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【原発事故と司法】「最高裁は『6・17判決』の誤りを自ら改めよ」元裁判官・樋口英明さんが仙台で怒りの講演 「自分の利害で判決を言い渡したのではないか」とも

2014年5月、福井地裁で関西電力大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じる判決を言い渡した樋口英明さんが11月25日、仙台市内で講演し、国の賠償責任を否定した昨年6月17日の最高裁判決について「国側を勝たせようとする強固な意思を感じる」と批判。「判決(多数意見)の誤りを最高裁が自ら改めよ」と怒りを込めて話した。裁判長を務めた菅野博之氏が退官後に五大法律事務所に〝天下り〟したことにも言及。「こういう裁判官が自分の利害で判決を言い渡したのではないか、と見える」とも指摘した。原発事故後に原発の本質に気づいたという樋口さん。「6・17判決」のどこが問題なのか、講演会をオンライン取材した。
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【「原発問題は難しい」という先入観】
 原発の本質とわれわれが抱いている先入観。樋口さんの話はそこから始まった。
 「大谷翔平選手の座右の銘は『先入観は可能を不可能にしてしまう』です。これは母校・花巻東高校の佐々木洋監督の言葉なのですが、プロ野球では二刀流など不可能だと誰もが思っていた。でも、佐々木監督も栗山監督もそんなことは思わなかった。だから二刀流ができた。先入観を持っていなかったからです。原発の問題は先入観のかたまりです。原子力規制委員会や国会議員、裁判官のような重い責任を負っている人たちはそれなりの責任感と判断能力があるだろうという先入観。あれだけの失敗をしたのだから、失敗から学ぶ賢さが日本人にはあるんじゃないかという先入観。そして何よりも『原発問題は難しい』という先入観です」
 実は樋口さん自身、原発問題に無関心だったという。
 「日本の原発は安全だろうとなんとなく思い込んでいました。その私でも、福島第一原発1号機と3号機の爆発映像を見たときに、これで日本の原発は終わるだろうなと思った。だけどどっこい終わらない。原子力ムラのせいでも東京電力のせいでもない。経産省のせいでもありません。われわれの心の中にある先入観です。『原発問題は難しいからわれわれには分からない』という先入観です」
 「原発問題はシンプルです。2つのことさえ理解すれば良いんです。①人が管理し続けなければいけない。人が電気と水で冷やし続けなければいけない②人が管理できなくなったときの被害は想像を絶するほど大きい―。たった2つです」
 その「本質」に着目した判決が2021年3月18日、水戸地裁で言い渡された。
 「水戸地裁は避難計画の不備だけで、それ1点だけで東海第二原子力発電所の運転差し止めを命じました。判決文のなかに原発の本質が書いてあるんです。『事故が起きた場合には原発の安全3原則である「止める」「冷やす」「閉じ込める」を成功させ、かつこれを継続できなければ収束に向かわず、ひとつでも失敗すれば被害が拡大して、最悪の場合には破滅的な事故につながりかねないという、他の科学技術の利用に伴う事故とは質的に異なる特性がある』と。原発の本質を正確に理解していると、正確な良い判決が出るのです」

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宮城県仙台市内での講演で「国民の司法に対する信頼は完全に失われる。信頼を取り戻す唯一の方法は、6・17判決を最高裁が自ら改めることだ」と話した樋口英明さん=2022年3月、神奈川県横浜市内で撮影


【「水密化」無視した多数意見】
 最高裁第二小法廷(菅野博之裁判長)は昨年6月17日、生業訴訟や群馬訴訟など4件の集団訴訟について国の賠償責任を認めない(国が、津波による原子力発電所の事故を防ぐために電気事業法40条に基づく規制権限を行使しなかったことを理由として国家賠償法に基づく損害賠償責任を負うとはいえない)判決を言い渡した。
 「争点は3つでした。①2002年の長期評価は信用に値するものであったか否か②仮に長期評価が信用できるとした場合、経済産業大臣が東京電力に対し、津波による事故を防止するための適切な措置を講じるよう命じるべきであったかどうか③仮に適切な措置を講じることを命じたとしたら、福島原発事故は防ぐことができたかどうか―。この3つです」
 しかし、第②小法廷の多数意見は①と②については判断しなかった。③だけで国の責任を否定してしまった。
 「『仮に、経済産業大臣が権限を行使したとしても浸水による非常用電源の機能喪失に起因する本件事故を防ぐことはできなかった』。だから権限行使と結果との間に因果関係がない、として国の賠償責任を否定しました。命じたとしても防げなかったという理由で国の責任を認めなかった。これが多数意見です。多数意見のおかしなところは2つです。①因果関係を否定した理由にまったく説得力がないこと②大事な論点①②を飛ばしてしまったこと―。仮にこれが司法試験の問題だとしたら確実に不合格になります」
 多数意見の問題点は、水密化を完全無視したことだった。
 「多数意見は『本件原発事故以前の我が国における原子炉施設の津波対策は、防潮堤の設置によって海水の浸入を防止することを基本とするものであった』と書いています。原発の本質をまったく分かっていません。高裁段階では防潮堤と水密化の2つの手法が認定されていました。1972年7月24日、津地裁四日市支部が言い渡した四日市ぜんそく訴訟判決には、次のように書かれています。『少なくとも人間の生命、身体に危険のあることを知りうる汚染物質の排出については、企業は経済性を度外視して世界最高の技術、知識を動員して防止措置を講ずべきであり、そのような措置を怠れば過失は免れないと解すべき』。原発でもまったく同じことが言えます」
 「今回の多数意見が間違っていることは、50年前に既に明らかでした。最高裁は原発の本質をまったく分かっていません。原発事故というものが、放射能というものが、国を滅ぼすということを分かっていません。福島第一原発事故は、わが国最大の公害です。最大の環境汚染です。それに対して『水密化は不要』と言っているのです」
 50年前の司法は「企業は経済性を度外視してやらなきゃいけない」との判断を示した。だから国は、東電に対して採算を度外視してでも水密化などの安全対策を講じさせるべきだった。しかし、最高裁はそれを否定してしまった。

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樋口さんは講演後、筆者へのメールで次のように綴った。「最高裁の腐敗を多くの方に知ってもらうことが急務。私たちは主権者であることを自覚しなければなりません。裁判官たちには私たちに監視されていることを意識してもらわなければなりません。心ある裁判官を守るためにも、心ある裁判官になってもらうためにも」


【「あらゆる面で優っている三浦意見」】
 一方、三浦守裁判官の意見は「量的、質的、説得力、格調の高さ、具体的妥当性から言っても、あらゆる面で多数意見よりまさっている」という。
 「意見には、三浦裁判官の基本理念も書かれています。『生存を基礎とする人格権は憲法が保障する最も重要な価値であり、これに対し重大な被害を広く及ぼし得る事業活動を行う者が極めて高度の安全性を確保する義務を負うとともに、国が、その義務の適切な履行を確保するため必要な規制を行うことは当然である』。私が書いた大飯原発の判決にそっくりなんです。同じ発想に立つと同じ言葉が出てくるんです」
 争点①②を無視した多数意見。対して、原子力基本法などの法の趣旨に正面から向き合った三浦意見。それは、どこに軸足を置くかの問題でもあると樋口さんは指摘する。
 「この事件は、国民の側に軸足を置くか、国の側に軸足を置くかが問われている。法の支配が問われているんです。法の支配とは何か。『国民の基本的人権、特に人格権が一番重要な価値という法秩序を裁判所の手で守りなさい』という憲法の裁判官に対しての命令です。法の支配とは、政治が憲法の精神に従うということです。多数意見は国民の側に軸足を置くのではなく、国の側に軸足を置いており、法の支配の番人としての役割を放棄している。国側を勝たせようとする強固な意思、結論ありきという疑いがあります」
 判決後、菅野裁判長は五大法律事務所に〝天下り〟した。
 「もし、三浦裁判官以外の3人が『日本に原発は絶対に必要』、『国側を負けさせたら日本の原発が衰退していくことになる』という強い信念の下に判決を言い渡したのなら、まだ許す余地はあるんだけど、どうもそうではないらしい。裁判長を務めた菅野博之さんは、判決の翌月に定年退官。8月に五大法律事務所のひとつである長島・大野・常松法律事務所に入りました。五大法律事務所は東電と、東電は経産大臣と密接な関係があります。国と極めて関係性の強いところに就職しちゃった。公平も公平らしさもない。こういう裁判官が自分の利害で判決を言い渡したのではないか。そう見えるんです」
 名古屋高裁や仙台高裁は最高裁に従う判決を言い渡している。
 「こんなことが続いたら、『最高裁というところは所詮、政府に忖度して政府の意向通りにやるところ。下級審の裁判官も最高裁に盲従するだけ』という話が拡がっていく。国民の司法に対する信頼は完全に失われます。信頼を取り戻す唯一の方法は、6・17判決を最高裁が自ら改めることです。改めることによって、『6・17第二小法廷の判決は裁判官としての資質をまったく欠くもの』、『利権構造のなかにどっぷり浸かっている裁判官による〝異端の判決〟であって、最高裁は今なお健全である』ということを示すことができるんじゃないか」



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)
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