦災復興記念館
【憲法も「国際法規遵守」明記】
本件〝追い出し訴訟〟がダマリー報告書ではどのように言及されているのか。
「68段落では『公営住宅からの立ち退きを求めるだけではなく2倍家賃を請求している』と具体的問題に言及しています。そして69段落で『国内避難民がその生命や健康がリスクにさらされる恐れのある場所に不本意ながら帰還することを予防する対策がとられないまま、公営住宅から国内避難民を立ち退 かせることは、国内避難民等の権利の侵害であり、いくつかの事例では強制退去に相当すると特別報告者は考える』とはっきりと書いています」
「97段落も重要です。『福島からのすべての避難者は、避難指示による避難か原発災害の影響を懸念しての避難であるかを問わず、同じ権利を有する国内避難民である。すべての国内避難民は、いずれの持続可能な解決 策を追求するかについて意思決定するために必要な情報を取得し自らの意思によって決定する権利を有するが、これらは移動と居住の自由に由来する』と書いています。自由権規約に書かれた自由権だとはっきり書いているのです。避難指示区域内外で区別・差別をしないということと、移動と居住の自由を自らの意思で決定できるようにする法的義務を日本政府は負っているのだということ、それらが明記されています」
では、そのような勧告をどのように裁判に関連づけるか。
「日本国憲法98条2項に『日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に 遵守することを必要とする』と明記されています。また、自由権の自動執行性といって、国内法に変換されなくてもそのまま人々の権利保障のために援用できることが、多くの判例や学説で確認されているのです。『子ども被災者支援法』第2条2項にも『支援対象地域における居住、他の地域への移動及び移動前の地域への帰還についての選択を自らの意思によって行うことができるよう、被災者がそのいずれを選択した場合であっても適切に支援するものでなければならない』と書かれています。日本政府は法的には明らかに原発避難者が避難を継続する権利を保障する責任があるということが分かります」
清水さんは、現状を変えるのは市民社会だと協調した。
「国際的な権威がトップダウンで日本政府にああしろこうしろと言ってくれる問題ではありません。国際社会が注視していますよ、日本の国際人権基準が問われていますよ、これを補償することが日本に暮らす人々全体の権利を底上げして、より暮らしやすい社会に変わっていくチャンスなんですよ、と日本の市民社会が国際基準を使って日本政府に働きかけていく必要があります」


(上)講演会では、福島県から〝追い出し訴訟〟を起こされている男性が「原発事故避難者に対する住宅確保がいまの法律や制度にはない。私はその犠牲者だ」などとする意見陳述書を読み上げた
(下)弁護団は7月26日付で「弁論再開申立書」を仙台高裁に提出。近く、2回目の申し立てをするという
【「避難者はわがままじゃない」】
清水さんは「立ち退きを求められている方々が突飛な主張をしている、ほかの避難者はきちんと言うことをきいて我慢して戻っているもしくは自己責任で暮らしているのに、この人たちだけわがままを言っているんじゃないかというような切り取りをした報道なども目にした。そうではないということを確認したい。この方々の人権を保障することは、すべての被災者の(福島に残った方も含めて)権利保障につながるのです」とも強調した。
学会などに参加すると「清水さん、まだ原発事故の問題をやっているの?もう終わったんでしょ?」と言われることがあるという。
「控訴審がいきなり第1回口頭弁論で終結されて議論すらされないことが、そもそも知られていません。一方で、いつまでも被害を訴え続ける人たちが悪い、そういう人たちがいるから福島は復興できないんだ…という声があります。長期的に向き合わなければならない被害なのに、残念ながら研究者も含めてそのことが認識の外にある」
群馬県内に避難した人々が起こした集団訴訟(いわゆる「群馬訴訟」)の控訴審で、被告国が2019年9月11日付で東京高裁に提出した第8準備書面で、〝自主避難者〟の避難継続について次のように厳しい表現で否定した。
「平成24年1月以降について避難継続の相当性を肯定し、損害の発生を認めることは、自主的避難等対象区域での居住を継続した大多数の住民の存在という事実に照らして不当」
「低線量被ばくは放射線による健康被害が懸念されるレベルのものではないにもかかわらず、平成24年1月以降の時期において居住に適さない危険な区域であるというに等しく、自主的避難等対象区域に居住する住民の心情を害し、ひいては我が国の国土に対する不当な評価となるものであって、容認できない」
清水さんは言う。
「被害を言い続けると風評加害者だと言われてしまう。避難を継続することが福島に対して『被災地』のレッテルを貼り続けるとの批判があります。でも、栃木も含め、私たちは汚染地域で暮らさざるを得ないのです。その〝不都合な真実〟に私たちが向き合わなければ、本当に大きなツケを次世代に残してしまいます」
そして、福島県に訴えの取り下げを求めた。
「そもそも、福島県職員に追い出しの仕事を命じること自体、失礼だと思います。県の判断で裁判をやめて、別の支援策をしてくださることを望みたい。県職員が人々のためになるような仕事をするためにも、一日も早く取り下げていただきたいです」
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(了)

【「12年経っても世界が注視」】
「国際人権法に照らしても一審判決は問題。避難者の権利が保障されていない」
清水さんはまず、今回の〝追い出し訴訟〟において国際人権法を参照する必要性や国際社会からの注目について解説した。
「今回の原発事故の最大の特徴は、原発事故に直接由来する一次被害だけではなく、事故後の対応策に由来する二次被害がどんどん増え続けているということです。その典型的な事例として今回の立ち退き裁判があると考えています」
しかし、わが国には原発事故に伴う長期避難を想定した国内法はない。低線量被曝を避ける権利を保障する国内法もない。
「これを『法の欠缺(けんけつ)』と言います。法制度がないときには、上位規範となる国際人権法や憲法を参照して政府の法的義務を確認する作業が必要となります」
原発事故に伴う避難者を「国内避難民」として権利保障するよう求める国際世論は高まっている。
「今年1月の第4回普遍的定期審査(UPR、4年半に一度、国連加盟国すべての国の人権状況が審査される制度)では、オーストリアが『福島原発事故による避難者を国内避難民として認識し、住居、健康、生活と子どもの教育を含む避難者の人権を確実に保障すること』と勧告。バヌアツも『強制や経済的ひっ迫を受けることなく、福島原発の近郊に人々が帰還する前に、国内避難民の安全、健康と権利に関するさらなる科学的エ ビデンスを明らかにすると同時に、それらを提供すること』と日本政府に求めています。世界はまだ見ているんです。発生から12年が経っても、避難者の人権が保障されているかどうか、国際社会はずっと注視しているんです」
昨年9月には、国内避難民に関する国連特別報告者だったセシリア・ヒメネス=ダマリーさんの訪日調査が4年がかりでようやく実現。報告書が7月に報告されたが、本件〝追い出し訴訟〟に関して踏み込んだ言及をしているという。
「ダマリーさんの報告書は102の段落で構成されていますが、権利の侵害(violation of their rights)という表現をしている箇所は、この立ち退き裁判に言及した第69段落だけです。いかに報告者がこの裁判の違法性を強く訴えたいと考えたかが分かります。人権理事会の基本的任務は対話と協力ですから『人権侵害だ』とはっきり言うのはよほどの場合だけです。また、自由権規約第12条に書かれた『移動・居住及び出国の自由』の侵害に至ると読み取れる報告をされたというのも重要です」






講演で「国際人権法に照らしても一審判決は問題。避難者の権利が保障されていない」、「1日も早く、福島県県の判断で裁判をやめてほしい」などと語った清水奈名子教授=仙台市戦災復興記念館
【憲法も「国際法規遵守」明記】
本件〝追い出し訴訟〟がダマリー報告書ではどのように言及されているのか。
「68段落では『公営住宅からの立ち退きを求めるだけではなく2倍家賃を請求している』と具体的問題に言及しています。そして69段落で『国内避難民がその生命や健康がリスクにさらされる恐れのある場所に不本意ながら帰還することを予防する対策がとられないまま、公営住宅から国内避難民を立ち退 かせることは、国内避難民等の権利の侵害であり、いくつかの事例では強制退去に相当すると特別報告者は考える』とはっきりと書いています」
「97段落も重要です。『福島からのすべての避難者は、避難指示による避難か原発災害の影響を懸念しての避難であるかを問わず、同じ権利を有する国内避難民である。すべての国内避難民は、いずれの持続可能な解決 策を追求するかについて意思決定するために必要な情報を取得し自らの意思によって決定する権利を有するが、これらは移動と居住の自由に由来する』と書いています。自由権規約に書かれた自由権だとはっきり書いているのです。避難指示区域内外で区別・差別をしないということと、移動と居住の自由を自らの意思で決定できるようにする法的義務を日本政府は負っているのだということ、それらが明記されています」
では、そのような勧告をどのように裁判に関連づけるか。
「日本国憲法98条2項に『日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に 遵守することを必要とする』と明記されています。また、自由権の自動執行性といって、国内法に変換されなくてもそのまま人々の権利保障のために援用できることが、多くの判例や学説で確認されているのです。『子ども被災者支援法』第2条2項にも『支援対象地域における居住、他の地域への移動及び移動前の地域への帰還についての選択を自らの意思によって行うことができるよう、被災者がそのいずれを選択した場合であっても適切に支援するものでなければならない』と書かれています。日本政府は法的には明らかに原発避難者が避難を継続する権利を保障する責任があるということが分かります」
清水さんは、現状を変えるのは市民社会だと協調した。
「国際的な権威がトップダウンで日本政府にああしろこうしろと言ってくれる問題ではありません。国際社会が注視していますよ、日本の国際人権基準が問われていますよ、これを補償することが日本に暮らす人々全体の権利を底上げして、より暮らしやすい社会に変わっていくチャンスなんですよ、と日本の市民社会が国際基準を使って日本政府に働きかけていく必要があります」


(上)講演会では、福島県から〝追い出し訴訟〟を起こされている男性が「原発事故避難者に対する住宅確保がいまの法律や制度にはない。私はその犠牲者だ」などとする意見陳述書を読み上げた
(下)弁護団は7月26日付で「弁論再開申立書」を仙台高裁に提出。近く、2回目の申し立てをするという
【「避難者はわがままじゃない」】
清水さんは「立ち退きを求められている方々が突飛な主張をしている、ほかの避難者はきちんと言うことをきいて我慢して戻っているもしくは自己責任で暮らしているのに、この人たちだけわがままを言っているんじゃないかというような切り取りをした報道なども目にした。そうではないということを確認したい。この方々の人権を保障することは、すべての被災者の(福島に残った方も含めて)権利保障につながるのです」とも強調した。
学会などに参加すると「清水さん、まだ原発事故の問題をやっているの?もう終わったんでしょ?」と言われることがあるという。
「控訴審がいきなり第1回口頭弁論で終結されて議論すらされないことが、そもそも知られていません。一方で、いつまでも被害を訴え続ける人たちが悪い、そういう人たちがいるから福島は復興できないんだ…という声があります。長期的に向き合わなければならない被害なのに、残念ながら研究者も含めてそのことが認識の外にある」
群馬県内に避難した人々が起こした集団訴訟(いわゆる「群馬訴訟」)の控訴審で、被告国が2019年9月11日付で東京高裁に提出した第8準備書面で、〝自主避難者〟の避難継続について次のように厳しい表現で否定した。
「平成24年1月以降について避難継続の相当性を肯定し、損害の発生を認めることは、自主的避難等対象区域での居住を継続した大多数の住民の存在という事実に照らして不当」
「低線量被ばくは放射線による健康被害が懸念されるレベルのものではないにもかかわらず、平成24年1月以降の時期において居住に適さない危険な区域であるというに等しく、自主的避難等対象区域に居住する住民の心情を害し、ひいては我が国の国土に対する不当な評価となるものであって、容認できない」
清水さんは言う。
「被害を言い続けると風評加害者だと言われてしまう。避難を継続することが福島に対して『被災地』のレッテルを貼り続けるとの批判があります。でも、栃木も含め、私たちは汚染地域で暮らさざるを得ないのです。その〝不都合な真実〟に私たちが向き合わなければ、本当に大きなツケを次世代に残してしまいます」
そして、福島県に訴えの取り下げを求めた。
「そもそも、福島県職員に追い出しの仕事を命じること自体、失礼だと思います。県の判断で裁判をやめて、別の支援策をしてくださることを望みたい。県職員が人々のためになるような仕事をするためにも、一日も早く取り下げていただきたいです」
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(了)
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