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【152カ月目の福島はいま】「早川住職の遺志を胸に、これからも〝原発事故の理不尽〟に抗う」 楢葉町の「伝言館」事務局長・丹治杉江さんが都内で講演~海洋放出差止訴訟でも奔走

「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・フクシマ伝言館」(福島県双葉郡楢葉町大谷寺下91)事務局長の丹治杉江さんが10月28日午後、都内で講演し、原発事故後のさまざまな「理不尽」について語った。なぜ福島だけが年間20ミリシーベルトまでの被曝を受忍させられなければならないのか。なぜ、国が一方的に決めた線引きで「区域外避難者」が差別されなければならないのか。そして反対の声を無視して始まった原発汚染水の海洋放出。一向に進まない燃料デブリの取り出し………。いわき市の自宅から「伝言館」までの40㎞を車で往復しながら、今日も原発事故後の「理不尽」を語り継ぐ。
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【「福島だけ年20mSv」の理不尽】
 「まさか、まさか自分が原発事故に遭うなんてことが起ころうとは思いもしませんでした」
 しかし、事故後に待ち受けていたのは、さらに大きな「まさか」だった。まず、一般公衆の追加被曝線量が20倍に引き上げられた。それも福島県だけ。
 「原子力緊急事態宣言が解除されない限り、福島県は年20ミリシーベルトを受忍させられます。玄関から外に出た瞬間に毎時3・8マイクロシーベルトまでは暮らして良いよということです。通常では年1ミリシーベルトですよね。福島だけは毎時3・8マイクロシーベルトまでは我慢しなければなりません。日本中を年20ミリシーベルトにしたら良いじゃないの。なぜ福島だけ年20ミリシーベルトなんですか?笑っている人には放射能は来ない?馬鹿言ってるんじゃないよ。『年20ミリシーベルト受忍』という、まったく理不尽な状況が今も続いています」
 今年9月24日、車で国道6号を走ると、表示されていた放射線量は毎時1・227マイクロシーベルトだった。
 「生活道路で普通に走ることのできる道路です。もしこれが東京だったらどうなりますか?福島県は原子力緊急事態宣言下にあるから、こんな理不尽が〝許されている〟のです」
 双葉駅から「東日本大震災・原子力災害伝承館」に向かう途中にある双葉町青年婦人会館。設置されているモニタリングポストの数値は、やはり毎時1・1マイクロシーベルトを上回っている。しかし、立ち入り制限などない。
 「駅前にレンタサイクルがありますから、こういう場所を自転車に乗って通過して良いんです。日本の放射能の基準からみてどうなのかなと思います。国民のみなさんはどうして、はこれを見て声をあげてくれないのかなと思います」
 いわき市にある自宅は、福島第一原発からの距離は約34キロメートル。政府は避難指示を出さなかった。
 「『原発から30キロメートルまでは放射性物質が大量に飛んできた。しかし、そこからさらに4キロメートルも離れているのだから大丈夫だ』というのが国の言い分です」
 丹治さんは喜多方市を経て群馬県に避難した。区域外避難者(いわゆる〝自主避難者〟)になった。

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「福島だけ年20ミリシーベルトの被曝受忍」や国の不合理な線引きによる「区域外避難者差別」、そして反対の声を無視した原発汚染水の海洋放出強行………丹治さんはスライドを使いながら「原発事故後の理不尽」について語った


【「薄めて流しても毒は毒」】
 事故発生から2年後の2013年9月、同じように群馬県に避難した仲間とともに裁判(群馬訴訟)を起こした。
 「昨年6月17日、最高裁が『仮に津波対策を講じていたとしても事故は防げなかった』として、国の責任を認めませんでした。納得できません。最高裁は何をみてきたのでしょうか」
 控訴審では、国の代理人が驚くべき主張を展開した。
 「区域外避難者(いわゆる〝自主避難者〟)に対して賠償することは国土に対する不当な評価となるんだと言われました。とんでもないでしょ」
 身銭を切って理不尽と闘う避難者。一方、国・東電は税金や電気料金を元手に攻めてくる。
 「原告は自分のカネで闘って、国や東電には私たちが支払った税金や電気料金があります。そして私たち原告は傷つけられる。税金や電気料金で二重三重にいじめられるのです。最高裁だけが頼りでしたが…残念な判決でした」
 8月には、国と東電が原発汚染水の海洋放出を始めた。反対意見を無視しての強行だった。
 「海洋放出は民主主義の問題です。政府は『漁業者に概ね理解していただけた』と言いますが、実際に漁業者と話すと『あきらめただけだ。国にこれ以上何を言ってもどうせ流すんだべ。福島の海はもう駄目だ』と言う人が多いのです。薄めて流しても毒は毒です。そもそも、放出する水に含まれているのがトリチウムだけではないということは、もはや誰もが知っていることですよね。IAEAが〝お墨付き〟を与えたような形になっていますが、IAEAが決して中立的な組織ではないことも、みなさんはご存じでしょう。176カ国中、日本は3位の拠出金を支払っています。外務省管轄だけで63億円も支払っています」
 国は言う。「海洋放出は福島復興のためだ」と。
 国は言う。「海洋放出は燃料デブリ取り出しのためだ」と。
 果たしてそうだろうか。
 「海はゴミ捨て場ではないし、そもそも海に流すのがなぜ『福島復興のため』なのか。まったく分かりません。燃料デブリの取り出しなんかできないでしょ。何をするために海に流さなければいけないのか。理屈がまったく分かりません」
 「880トンの燃料デブリを取り出すのにタンクがじゃまだから海洋放出するんだ、と国は言いました。40年で廃炉を完了させるためには、毎日80キロずつ燃料デブリを取り出さなければなりません。でも、12年経っても1グラムも取り出せていないのが現実です」
 なぜ代替案を無視して海洋放出を強行したのか。
 「代替案はあります。いますぐ海に棄てなくても方法はたくさんあります。代替案はあるということを多くの人に知らせたいです」

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丹治さんは、昨年12月に亡くなった早川篤雄さんの遺志を引き継ぎ、楢葉町の宝鏡寺内にある「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・フクシマ伝言館」の運営にも携わっている。早川さんが私費で建て、丹治さんが自費で切り盛り。「非核の火」を消さないためには来館者のカンパが必要だ


【理不尽伝え継ぐ「伝言館」】
 楢葉町の宝鏡寺内にある「ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ・フクシマ伝言館」。昨年12月に住職の早川篤雄さん(『福島原発避難者訴訟』原告団長)が亡くなったのを受け、運営を切り盛りしている。群馬からいわき市に戻り、自宅から「伝言館」まで車で通っている。庭にある「非核の火」とともに、早川さんの想いを継承していこうと奔走する。
 「ぜひみなさん『伝言館』に来てください。本当に小さな場所ですが、1階では原発のこと、地下では広島長崎のことを伝えています。入り口には『平和』、出口には『死を想え』と書かれています。どういう意味か。これは訪れたみなさんへの宿題です」
 「伝言館」は早川さんが寺の庭に私費で建てたという。
 「原発事故で、仏像を抱えていわき市に避難しました。その賠償金が1800万円でした。そのお金で建てたんです。運営はカンパと私の年金。いわき市内の自宅を往復するガソリン代も自費です。それだけでは足りないので、入り口にカンパ箱が置いてあります。ずっと無料で来ちゃったものですから、今さら入館料をもらいにくくて…」
 実は施錠していない。
 「年中無休。勝手に入って勝手にお金を置いていけというシステム。誰もいない日もあります。これは早川さんの考え方なんです。『この千円を持って行ったら(盗んだら)幸せにご飯が食べられると考える人がいるのであれば、持って行けば良い。施錠しようがしまいが、盗まれるときには盗まれる』と言っていました」
 「群馬訴訟」が終わり、息つく間もなく新たな裁判が始まった。9月8日、151人が国と東電が強行した海洋放出の差し止めを求めて福島地裁に提訴(「ALPS処理汚染水放出差止訴訟」)。11月9日に2次提訴を予定している。
 新たな裁判に伝言館。それを支えるのが、亡くなるまで原発反対を貫いた早川さんの信念だ。
 「早川住職は生前〝アカ坊主〟と揶揄されていました。原発に反対していたからです。でも、早川さんはいつもこう言っていました。『事故が起きてしまって『早川さんの言った通りだ』なんて言われてもちっともうれしくない。原発事故になんか遭わないで〝アカ坊主〟のまま死にたかった』と」
 「早くに父を亡くした私にとって父親みたいな存在でした」と丹治さん。寝る間もない忙しさだが、きっと天国から早川さんが見守っているはずだ。原発事故発生から12年が経過したいまも、福島には語り継ぐべき「理不尽」がいくつもある。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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