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【152カ月目の帰還困難区域はいま】「ここで本当にやって良いのか」「復興へ一歩踏み出したい」…浪江町津島地区が抱えるジレンマ~原発事故後、初の「肉まつり」

福島第一原発事故で今なお「帰還困難区域」に指定されている福島県双葉郡浪江町の津島地区。そこには原発事故被害の実相と住民の苦悩がすべて凝縮されていた。4、5の両日、津島小中学校で校舎見学会が行われた。5日には、特定復興再生拠点内の「つしま活性化センター」で住民たちがバーベキューを楽しんだ。避難指示が部分解除されたとはいえ、周囲の空間線量はまだまだ高い。会場では、被曝リスクへの懸念や地域再興への想いが複雑に交錯した。暮らしも学び舎も伝統芸能も奪った原発事故。ふるさと復活には被曝リスクがつきまとう。それでも何かやらなくては…。発生から12年が経過しても〝正解〟の出ない苦悩があった。
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【「何もやらなきゃ始まらない」】
 〝正しい答え〟など永遠に出ないと感じた。
 ある人は「難しいね」と言って黙り込んだ。別の人は「何がいけないんだ」と気色ばんだ。涙ながらに苦しい胸の内を明かした人もいた。被曝リスク回避だけを考えれば、屋外でのバーベキューイベントなど〝間違い〟なのだろう。一方、「地域の再興」だけに光を当てれば〝正しい〟のだろう。
 正論だけでは語れない。矛盾に満ちた想いが複雑に絡み合う。これが原発事故発生から12年が経過した帰還困難区域の実態。矛盾を住民に強いているのが原発事故なのだ。
 福島県中通りで避難生活を送る男性は「ここでバーベキューをしてはいけないの?『部分的避難指示解除は被曝リスクは限りなく少ない』という考え方では駄目なの?私は駄目だとは思わない」と語気を強めた。
 「難しいなあ。被曝リスクはないわけではない。たかが1・6%しか解除されていないわけだからね。でもね、どうしてもあるべき姿を求めちゃうから、被曝リスクを優先に考えなくなっちゃうんだよ。12年間経って地域も住民も疲弊して、この先もこのままなのかと考えると、どこかで夢や希望を見出したいという気持ちにもなるじゃない。被曝リスクばかり考えてもいられないんだよ」
 別の女性は「放射能のこと?それは微妙ですね。微妙。でも…うーん、もう除染したから大丈夫と言うけど…」と少し考え込んだ。そのうえで、次のように話した。
 「でも、何もやらなければ何も始まらないのよね。一歩を踏み出せない。被曝リスクを気にする人、気にしない人、個々の判断で良いと思うんですよね。こればかりは何とも…誰も責められないしね。難しいね。あと何年生きられるかと考えたら、やりたいことをやりたいという気持ちもあるしね」
 実行委員長を務めた三瓶友一さんにも葛藤はあるという。
 「今日みたいなイベントをやっても良いのかなという葛藤はあります。放射線は飛んでいる。でも、何もやらなきゃどんどん寂れてしまう。その想いは、ここから避難している人は誰もが抱いているんじゃないかな」
 そして、願いをこめるように言った。
 「こういうイベントがホップ、ステップとなって、最後に誰かがジャンプして津島に戻ってきてくれればね………」

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①臨時駐車場のモニタリングポストは毎時0・347マイクロシーベルトだった=津島公民館
②津島中学校の敷地からほんの少し出ただけで、手元の線量計は毎時1・2マイクロシーベルトを上回った
③中学校内に設置されているモニタリングポストでも毎時0・602マイクロシーベルト
④イベントが開かれたのは特定復興再生拠点内。しかし、少し歩けば未除染遅滞が広がる
⑤避難指示が解除された特定復興再生拠点は、津島全体のわずか1・6%にすぎない


【「被曝リスクはある」】
 「今日は素晴らしい日になりました。13年ぶりとなる『肉まつり』をこのように盛大に開催できること、心より御礼申し上げます」
 ステージ上からあいさつした吉田栄光町長は、いつになく上機嫌だった。短時間ではあったが、自身の孫とバーベキューを楽しんだ。
 「特定復興再生拠点の避難指示解除から半年が過ぎました。津島住宅団地には7世帯12人が生活しています。少しずつではありますが、津島の復興がようやく始まったところです」
 町役場支所が置かれている「つしま活性化センター」を中心とした復興再生拠点(津島全体の1・6%)で今年3月31日、避難指示が解除された。活性化センター周辺の空間線量は毎時0・3マイクロシーベルト前後と比較的低いが、校舎見学会が行われた津島中学校(徒歩で7分ほど)に設置されたモニタリングポストの値は毎時0・6マイクロシーベルト前後、学校敷地からほんの少し歩いたところで手元の線量計は毎時1・2マイクロシーベルトを上回った。
 さらに車道を歩いて行くと「ここまで特定復興再生拠点」という看板が置かれていた。しかし、そこに巨大な鉛の板があるわけではない。看板の向こうは帰還困難区域。こちら側は避難指示が解除された特定復興再生拠点。被曝リスクという観点では、その線引きに何の意味があるのか。だからこそ、住民の1人は「肉まつり」の開催に強い疑問を投げかけた。 
 「本当に屋外でバーベキューをして大丈夫なの?裁判では『除染したって山に囲まれているから被曝する懸念がある』って訴えているんじゃないの?」
 別の女性も「本当なら孫も連れてきたいけど、幼い子どもはやめた方が良いかなと思ってやめました」と口にした。「被曝リスクはありますよね、特に子どもはね」と話す住民も。このイベントに参加したことで、知人と20年ぶりに再会できたという。「でもね、原発事故のせいで何をするにも常に不安や疑問を抱えながらですよ………」。
 学校見学会に訪れた女性も「無理矢理、強行突破して開催した感じもありますよね。そもそも戻ってきて生活するという状況にはありません。津島に子どもを連れてくるかと言えば連れてくることはできません。友だちも『なぜこのタイミングで『肉まつり』なのか?ちょっと早いんじゃないか?』と話しています」と表情を曇らせた。
 なぜ不安や懸念がなくならないのか。原発事故が津島を激しく汚したからだ。

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①②バーベキュー会場には子どもの姿も。吉田栄光町長は孫と一緒に参加した
③④ステージ上では南津島に伝わる「田植え踊り」や「神楽」も披露された。伝統芸能の継承を難しくしているのも原発事故
⑤最初で最後になりそうな津島小中学校の校舎見学会。原発事故は地域の学び舎をも奪う


【「住民の『苦渋』分かって」】
 バーベキュー会場の一角では、「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」の原告団長・今野秀則さんがうれしそうに目を細めていた。原発事故前の恒例行事がようやく復活。しかし、胸中は複雑だった。決して諸手を挙げて喜べる状況ではないという。
 「ここは一応、国が除染をして3月末で避難指示が解除された場所。年1ミリシーベルトまで空間線量が下がるのを待っていたのでは何年もかかってしまいます。地域の復興再生ということを考えれば、手をこまねいているわけにはいかない。住民の心はどんどん離れていってしまいます。5年くらい前から区長会で何かやらなきゃいけないねという話し合いはしていました。鈴木さんの言うような『被曝リスクへの懸念』もわかりけど、それを先に立ててしまうと、そもそもこういうイベントを開けません。われわれの『苦渋』も分かってください」
 今野さんは2021年1月、福島地裁郡山支部で行われた口頭弁論(一審結審)で、次のように意見陳述している。
 「被告・東電が主張するような単なる郷愁、ノスタルジーではありません。私たちにとっては代替不可能な地域に根ざす生活そのものであり、それを失う事は人生を奪われるに等しい事なのです。だからこそ、私たちは原状回復を訴えているのです」
 「津島地区のわずか1・6%が特定復興再生拠点区域として整備されても、地域の復興・再生は困難です。山林を含む津島地区全体が除染されて元に戻らない限り、私たちの生活は取り戻せません。私たちのふるさと津島を取り戻すことは、代替不可能な生きる場所を取り戻すことなのです」
 決して現状に満足しているわけではない。でも、何もしなければますます地域が荒廃してしまう。それを今野さんは「苦渋」と表現した。自身も戻るべきか否か、自宅を解体するべきか否か、激しく悩んでいる。目は涙で真っ赤だった。
 「みんなで楽しくワイワイやっているから良いというものではないですよ。避難指示解除をきっかけに、個人個人で対応を迫られています。避難元の自宅をどうするか。戻るべきか決断を迫られる。地域の再生はマイナスからの出発だから。ジレンマがあるんです。割り切れない。まさに矛盾が詰まった地域ですよね。復興再生に向けた動きが出てくれば出てくるほど、個人の心に改めて負担がのしかかってくるのです」
 町役場の職員は言う。
 「除染をやると言えば『除染なんかやったってしょうがないから他のことにお金を使え』という人がいます。『帰りたいから、とにかく除染をやってくれ』という町民もいます。何をやっても賛否両論…正解などありません。12年間、ずっとそうでした」
 何が〝正解〟なのだろうか。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)
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