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【福島原発かながわ訴訟】「区域外避難者への賠償は低額すぎ」「被害の実相に目を向けろ」原告団長・村田さんが涙の最終意見陳述~東京高裁で控訴審が結審、判決は1月26日

福島第一原発事故で神奈川県内に避難した人々が国と東電を相手取って起こした「福島原発かながわ訴訟」(村田弘原告団長)の控訴審第21回口頭弁論が6日午後、東京高裁101号法廷(志田原信三裁判長)で行われた。原告団長の村田弘さん(80)と女性原告が最終意見陳述。「事故の重大さと事実に基づいた判断を」、「避難の実情を十分に理解して」と訴えたほか、弁護団も「事故は防げた」、「避難指示の有無にとらわれるな」と陳述した。この日で結審。判決日は2024年1月26日午前11時半。高裁は国の責任を否定した昨年6月の最高裁判決を乗り越えられるか。区域外避難者の避難の相当性を認め賠償額を上積みするか。注目の判決は3カ月後。
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【「原発事故は終わっていない」】
 「56家族167名の原告に共通する想いの一端を述べさせていただきます」
 スーツ姿の村田さんはイスに座ることなく、ずっと立ったまま少し前屈みになりながら意見陳述を始めた。「GX脱炭素電源法」や「ALPS処理汚染水海洋放出」に触れながら、「あの事故から間もなく13年です。事故の責任も、被害の回復もなされないまま、あたかも事故がなかったかのような『乾いた風』が吹き渡っています。私の心はヒリヒリ痛んでいます」と述べた。
 涙をこらえているのが背中越しに伝わってきた。
 「忘れて欲しくありません。災害関連死2337人、原発事故を苦にした自死が119人、子どもの甲状腺がん358人。いまも避難を続けている人は、復興庁の集計でも2万6808人です。『原子力緊急事態宣言』は発令中です。事故は終わっていない。被害は続いているのです」
 提訴から丸10年。一審横浜地裁での弁論は30回、東京高裁でもこの日で21回の弁論が開かれた。被害に見合った償いがなされていれば、司法に訴えることも意見陳述も本人尋問も必要なかった。この間、8人の原告が天国に旅立った
 「一審の横浜地裁判決は、残念なことに放射線の健康被害リスクについては『放射線医学や疫学上の専門的知見は、賠償を考えるうえでの直接的な基準とはならない』として退けました」
 だが、原発事故被害の本質は放射能汚染と放射線被曝だ。
 「原発事故は私たちの人生を打ち砕いただけでなく、地域社会に、自然に回復不能な被害をもたらしました。その根本原因は放射線被害です。これに目を背けて本当の問題解決、被害の回復はありません」
 「空間線量に基づく線引きが、なんら科学的根拠に基づいてなされたものでないことは歴然としています。にもかかわらず、避難指示区域外からの避難者に対する賠償が、賠償とは言えない低額に留められているのが現状です」
 村田さんは鼻をすすっていた。
 「国や東電は、事あるごとに〝福島の復興〟を声高に語ります。マスメディアも〝明るい話題〟だけを流し続けます。しかし、私たちのふるさとは一変してしまいました。山に入ってキノコを採ることもできず、川でアユを釣ることもできません。隣近所の人たちと、お煮しめを持ち寄って花見をすることもできません」
 しかし、国も東電も原発事故被害の実相に目を向けようとはしない。
 「被害者の声に耳を傾けることもなく避難指示を解除し、住宅提供を打ち切り、私たちを追い詰めました。国会も『こども・被災者支援法』をつくっただけで棚ざらしにしたままです。私たちは司法に救いを求める以外になかったのです。このことを分かっていただきたい」
 涙があふれてくる。村田さんは崩れそうになりながら、嗚咽にも似た声で意見陳述を終えた。
 「乾いた法律論ではなく、事故の重大さと事実に基づいた判断を示していただきたい。子どもや孫の世代に胸を張って語り継げる判決を心からお願いいたします」
 深々と頭を下げた。傍聴席から大きな拍手が起こった。志田原裁判長は注意しなかった。

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(上)「東京高裁は国の責任を認めろ!」と両腕を突き上げた原告団長の村田弘さん=東京高裁前
(下)最終意見陳述では、涙ながらに「乾いた法律論ではなく、事故の重大さと事実に基づいた判断を示していただきたい」と訴えた=衆議院第一議員会館


【「区域外避難者への賠償わずか」】
 いわき市からの避難を継続している女性は「区域外避難者の代表としてお話をさせていただきます」と語り始めた。
 区域外避難者は〝自主避難者〟とも呼ばれ、「勝手に逃げた」と責められることも多い。また「多額の賠償金を得ている」との誤解も払拭されていない。
 「私がこれまで受領した賠償金は、慰謝料もそれ以外の損害もすべて合わせて総額で12万円だけです。夫は20万円、長男は72万円だけです。原発事故の恐怖、子どもや自分たちの健康不安、避難をさせられたことの苦痛、家族との別離、避難生活のつらさ、思い描いていた将来の喪失、避難に伴う出費、お給料の減額、二重生活の負担など、私たちの受けた損害はここでは伝え尽くせないほど大きいものですが、その損害に対して支払われた金額は、家族3人あわせて104万円だけです」
 看護師として病院に勤務していた女性は、4月から小学生になる長男の健康が心配だった。原発から30㎞圏内は危険なのに、なぜ自宅のある40㎞圏内は安全なのか。国の線引きに疑問を抱いた。
 夫婦で話し合い県外避難を決めた。しかし、夫は仕事の都合でいわき市を離れられない。やむなく母子避難を始めた。神奈川県内の実家に身を寄せたが「いつまでも居られない」。2011年11月からは賃貸住宅での2人暮らしが始まった。
 「神奈川圏内の病院で常勤の看護師として働き出しましたが、神奈川では有給休暇も少なく祭日も勤務があり、長男を一人で家に残すことも多く、寂しい思いをさせました。母も仕事があるため、実家にはほとんど頼ることはできませんでした」
 「長男は学校でいじめられたこともあり、小学4年生になったころから徐々に学校に行きたがらなくなりました。私も仕事を休むことが増えてしまい、パートに切り替えなくてはならなくなりました」
 収入は激減したという。
 「避難した後、月給は4万円ほど減り、6月の賞与ももらえませんでした。福利厚生の条件もかなり悪くなり、パートになってからはさらに給料が激減しました。また、いわきの職場での最後の給料は、避難した期間を『無断欠勤』として扱われてしまい、大きく差し引かれました」
 そもそも、いわき市から神奈川に転居する費用がかかっている。家計は二重生活で楽なはずがない。限界だった。長男が5年生になるころ、夫も含めた3人暮らしになったという。
 「いわきに戻ることも考えましたが、原発の状況が安全になったとは思えませんでした」
 子どもを守るための避難生活。苦しいが「私たち家族だけの話ではありません」と強調した。
 「私たち区域外避難者は、東電の基準では誰もがわずかな賠償しか受けられていません。104万円という金額が私たち家族や、ほかの区域外避難者たちの被害に見合った金額だとはとても思えません
 女性は、3人の裁判官にこう訴えた。
 「避難の実情を十分にご理解いただき適正なご判断をしていただきますよう、区域外避難者を代表してお願い申し上げます」

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(上)法廷で意見陳述をした女性は「(東電の賠償は)区域外避難者たちの被害に見合った金額だとはとても思えない」、「避難の実情を十分にご理解いただき適正なご判断を」と述べた
(下)2013年9月の提訴から丸10年。小賀坂徹弁護士は報告集会で「事故の責任を明確にすることと、きちんと賠償させること。そうすることで、原発事故被害者は原発事故を終わらせるためのスタートラインにようたく立てる。そのことを裁判所には理解してもらいたい」と強調した


【「1人も泣き寝入りさせまい」】
 法廷では、避難者側弁護団も「責任論」と「損害論」について改めて意見を述べた。
 弁護団長の水地啓子弁護士は、序論として「避難区域として指定された地域に居住していた方々も、それら区域の外に居住していた方々も、さらなる被曝を避けるため避難を余儀なくされたことが十分に理解されていない」と指摘。「一審被告国の責任を否定した昨年6月の最高裁多数意見は誤った判断である」と述べた。
 栗山博史弁護士は、国の責任について「一審原告らは、原審以来『長期評価』に基づいて想定される津波のほか、西暦869年に発生した貞観地震と同様の地震が発生したことに基づく津波をも想定した場合の防護措置を前提として、規制権限を行使すれば本件事故を回避することができたと主張してきた。一審判決も、貞観地震をも加えるべきことを明示的に述べて、検討・判断を行っている。本件訴訟は、最高裁判決の多数意見と同じ論理で判断を下すことはできず、2008年当時の具体的な事実関係を踏まえて独自に考察し、判断を加えなければならない」と述べた。
 田島宏峰弁護士も「最高裁判決の多数意見は因果関係を問題にしたと言われているが、国が作為義務を尽くした場合の議論が脱落し、国による規制として不十分で中途半端なものが想定されているからにほかならない」と指摘。「事実と法的理論に基づき、国の原発規制のあり方がどうあるべきかを深く洞察し、判決をされることを期待する」と求めた。
 弁護団事務局長の黒澤知弘弁護士は「政府による強制避難の指示の有無に捕らわれることなく、本件原発事故の被害の本質を踏まえた、適切な賠償がなされる必要がある」、「実際の生活圏や他の避難指示区域との距離や関係等をも見た上で、より細かく個別事情を考慮して慰謝料額を定めるべき」と訴えた。
 低線量被曝問題を担当してきた小賀坂徹弁護士は「年間20ミリシーベルトの避難指示基準は、避難者数抑制のための政治的・政策的基準に過ぎないもので、被曝による健康影響とは無縁」と指摘したうえで、区域外避難者の避難の相当性について次のように述べた。
 「『子どもを守りたい』という親の自然な心情から避難を決断したことは十分な科学的裏づけのある行動であり、法的保護に値することは当然」
 「保安院の発表によっても広島型原爆の168・5倍のセシウム137が環境中に放出されたこと、身近な広大な地域で避難指示が出されていること等のなかで、特に子どもへの健康影響を避けるために、やむなく避難を選択したことは社会通念に照らしても十分な合理性が認められる
 黒澤弁護士は、1959年12月に当時の「原子力災害補償専門部会」が原子力委員会の中曽根康弘委員長に宛てた答申を引用。部会長だった我妻栄東大名誉教授は、次のような表現で釘を刺している。
 「万一事故を生じた場合には、原子力事業者に重い責任を負わせて被害者に十分な補償を得させて、いやしくも泣き寝入りにさせることのないようにすることが必要である」
 そのうえで、志田原裁判長らに語りかけた。
 「一審原告らは全てを奪われ、その後の被告らの対応の中で苦況にあえぎ疲弊し切っており、この裁判を最後の希望としている。我妻栄ら先人の思想を受け継ぎ、被害者の現実の被害を直視したうえで、決して1人の被害者の泣き寝入りをも許さない、勇気ある判断をなすよう切に求める」
 判決は2024年1月26日に言い渡される。



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(了)
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