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【原発事故と避難の権利】「ここで生きていくしかない」「受け入れるしかない」~逃がしてくれなかった国と福島県、被曝リスクから目を逸らさざるを得なかった中通りの人々

浪江町津島地区が抱えるジレンマについて11月06日号で書いたが、苦悩と葛藤を重ねたうえに「しょうがない」と諦めざるを得なかったのは、政府の避難指示が出されなかった福島県中通りも同じだ。避難指示の有無に関係ないはずの「避難の権利」は奪われ、「復興」の大合唱にかき消された。当時、取材に応じてくれた方々に「なぜ県外避難しないのか」と厳しく問うてしまった反省を踏まえて、改めて避難指示区域外の人々の「しょうがない」について考えたい。避難できないのなら受け入れるしかない―。そんな住民心理につけ込むように、国は福島県民にだけ「年20ミリシーベルト」までの被曝受忍を強いている。今日も明日も。
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【「考えたら郡山では暮らせない」】
 原発事故発生から1年余が経過した2012年7月。福島県郡山市内の公園では、子どもを遊ばせる親の姿があった。
 「原発事故から1年以上も経つと、感覚がマヒしてしまうのかな?」
 そう話したのは、30代の父親。幼い息子の手を握りながら取材に応じた。
 「事故発生直後は、いろいろと考えましたよ。この子に健康被害は出ないのか、とかね。でも、最近は放射線量も落ち着いてきているし、ここで生活していく以上、しょうがないという部分もありますよね」
 30代母親は、2歳の息子を遊ばせていた。
 夫を郡山市に残し、神奈川県の実家に母子避難をしたこともあった。郡山に戻る日、地元の友人から「〝汚染地帯〟に帰るの?」、「幼い息子だけでも神奈川に置いていったら?」と言われた。周囲からそんなことを言われなくても分かっている。郡山駅で新幹線を降りるとき、放射線量の高さを考えたら胸がドキドキしたという。被曝リスクを意識しないわけがない。でも………。
 「でもね、考え始めたら普通の生活が送れなくなってしまいますよ。呼吸さえできなくなってしまう。だから被曝リスクは考えないようにしています
 それから4年。2016年11月には、このような母親の声を聴いた。
 「モニタリングポストの数値を見ても意味が分からないから見ない事にしています。数値を気にしてもしょうがないし、ストレスになるだけですからね。放射線とか被曝なんて考え始めたら、郡山では暮らせないですよ」
 郡山から離れないのであれば割り切って暮らす。いや、そうするしかなかった。
 「福島県外に避難する予定もないし、ここで生きていくしかないのです。そうであれば、覚悟じゃないけど、伸び伸びと育ててあげた方が子どもにとっても良いんですよ。将来、子どもの身体に何か(健康被害が)あるかどうかなんて分からないし………。やっぱり、子どもは外遊びの方がイキイキとするんです。表情が違うんです」
 2017年4月には、30代女性が「信じるしかない」と口にした。
 「仕事や生活を考えると、現実的に他県に避難するというのは難しいです。ここで生活していかなければいけません。放射線や被曝リスクの事は頭の片隅にはあるけれど、どこかで折り合いをつけなければいけませんよね。そもそも、本当に危険ならば行政が開成山公園に立ち入ることを禁止するでしょうし。こうやって公園を開放している行政を信じるしかないですよ」

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①郡山市内のある小学校では、除染が行われるまで毎時4・5マイクロシーベルトもあったが、政府は避難指示を出さなかった。積極的に逃がそうともしなかった
②放射線は精神論では防げない。しかし、街中に「がんばろう」の文字が躍った


【「この状況が日常なんです」】
 福島市も郡山市と同じく政府の避難指示はなかった。被曝リスクを避けるのであれば、自力で動くしかなかった。それが難しいのであれば「しょうがない」と受け入れるしかなかった。
 「みんな騒がないですよね。まあ、騒いだってしょうがないっていうか、放射線とは一生付き合うしかないですから。県外避難?難しいですね…仕事がね…」
 2013年7月、1歳児の父親はそう話した。
 「放射線を意識しないと言ったら嘘になります。でも、事故直後のように毎日毎日考えていたら、ストレスばかり溜まってしまう。そんな状態では、ここでは生活できませんよ
 放射線の存在を意識してもしょうがないのであれば当然、放射線量を測定してもしょうがないという考え方になる。
 2013年10月には、福島市の60代女性がこう話した。
 「家の外で毎時0・4マイクロシーベルト、場所によっては毎時10マイクロシーベルトあります。室内でも毎時0・2マイクロシーベルトですよ。除染っていったって、順番がいつになるのか分からない。でもね…時々自分で測っているけど、気にしたってしょうがないでしょう」
 2015年8月には、信夫山のふもとの公園で小学生の子どもを遊ばせていた母親が、怒りをぶつけるように言った。
 「放射線を気にしている人はとっくに福島県外に避難していますよ。ここで暮らし続ける私たちにとっては、この状況が日常なんです。これが日常になってしまっているんです」
 大人がそう言うのだから、子どもも「しょうがない」となる。2015年の伊達市成人式。取材に応じてくれた新成人の女の子は、うんざりした表情で吐き捨てるように話した。
 「伊達市は警戒区域じゃないし、放射線を意識したことなんてありません。なったものはなったものなんだから、今さら怖がったってしょうがない。受け入れるしかないじゃないですか」
 二本松市の女子高生(18歳)も2015年8月、「考えたってしょうがないじゃん」と言った。
 「あたし、鼻血なんか出したことないよ。こうやってイキイキと遊んでるよ」
 福島市の高校3年生(当時)は2017年2月、こんな言葉を口にした。
 「僕は今でも被曝リスクが心配だけど親ですら気にしていません。そうすると僕だけ気にするわけにはいかないんですよ」

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①飯舘村民向けの仮設住宅が置かれた福島市松川地区も激しく汚染された
②塩分の摂り過ぎは注意すれば予防できる。しかし、被曝は線源から離れないと防げない。同じ土俵で語ることなどできないのだ


【「気にしてもしょうがない」】
 筆者は当時、中通りで取材に応じてくれた方々に「ここで暮らしていて子どもを守れるのか?」、「なぜ県外に避難しないのか?」などと正論をぶつけていた。時に厳しい口調になってしまったことを今さらながら反省している。責めるべきは住民の方々ではなく、国や福島県だった。
 原発事故後、福島県だけが年20ミリシーベルトまでの被曝を受忍させられている。本来、この国では追加被曝線量は年1ミリシーベルトだった。いや、今でもそうだ。福島県以外では。
 「かながわ訴訟」避難者側代理人の1人である小賀坂徹弁護士は「年間20ミリシーベルトの避難指示基準は放射線被曝の健康影響の有無を画するものでなく、避難者数抑制のための政治的・政策的基準に過ぎない」と指摘する。
 原発事故発生時の双葉町長・井戸川克隆さんは「福島県民を避難させず、早々に足止めさせたのは福島県庁です」と断言する。当時の佐藤雄平知事は、井戸川さんに「俺は県民を外に出したくないんだよ。分かっぺ」と言い放ったという。
 福島県の「放射線健康リスク管理アドバイザー」に任命された山下俊一氏は、2011年3月21日に福島県福島市で開かれた講演会で「放射線の影響は、実はニコニコ笑っている人には来ません。クヨクヨしている人に来ます。これは明確な動物実験で分かっています」と述べた。この言葉を聴いて県外避難をやめた人もいたという。しかし、精神論で被曝を防ぐことなどできないことは、山下氏自身が一番良く分かっているはずだ。
 国も県も避難を後押ししてくれない。で、どうするか。人々は被曝リスクなどなかったことにした。見ないことにした。そうするしかなかったのだ。
 「放射能?全然気にならないです。数値も全然見ていないですね。はっはっは。気にしてもしょうがないかな。ここに住んでるわけだから。信夫山に子どもを連れて来たって大丈夫っしょ」(福島市、30代父親、2017年)
 「気に病んでばかりもいられません。前を向いて歩かなければ。それに、私たちは生きてるんですから。ちゃんとこの街で生活できているんですから。逆に言うと何が悪いの?とも思ってしまいます」(福島市、70代男性、2018年)
 「避難の権利」は、「復興」の大合唱にかき消された。原発事故は人権をも奪う。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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