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【福島原発被害東京訴訟】〝揚げ足取り〟に終始した国・東電の弁護士。お粗末な反対尋問に「異議あり」~涙と怒号の中、原告への本人尋問始まる

原発事故により都内への避難を強いられた人々が、事故の過失責任を認め損害賠償をするよう国と東電を相手取って起こした「福島原発被害東京訴訟」の第20回口頭弁論が9日、東京地裁103号法廷(水野有子裁判長)で開かれ、夫婦、父娘、母親2人の計6人の原告に対する本人尋問が行われた。しかし、避難の合理性を崩したい国や東電の代理人弁護士による反対尋問はお粗末そのもの。単に〝揚げ足取り〟に終始し、原告代理人弁護士は何度も異議を申し立て、裁判長も被告側弁護士を注意した。次回期日は2017年1月11日午前10時。本人尋問は3月まで続けられる。


【裁判長「聞き方気を付けて」】
 「異議あり!」。原告の代理人弁護士が何度も立ち上がり、「誤導尋問」(誤った事実を前提として質問をすること)だと指摘した。被告である国や東電の代理人弁護士の〝揚げ足取り〟に、満席の傍聴席からもため息や失笑が漏れた。顔を紅潮させ、不満をあらわにする被告代理人の男性弁護士。さすがに水野裁判長も「聞き方を工夫してください」、「尋問で聞くべき事ですか」と何度も注意する有様だった。
 大学生の頃、研究で植物のDNAの配列を調べるために放射性物質を扱っていた原告に対しては「放射線による健康被害を専門的に学んだわけではないですよね?」と質す。夫が原告団に加わっていない女性原告には「この裁判について、夫から何か言われた事はありませんか?」と、夫婦間であつれきが生じていると印象付けるための質問を浴びせる。故郷のいわき市を離れて寂しがる娘のためにぬいぐるみを複数購入した代金を損害に含めている女性原告に対しては、男性弁護士が冷たい表情で「原発事故が無くても買っていたのではないですか?」と問い詰め、傍聴席がざわついた。当然だ。原発事故が無ければ避難する必要も無かったし、幼い娘が寂しがることも無かったのだ。
 言葉尻をとらえ、原告らの「避難の合理性」を否定するための反対尋問。女性原告が「子どもをこのまま郡山に置いておけないと考えた」と振り返れば、東電の代理人弁護士は証拠提出した「広報こおりやま」を提示して「市は広報紙で空間線量が低減していった様子をグラフにして公表している。こういう情報は目にしましたか?」と迫った。仕事を辞めて避難し、現在は相続した都内の不動産管理で生計を立てている男性原告に至っては「賃貸アパートを管理するには東京に住んでいる方が便利なんですよね?」、「毎日、どのように過ごしているんですか?」、「なぜ避難元の家を売却しないのですか?」、「今の年収はどのくらいですか?」などと、原発事故とは無関係な質問を次々とぶつけられた。
 「息子さんはADHD(注意欠如・多動性障害)やアスペルガー症候群と診断されているようですが…」と何度も尋ねられた女性原告も。避難の合理性を少しでも崩そうと、被告代理人弁護士は手段を選ばない。一方で知識不足は否めず、外部被曝と内部被曝を混同し、水野裁判長から「シーベルトで表されるのは外部被曝だけなんじゃないですか?」と指摘される女性弁護士も。陳述書に書かれている事柄を「陳述書には書いていないようですが、今の発言は事実ですか?」と声を荒げ、質問を撤回する場面も。本人尋問を見守った他の原告から「あの程度であれば何とかなりそうだ」との声があがるほど、お粗末な反対尋問だった。


「緊張で何を話したのか良く覚えていない」と振り返った原告の女性。被告代理人弁護士の〝攻撃〟にも落ち着いて答えていた

【「託す」。夫の言葉胸に避難】
 6人の原告に対する本人尋問は、それぞれ原告代理人弁護士による「主尋問」、被告代理人弁護士による「反対尋問」の順で進行。約1時間の昼休みを挟み、10時15分から16時20分まで行われた。原告は「嘘を言わない約束」(水野裁判長)である宣誓を3人ずつ揃って読み上げてから尋問に臨んだ。
 40代の女性原告は看護師。病院内でいかに放射線が厳重に管理されていたか、良く分かっていた。住まいのあった福島市で20μSv/hもの空間線量が計測されたと報じられると「子どもの未来を守るのは親しかいない」と2人の幼いわが子を連れて都内へ避難した。夫は「お前に託す。子どもの命を守れるのは母親しかいない」と送り出した。
 自然豊かな福島市。伸び伸びと遊ばせられる環境は子育てには最高の環境。両親も近くにおり、マイホームの夢も少しずつ膨らんでいた。夫の実家は農家。かつては新鮮で安全な野菜や米をもらう事も出来た。「原発事故さえ無ければ、あのまま福島で子育てが出来ていたのに…」。今も悔しい想いでいっぱいだ。たまに帰省すれば「もう放射能なんかねえんだ、放射能なんか言わないでくれ」と身内から言われてしまう。避難に踏み切った際には、夫の両親から「福島を捨てて行くのか。裏切るのか。非国民だ」と罵られた。
 「空間線量が下がったとはいえ、原発事故前の線量ではありません」。東電の女性弁護士にきっぱりと反論した。趣味のスイーツデコも原発事故に取り上げられた。「今は生きるのに精一杯」。加えて、来春には住宅の無償提供が打ち切られる。「やっと避難したのに、また行政の手で移動させられる」。今は夫も含め4人で生活出来ているが、原発事故が無ければ避難も夫の転職も必要無かったのだ。
 原発事故の2年前、広い庭のある自宅を郡山市内に新築した30代の女性原告は、夫や子どもたちのバーベキューや家庭菜園などを楽しんでいた。2011年3月21日には避難。夫は仕事で離れられない。二重生活は経済的にも厳しい。悩んだが、子どもの健康を優先させた。夫は月に何回か車で会いに来てくれる。
 近所のスーパーマーケットでほぼ毎日のように働く日々。しかし、本当に仲良くなれた友達にしか福島から避難している事は話せない。「美容室に行った時、『あそこの住宅にいる避難者は、たくさんお金をもらってぜいたくをしているんだよ』と言われたんです。避難住宅には避難指示区域内からも区域外からも避難して来ている。そういう事も含めて理解されていないんだなと思いました」。区域内避難者とて、決してぜいたくな暮らしばかりをしているわけではない。「一緒に住みたいが、今の郡山には子どもを連れて戻って来て欲しくない」。離れてはいるが、そう言ってくれる夫の気持ちがうれしいし、支えになっている。
 「ついイライラして子どもにあたってしまう。本当に申し訳ない」と自分を責めて涙を流した。水野裁判長は何度もうなずいて聴いていた。「国や行政の情報は信用していません。少しでもリスクの存在するところに子どもを連れて帰ることは出来ません」。涙を拭って、きっぱりと言った。


東京地裁前では開廷前、原告らが裁判への理解と支援を求めるビラを配った

【「じいじ」と呼ぶ孫は宝物】
 娘に続いて最後に尋問に臨んだ70代の男性原告は「孫は宝。生きる力になります」と、かわいい孫への想いを口にした。
 「じいじ、じいじ」と呼んでくれた孫。一緒にご飯を食べ、一緒に遊び、一緒に寝た。学校行事にも積極的に参加した。孫たちは離婚した娘が育てている。父親代わりになりたいという想いも強い。
 「そりゃ、裕福だったら、仕事をしなくて良いのならみんなで一緒に東京で暮らしたいですよ。でも、そうもいかない。だから娘と孫は東京に、私ら夫婦はいわき市に戻って二重生活をしているのです」
 車で片道3時間かけて娘や孫に会いに行く。体力的にもきつい。「いわきに戻る時、首都高を走りながら、何でこんな生活をしなければいけないのかと考えることはあります」と男性。でも…。「娘や孫の被曝が心配。いわきに戻す事は出来ません」と話した。
 自身が尋問に立つ直前、40代の娘は国の代理人弁護士から「あなたは先ほど、娘さんが2011年3月15日に初めて大量の鼻血を出したと原発事故を関連付けるような話をなさっていましたが、何か医学的見解をご存知なんですか?」といやらしい質問をされた。か細い声で「私は医学の専門家では無いので分かりません」と答えている娘の姿を目の当たりにしていた。だからこそ、男性は何を聞かれてもハキハキと答え、原発事故で孫との楽しい生活を奪われた悔しさを口にした。
 40代の夫婦は、2011年3月12日の午前5時頃、当時8歳と3歳だった2人の息子を連れて4人でいわき市を離れた。教員だった夫は学校再開に反対したが、授業が始まってしまった。「無責任に放り出すわけにはいかない」と4月には1人でいわき市に戻り、二重生活が始まった。
 東京で妻は、週末だけやってくる父親を見送った後、布団をかぶって声を殺して泣いている息子の姿に心を痛めていた。息子は、同級生から「お前ら、タダで東京に住んでいるのか」といじめられた事もあった。服を脱がせたら靴で蹴られた跡が残っていた。その頃、いわき市で教壇に立つ夫も、家族と離れる寂しさと被曝リスクがある中で子どもたちに指導を続けている自己矛盾とで苦しんでいた。ある日、夫は窓ガラスを素手で叩いて大けがを負った。「このまま放置したら壊れてしまう。1人で苦しんでいる夫を近くで支えられない事が一番つらかった」と涙ながらに振り返った。その後、夫は学校を辞めた。先に尋問を終え、原告席に戻っていた夫は、妻の言葉に両目から大粒の涙を流した。拭っても拭っても、涙は止まらなかった。
 原発事故は、豊かな自然や平穏な家族の生活など多くのものを奪った。訴訟では、来年1月と3月に予定されている口頭弁論でも原告の本人尋問を行い、被害の実態を浮き彫りにしていく。閉廷後、報告集会で原告に1人は「緊張して言いたいことが言えなかった」と振り返った。何度も練習して臨んだ本人尋問。これとて、原発事故が無ければせずに済んだ。名前は明かされないとはいえ法廷でプライバシーをさらされる事も無かった。被害者が正当な損害賠償を求めているだけなのに、相当な勇気と覚悟が無ければ声すらあげられない事も、私たちは理解しなければならない。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)

大手メディアが無視する「汚染」、「被曝」、「避難」を追い続けています。

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【ゆうちょ銀行 普通 記号10980 口座番号05373461 鈴木博喜】

【じぶん銀行あいいろ支店 普通2460943 鈴木博喜
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