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【福島原発かながわ訴訟】「汚染続くわが家にどうして住めるか」法廷で〝バーチャル現地検証〟 次回期日でようやく結審、来春にも判決~東京高裁で控訴審第20回口頭弁論

福島第一原発の事故で神奈川県内に避難した人々が国と東電を相手取って起こした「福島原発かながわ訴訟」(村田弘原告団長)の控訴審。第20回口頭弁論が25日、東京高裁101号法廷(志田原信三裁判長)で行われた。年地進行協議(いわゆる〝現地検証〟)に代わり一審原告数人の避難元自宅などでのインタビュー映像を放映。改めて避難指示線引きの不合理性や原発事故で奪われたものの大きさを訴えた。次回期日は10月6日14時。維新原告2人や弁護団が意見陳述をして弁論は終結する。2019年2月の一審・横浜地裁判決から4年余。4人の裁判長交代を経て、来春にも半月が言い渡される。
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【「避難指示の線引き、不合理」】
 法廷に動画が流された。志田原裁判長も身体を横に向けてモニターに見入った。一審原告の避難元の現状を少しでも裁判官たちに理解してもらおうと、7月下旬に2日間にわたって撮影された3時間を超える映像を35分間に編集したダイジェスト版。そこには、閉廷後の報告集会で「とても分かりやすかった」との声が続出するほど一審原告たちの想いが凝縮されていた。
 富岡町の男性原告は、定年退職後の余生を過ごす地に富岡を選び、丸2年かけて自分で土地を開墾した。それが全部、放射性物質に汚された。男性は黒澤知弘弁護士に向かって、何度も「悔しい」と口にした。
 「長い時間をかけて育て上げてきた夢が実現し始めたときでした。どう考えても戻れる状況にはありません。土壌汚染が続いているのに、どうして住むことができますかね。自宅は居住制限区域に指定されましたが、50メートルほど先は帰還困難区域。でも、状況は変わらないんですよ」
  同じく富岡町の女性原告は、実家が夜ノ森地区の居住制限区域にあった。いまは解体されてさら地になってしまっている。
 「ほんの少し先は帰還困難区域です。当たり前ですが、事故前は散歩をしたりしていました。避難指示の線引きの理由が分からないです。合理性はないと思います。納得できません。戻って生活できると言いますが、ここで安全安心の生活をするのは難しいと思います。戻れないです。裁判官は、それをよく考えてください」
  浪江町の女性原告は、自宅が居住制限区域に指定された。自宅を訪れるのは5年ぶり。雑草が伸び放題で、玄関にたどり着くのがやっとだった。
 「30年ローンを組んだのに、18年しか住めませんでした…。言葉もないですね。子どもたちは『なかったことにされたんだから、前を向くしかない』と言っています。過去が何もなくなるというのは寂しいです。私たちが何か悪いことでもしたのでしょうか?。浪江小学校も浪江中学校も取り壊されてさら地になってしまった。お金では買えない、得がたい思い出、築き上げたものがゼロになりました。1日も早く避難者の気持ちに寄り添って解決していただきたいです」
 原告団長・村田弘さんの自宅は南相馬市小高区にある。玄関脇、雨樋直下で弁護士が持参した線量計は3マイクロシーベルトを超え、傍聴席からどよめきが起こった。
 「長年の夢だった晴耕雨読の生活を奪われました。昨年6月の最高裁判決は多分に政治的だと思います。法律に基づいて正当に判断していただきたい。勇気をもって判決を書いていただきたいです」
  いわき市の男性原告は言う。
 「〝自主避難〟は、強制避難よりも過酷な人生を強いられたということ、10年以上にわたってどれだけの苦労があったかということを、分かっていただきたい」
 映像ではずっと、セミの鳴き声と線量計の音が交錯していた。

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(上)「裁判官は書面だけしか読んでいないので実感がないと思う」と〝バーチャル現地検証〟の意義について語った村田原告団長。=日比谷図書文化館・日比谷コンベンションホール
(下)黒澤知弘弁護士(左)は「次善の策だったが、避難指示区域線引きの不合理性やふるさとが失われることの可視化はできたのではないか」と振り返った=東京高裁


【担当部3回、裁判長4人交代】
 当然ながら、こんな〝バーチャル現地検証〟ではなく、実際に志田原裁判長らに実際に避難元の状況を見てもらいたいというのが原告たちの願いだ。しかし、そこには現地進行協議という名の現地検証実施を泣く泣く断念せざるを得ない事情があった。弁護団長の水地啓子弁護士が解説する。
 「2019年12月に控訴審の第1回口頭弁論が行われましたが、4年間で担当部が第21民事部、第23民事部、第1民事部と3回変更され、裁判長は定塚誠、白石哲、小野瀬厚、志田原信三と4人交代しました。第1民事部の志田原裁判長が担当することになったのは良いけれど、今度は定年で退官が近いと。退官まであと1年あれば、こちらも現地を訪れて欲しいと言えましたが…」
 裁判長の交代は、われわれが考えている以上に原告たちに時間的な負担を強いるという。
 「裁判長の交代はただ単に審理の進行が1カ月遅れるだけ、というものではありません。すべてを理解しなければ責任をもって判決を書けないので、それまでに提出された書面や法廷で行われた意見陳述などを読むだけでは駄目なんです。だから、そのたびに〝ふりだし〟に戻ることになってしまうのです。われわれが精一杯伝えたものを理解してくださった方がいなくなっちゃう。簡単な裁判であれば弁論を更新して書面を読んでいただければ良いが、これだけの裁判ではそうはいきません」
 〝バーチャル現地検証〟はそういう苦悩のなかから生まれた苦渋の代替案だった。
 「だから現地進行協議の要請を取り下げたのです。それで次善の策をやろうと7月下旬に浜通りを訪れて原告さんのインタビューを撮影したのです」
 弁護団事務局長の黒澤弁護士も「本来は、一審・横浜地裁と同じように現地進行協議をやりたかった。ただ、結審がいつになるかという話と裁判長の定年が迫っているなかで、現実問題として現地に行くのがなかなか難しい。それならばわれわれが現地を撮影してこようということになりました。次善の策ではあるが、避難指示区域線引きの不合理性やふるさとが失われることの可視化はできたのではないか。裁判官にはある程度伝わったのではないかと思う」と語った。
 かたくなに現地進行協議を求めることはできる。そうすれば結審・判決はさらに遠のく。ただでさえ、これまで裁判所の勝手な都合で裁判長が次々と交代した。だから、今年7月20日の進行協議では①8月25日の口頭弁論で結審すること②現在の裁判体で判決文を作成し、早期に判決を下すこと③東電や国は新興に協力すること―を求める原告団要請書を提出。「これ以上の先送りは耐えられません」と訴えた。
 「原告らにとっての年月の経過は『命がけ』であることにも留意していただきたい」

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(上)これまでの控訴審の経緯と原告団要請書(かながわ原告団だより第57号より)
(下)神奈川県に避難した原発事故被害者たちも人生を大きく狂わされた。来春にも東京高裁の判断が示される


【「俺たちの時間も返せ」】
 閉廷後の報告集会で村田さんは「裁判官は書面だけしか読んでいないので実感がないと思う。法廷で流された映像に映っていることは書面からは分からないと思います」と映像放映の意義を語った。
 今回の撮影で久しぶりに避難元の自宅に帰ったという村田さん。毎回、避難策の自宅に戻ると2日間ほどダウンしてしまうという。
 「原発事故被災者はみな、必死に事故発生当時のことを封印して忘れようとしているわけです。でも、自宅を訪れると事故後のことが次々とフラッシュバックしてきて精神的に参ってしまいます」
 そして「時間を返せ」と怒りを口にした。
 「今回、自宅を訪れてみて改めて感じたのは『時間の重さ』です。裁判ではずっと『暮らしを返せ』、『ふるさとを返せ』と訴えてきましたが、これに『時間を返せ』を加えたいくらいです。自宅の本棚を眺めていたら『原発事故などなくここで12年間暮らしていたら、詩集の一冊くらい書き上げられたんじゃないか』と思いました。そういうものをみな抱えていると思います。そういうことを、どうやって第三者に理解してもらうか。今日のようなやり方なら見応えがあると思いました」
 法廷では、弁護団が「東電株主代表訴訟」の写真資料を活用しながら「水密化がいかに容易であったか」について陳述した。
 2019年12月に始まった控訴審は次回10月の期日で結審。来春にも判決が言い渡される。
 黒澤弁護士は「被害の可視化をしながら『情』と『理』をしっかりとおさえていきたい。次回は2時間かけて、これまでの主張をわかりやすく整理することになると思う」と語った。



※関連記事
【福島原発かながわ訴訟】「これぞ文字や写真では伝わらない原発事故被害の実態」。横浜地裁の裁判官らが浜通りを縦断~非公開の〝現地検証〟を独占取材 http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/blog-entry-224.html

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【福島原発かながわ訴訟】原発事故から8年9カ月、東京高裁での控訴審始まる。原告団長・村田さんが意見陳述「人間としての尊厳回復する判決を」 http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/blog-entry-396.html


(了)
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