【原発避難者から住まいを奪うな】「国家公務員宿舎の費用は福島県に求償するべき」 鴨下さん追い出し訴訟、都担当者の証人尋問を申請へ~東京地裁で第8回口頭弁論
- 2023/09/17
- 18:37
福島県いわき市から原発避難し、都内の国家公務員宿舎に入居した鴨下祐也さん(「福島原発被害東京訴訟」原告団長)に対する〝追い出し訴訟〟第8回口頭弁論が4日、東京地裁606号法廷(金澤秀樹裁判長)で行われた。鴨下さん側は第4準備書面を陳述。原発事故に伴う住宅費用は福島県に求償するべきと主張したほか、東京都担当者に対する証人尋問を申請する意向を示した。東京都側は証人尋問は必要ないと却下を求めた。次回期日は11月29日午前10時。東京地裁615号法廷で行われる。金澤裁判長が人証申請を却下したうえで審理を終結させる可能性もあるという。

【「都担当者の証人尋問を」】
「主張としてはこれでひと区切り、という理解でいます」
金澤裁判長は法廷で、証人尋問について被告(鴨下さん)側の意思を確認した。
「少なくとも東京都の担当者の尋問をさせていただきたいと考えている」と代理人の平松真二郎弁護士が答えると、金澤裁判長は重ねて「何を聞くのか」と尋ねた。
「こちらは『東京都から明け渡しを求められる法的な理由はない』と考えているので、どのような検討がされて提訴に至ったのかを明らかにしたい」(平松弁護士)
この日陳述された第4準備書面で、被告(鴨下さん)側は次のように主張している。
・「原告(東京都)が国との間で金銭支払いの約束をしたことをもって原告に固有の損害が発生していると評価できるものではない。そもそも原告には損害が生じておらず請求は棄却されるべき」
・「被告が本件建物の占有使用を継続していることと、原告が訴外国との間で締結した確認書によって債務を負担したこととの間には因果関係が存在しない」
・「原告と国との間の確認書は災害救助法に基づく災害救助事業に係る費用の負担の合意であり、その費用は公費で支弁されるべき」
・「原告と国との間で本件建物の一時使用許可をめぐって生じた損害等の費用は、災害救助事業に係る経費であり、地方財政法10条の3第1号の『災害救助事業に要する経費』に該当する」
・「原告が国から使用許可を受けて被告に供与した本件建物について発生する使用料相当損害金は災害救助事業のために要した費用であり、災害救助法20条1項に基づいて被災県である福島県に対して求償すべき」
当然ながら、原告・東京都の代理人弁護士は都職員の証人尋問などさせたくない。法廷で改めて「こちらは50以上の客観証拠を提出している。証人(都担当者)の記憶の減退もあり、証人尋問の必要はない」と主張した。
金澤裁判長は「改めて東京都から意見を聴いたうえで裁判所が判断することになる。証人尋問の必要性について、通常の申請よりも詳しめに書いてお出しいただく方がいい。ご検討を」と述べた。
弁論は10分ほどで終了。被告側は10月11日までに申請書類を提出。それを受けて、原告・東京都は11月12日までに反論の書面を裁判所に提出することになった。次回11月29日の期日で裁判所の判断が示される見通しだ。

東京地裁前でスピーチした鴨下さん。「残念ながら、被曝リスクに『しきい値』はありません。ここから下は安全、というような〝放射線安全値〟は科学的にはないのです。だから、健康でいるためには避難を続けざるを得ない。自分勝手だとか、そういうことではありません」などと訴えた
【「避難者に請求すべきでない」】
閉廷後の報告集会で、平松弁護士は「鴨下さんが国家公務員宿舎への入居を続けたことによって東京都に損害は発生していない」と改めて強調した。
「東京都は国から損害金の支払いを約束させられているが、約束をさせられたことと鴨下さんが入居を続けたこととの間には因果関係はありません。東京都が勝手に、国から約束をさせられただけのこと。仮に東京都が国に何らかの支払いをしなければならなくなったとしても、それは災害救助法に基づく支出。地方財政法上は都が負担したうえで福島県に支払いを求めるのが筋です。鴨下さん個人に請求するべきものではありません」
なお、鴨下さんは今年1月27日、東京都に対し明け渡しの届け出を提出。現在は退去しているため、東京都は明け渡し請求は取り下げた。そのため、区域外避難者への住宅無償提供が打ち切られた後の2017年4月1日から2023年1月27日までに発生したと都が主張している「損害金」の支払いが争点となっている。
「明渡し請求自体が権利濫用で法的に認められません。なので、損害を避難者に請求すること自体が権利濫用であるとの主張を維持しています。東京都はこちらの主張に明確に反論しないということなので、次回までに必要な証人を申請します。東京都は鴨下さんに280万円ほどを請求していますが、都の担当者に法廷に出てきてもらって、この金額の根拠や『確認書』を国と交わした経緯を明らかにしなければ判決も書けないのではないかということです。少なくとも都の担当者には、どうしてこんな裁判が起こされたのかを説明してもらわなければいけません」(平松弁護士)
鴨下さん側の主張は出尽くしているため、証人尋問が採用されなければ次回期日で結審する可能性があるという。
平松弁護士は「証人尋問が採用されなくても、こちらにとって決定的な不利ということではない。しかし、本来明らかにされるべきことが明らかにされないまま判決が言い渡されることになります」と語った。
福島県が2020年3月、区域外避難者を相手取り国家公務員宿舎「東雲住宅」(東京都江東区)の明け渡しと未納家賃の支払いを求めて起こした〝追い出し訴訟〟では、避難者側が2人の当事者や国際人権法の専門家2人、東京都都市整備局幹部、内堀知事の計6人に対する尋問を申請。しかし、福島地裁(小川理佳裁判長)はすべて却下。福島県の主張を全面的に採用する判決を言い渡している(今月27日に仙台高裁で控訴審判決が言い渡される予定)。


国と東京都が交わした「確認書」の一部。3年前から毎年5月に締結されている。平松弁護士は「東京都は積極的に避難者に明け渡しを求める考えはなかったようだが、確認書を交わしてしまった手前、放っておけなくなってしまい訴えを起こした」と話す
【突如、国と都で「確認書」】
原発事故がなければ避難する必要などなかった。それが「発生からもう6年も経った」と一方的に住宅提供を打ち切られ、裁判で多額の費用を請求されている鴨下さん。報告集会では「私たちが何か悪いことをしたわけではない。放射能をぶち巻かれて自宅を使えなくされてしまったのだから代わりの家を提供されるのは当然の話です」と語気を強めた。
東京都住宅政策本部は2021年5月14日付で財務省関東財務局東京財務事務所と「確認書」を交わした。国は、国家公務員宿舎について2016年4月1日から2017年3月31日までの使用許可を与えたうえで、使用許可期間を過ぎても明け渡さない場合には「(東京都は国に)損害額に相当する金額を損害賠償として支払わなくてはならない」と定めている。
同様の「確認書」は2022年5月13日付、今年5月12日付が存在し、内容は同じ。しかし、避難当事者である鴨下さんは東京都が国と確認書を交わしていることなどまったく知らなかった。まさに〝蚊帳の外〟に置かれた状態だった。そして、その確認書を振りかざして東京都は〝追い出し訴訟〟を起こしている。
平松弁護士は「国が『なんとか避難者を追い出せ』ということで3年前に突如、確認書なるものを交わして東京都に対して損害金の支払いを約束させた。東京都は積極的に避難者に明け渡しを求める考えはなかったようだが、確認書を交わしてしまった手前、放っておけなくなってしまい訴えを起こした。東京都は国にやらされている形だから、積極的な主張や立証はしていない」と話す。
鴨下さんも「都の担当者は『裁判などやりたくない』と言っていた」と明かす。とはいえ、積極的であれ消極的であれ、避難先自治体から訴えられ被告にさせられ、住まいから追い出される当事者の負担はどれだけのものか。
「国と東京都で勝手に話し合って〝損害金額〟決めて避難者から取ってしまえなんて、乱暴なことだと思います。」と鴨下さん。支援者に謝意を示しながら「裁判長には、まともな判決を書いていただきたいです」と語った。
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(了)

【「都担当者の証人尋問を」】
「主張としてはこれでひと区切り、という理解でいます」
金澤裁判長は法廷で、証人尋問について被告(鴨下さん)側の意思を確認した。
「少なくとも東京都の担当者の尋問をさせていただきたいと考えている」と代理人の平松真二郎弁護士が答えると、金澤裁判長は重ねて「何を聞くのか」と尋ねた。
「こちらは『東京都から明け渡しを求められる法的な理由はない』と考えているので、どのような検討がされて提訴に至ったのかを明らかにしたい」(平松弁護士)
この日陳述された第4準備書面で、被告(鴨下さん)側は次のように主張している。
・「原告(東京都)が国との間で金銭支払いの約束をしたことをもって原告に固有の損害が発生していると評価できるものではない。そもそも原告には損害が生じておらず請求は棄却されるべき」
・「被告が本件建物の占有使用を継続していることと、原告が訴外国との間で締結した確認書によって債務を負担したこととの間には因果関係が存在しない」
・「原告と国との間の確認書は災害救助法に基づく災害救助事業に係る費用の負担の合意であり、その費用は公費で支弁されるべき」
・「原告と国との間で本件建物の一時使用許可をめぐって生じた損害等の費用は、災害救助事業に係る経費であり、地方財政法10条の3第1号の『災害救助事業に要する経費』に該当する」
・「原告が国から使用許可を受けて被告に供与した本件建物について発生する使用料相当損害金は災害救助事業のために要した費用であり、災害救助法20条1項に基づいて被災県である福島県に対して求償すべき」
当然ながら、原告・東京都の代理人弁護士は都職員の証人尋問などさせたくない。法廷で改めて「こちらは50以上の客観証拠を提出している。証人(都担当者)の記憶の減退もあり、証人尋問の必要はない」と主張した。
金澤裁判長は「改めて東京都から意見を聴いたうえで裁判所が判断することになる。証人尋問の必要性について、通常の申請よりも詳しめに書いてお出しいただく方がいい。ご検討を」と述べた。
弁論は10分ほどで終了。被告側は10月11日までに申請書類を提出。それを受けて、原告・東京都は11月12日までに反論の書面を裁判所に提出することになった。次回11月29日の期日で裁判所の判断が示される見通しだ。

東京地裁前でスピーチした鴨下さん。「残念ながら、被曝リスクに『しきい値』はありません。ここから下は安全、というような〝放射線安全値〟は科学的にはないのです。だから、健康でいるためには避難を続けざるを得ない。自分勝手だとか、そういうことではありません」などと訴えた
【「避難者に請求すべきでない」】
閉廷後の報告集会で、平松弁護士は「鴨下さんが国家公務員宿舎への入居を続けたことによって東京都に損害は発生していない」と改めて強調した。
「東京都は国から損害金の支払いを約束させられているが、約束をさせられたことと鴨下さんが入居を続けたこととの間には因果関係はありません。東京都が勝手に、国から約束をさせられただけのこと。仮に東京都が国に何らかの支払いをしなければならなくなったとしても、それは災害救助法に基づく支出。地方財政法上は都が負担したうえで福島県に支払いを求めるのが筋です。鴨下さん個人に請求するべきものではありません」
なお、鴨下さんは今年1月27日、東京都に対し明け渡しの届け出を提出。現在は退去しているため、東京都は明け渡し請求は取り下げた。そのため、区域外避難者への住宅無償提供が打ち切られた後の2017年4月1日から2023年1月27日までに発生したと都が主張している「損害金」の支払いが争点となっている。
「明渡し請求自体が権利濫用で法的に認められません。なので、損害を避難者に請求すること自体が権利濫用であるとの主張を維持しています。東京都はこちらの主張に明確に反論しないということなので、次回までに必要な証人を申請します。東京都は鴨下さんに280万円ほどを請求していますが、都の担当者に法廷に出てきてもらって、この金額の根拠や『確認書』を国と交わした経緯を明らかにしなければ判決も書けないのではないかということです。少なくとも都の担当者には、どうしてこんな裁判が起こされたのかを説明してもらわなければいけません」(平松弁護士)
鴨下さん側の主張は出尽くしているため、証人尋問が採用されなければ次回期日で結審する可能性があるという。
平松弁護士は「証人尋問が採用されなくても、こちらにとって決定的な不利ということではない。しかし、本来明らかにされるべきことが明らかにされないまま判決が言い渡されることになります」と語った。
福島県が2020年3月、区域外避難者を相手取り国家公務員宿舎「東雲住宅」(東京都江東区)の明け渡しと未納家賃の支払いを求めて起こした〝追い出し訴訟〟では、避難者側が2人の当事者や国際人権法の専門家2人、東京都都市整備局幹部、内堀知事の計6人に対する尋問を申請。しかし、福島地裁(小川理佳裁判長)はすべて却下。福島県の主張を全面的に採用する判決を言い渡している(今月27日に仙台高裁で控訴審判決が言い渡される予定)。


国と東京都が交わした「確認書」の一部。3年前から毎年5月に締結されている。平松弁護士は「東京都は積極的に避難者に明け渡しを求める考えはなかったようだが、確認書を交わしてしまった手前、放っておけなくなってしまい訴えを起こした」と話す
【突如、国と都で「確認書」】
原発事故がなければ避難する必要などなかった。それが「発生からもう6年も経った」と一方的に住宅提供を打ち切られ、裁判で多額の費用を請求されている鴨下さん。報告集会では「私たちが何か悪いことをしたわけではない。放射能をぶち巻かれて自宅を使えなくされてしまったのだから代わりの家を提供されるのは当然の話です」と語気を強めた。
東京都住宅政策本部は2021年5月14日付で財務省関東財務局東京財務事務所と「確認書」を交わした。国は、国家公務員宿舎について2016年4月1日から2017年3月31日までの使用許可を与えたうえで、使用許可期間を過ぎても明け渡さない場合には「(東京都は国に)損害額に相当する金額を損害賠償として支払わなくてはならない」と定めている。
同様の「確認書」は2022年5月13日付、今年5月12日付が存在し、内容は同じ。しかし、避難当事者である鴨下さんは東京都が国と確認書を交わしていることなどまったく知らなかった。まさに〝蚊帳の外〟に置かれた状態だった。そして、その確認書を振りかざして東京都は〝追い出し訴訟〟を起こしている。
平松弁護士は「国が『なんとか避難者を追い出せ』ということで3年前に突如、確認書なるものを交わして東京都に対して損害金の支払いを約束させた。東京都は積極的に避難者に明け渡しを求める考えはなかったようだが、確認書を交わしてしまった手前、放っておけなくなってしまい訴えを起こした。東京都は国にやらされている形だから、積極的な主張や立証はしていない」と話す。
鴨下さんも「都の担当者は『裁判などやりたくない』と言っていた」と明かす。とはいえ、積極的であれ消極的であれ、避難先自治体から訴えられ被告にさせられ、住まいから追い出される当事者の負担はどれだけのものか。
「国と東京都で勝手に話し合って〝損害金額〟決めて避難者から取ってしまえなんて、乱暴なことだと思います。」と鴨下さん。支援者に謝意を示しながら「裁判長には、まともな判決を書いていただきたいです」と語った。
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http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/blog-entry-717.html
(了)
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