【原発事故と〝いじめ〟】周囲の無理解に傷つけられてきた原発避難者たち。横浜のケースは氷山の一角~極めつけは来春の住宅無償提供打ち切り
- 2016/11/12
- 07:07
原発事故による被曝リスクを避けようと福島県から神奈川県横浜市に〝自主避難〟した家族の子どもが、転入した小学校で長年にわたり暴言を浴びたり金を脅し取られたりしていたことが発覚。テレビや新聞が一斉に報じた。しかし、これはあくまでも氷山の一角。本紙はこれまで、避難や賠償への無理解によって避難者がいかに傷ついてきたか、何度も触れてきた。来春の住宅無償提供打ち切りは、その最たるものと言える。大人が〝自主避難〟に冷淡な言動をとれば、子どももそれを見て避難してきた同級生を責める。原発事故など無ければ、いじめられることも無かった。被曝リスクを避けるとなぜ、異端者扱いされるのか。今回の事件で私たちが反省するべき事はあまりにも多い。
【「放射能がうつるから近づくな」】
本紙ではこれまで、避難者が受けてきた〝いじめ〟をたびたび報じてきた。
「こんなにいじめられるくらいなら、いっそのこと原発事故の爆発でひと思いに死んでしまった方が良かった」と話したのは、福島市から山形県南陽市に母子避難した30代の母親(2012年10月25日号)。
南陽市では「東電からずいぶんと金をもらったんだろ?」と質問攻めに遭った。 「年配の方には非常に親切にしていただきました。でも、多くの人が『福島の人は東電からいくらもらっているの?』と好奇心丸出しで聞いてくるんです。次第に福島から来たといえなくなってしまいました」。避難を中断し、福島市に戻れば、娘の通っていた小学校の保護者から「よくも戻って来られたな」、「そんなに被曝を気にするのなら帰って来なければ良かったのに…」などと責められた。
政府の避難指示が出ていない区域から避難した、いわゆる〝自主避難者〟に対しては、東電から今も賠償金が支払われているという「誤解」が少なくない。そもそも、加害者側が一方的に避難区域の内外を線引きした上に、大人に対しては1人12万円、原発事故当時、18歳以下の子どもか妊娠していた女性に対しては40万円が支払われただけだ。とてもじゃないが「ずいぶんと東電からもらった」とうらやましがられるほどの賠償金を手にしているわけではない。各地で完全賠償を求める訴訟が起きているのはそのためだ。
郡山市の40代の母親は、近所の人が福島県外に避難し、子どもが転入した学校で「放射能がうつるから近づくな」との暴言を浴びて不登校になったと証言した(2014年03月15日号)。福島ナンバーの車が傷つけられたという話は数えきれないほどある。福島県からの避難者であるということを悟られないために、避難先でナンバープレートを現地のものに交換した母親さえいるほどだ。
同じく郡山市から静岡県内に避難した父親の息子は、小学校のクラスメートに「お前なんか福島に帰れ」、「原発が無くなったら電力が足りなくなって困るんだよ」などと暴言を浴びていた事に心を痛めていた(2016年03月09日号)。息子は母親に「僕だって、来たくて静岡に来たわけじゃない…」と怒りをぶつけた。原発事故さえ無ければ、避難する必要など無かったのだ。何も好き好んで住み慣れた街を離れたわけでは無い。

2012年8月、都内で行われた抗議行動。国が明確に「避難の権利」を認めなかった事が、避難者への偏見を助長した
【「放射能で死んじまえ」】
福島県中通りから北海道に〝自主避難〟した母親の息子は、やはり転入した小学校で質問攻めに遭った。「避難所にいたの?津波で家がなくなっちゃったの?」。子どもは困ってしまった。どちらも当てはまらない。悪意のある〝いじめ〟ではないが、「じゃあ何で避難したの?」という単刀直入な問いかけは、被曝リスクから逃れようと必死な想いで避難した母子には酷だった。
甲信越地方に避難した家族の子どもは、同級生から「放射能で死んじまえ」と罵られた事を機に転校した。今回のように大きく報じられないだけで、原発事故による避難者は、有形無形の迫害を受けてきた。9日に開かれた「福島原発被害東京訴訟」の原告本人尋問でも、いわき市から都内に避難した子どもが、同級生から「放射能がやって来た」、「お前らタダで東京に住んでるのか」などと暴言を浴びせられ、蹴られた様子が母親の口から赤裸々に語られた。
心無い言動に傷ついたのは、政府の避難指示が出ている区域からの避難者も同じだ。浪江町から中通りに避難した町民は、独自に自治会をつくり毎月積み立てたお金で温泉旅行に行った。普段、世話になっているからと近所の人にお土産としてまんじゅうを買ってきたら「あらいいわねえ、原発事故の賠償金で温泉に入れるのね」と嫌味を言われたと悔し涙を流した。避難指示区域の住民は今も1人10万円の賠償金を毎月受けているが、それとて正当な権利。非難されるいわれは無い。しかし同じ福島県民同士ですら、原発事故によるあつれきが生じているのが現実だ。
先の北海道に避難した母親は、職場での〝パワハラ〟にも悩まされている。「職場の上司から『避難をやめて帰るの?定住するの?』と尋ねられました。定住するつもりだと伝えると『定住するつもりなら良いんだけどね、ちょっと来て帰るっていう人が街づくりに関して色々と発言するのは、ここに長く住んでる人は良く思わないからね』と言われました」。これではまるで、避難者はおとなしくしていろと言わんばかりだ。仕事の面接で「避難者だから、どうせすぐに帰るんでしょ?」と言われて不採用になったケースもあるという。大人がこれでは、子どもが原発避難に正しい理解を出来ないのも無理も無いのかもしれない。

夫を福島に残し、母と子だけで県外に避難した家族も少なくない。その上、周囲の心無い言動に傷つけられては、避難者があまりにもかわいそうだ
【「いいわね、避難者はお金がもらえて」】
今回は、2011年に福島県から神奈川県横浜市に〝自主避難〟した家族の息子が、転入した横浜市内の市立小学校で名前に「菌」を付けて呼ばれたり「原発事故の賠償金をもらっているだろう」などと現金を脅し取られた事。中学生になった現在に至るまで学校に通えていない事が各メディアの報道で指摘された。いじめ防止対策推進法に基づく「横浜市いじめ問題専門委員会」(弁護士や精神科医、学識経験者などで構成)が、今月まとめた報告書で学校側の対応の不備を問題視した事も、〝事件〟が大きく報じられる一因となった。
しかし、問題は原発事故による避難者が今回のケースに限らず、5年以上にわたって傷つけられ続けてきた事だ。都内への避難者らでつくる「むさしのスマイル」(岡田めぐみ代表)が2015年9月に発行した冊子「今、届けたい。避難してがんばっているママたちへ」でも、次のような避難者の声が紹介されている。
「友達に差別的な事を言われてしまいました。そういうことを子どもが言うとは思えないので、親が家で言っているのかな、と思ってしまいます」(福島市から避難)
「(避難指示区域と違い)私たちは月10万円の賠償金はもらっていないけれど、それを知らない人も多くて誤解されているなと思います」(郡山市から避難)
「カーテンを交換した時、通りすがりの女性に『いいわね、避難者はお金がもらえて』と言われた事がある」(いわき市から避難)
大人の無理解、偏見が子どもにも波及し、避難者を傷つける。そして、極めつけの〝いじめ〟が、来春に控えた自主避難者向け住宅の無償提供打ち切りだ。これではますます「避難する必要が無いのに逃げている」、「いつまで国や行政の支援を受け続けたいのか」などと誤解が広がってしまう。国や福島県による住宅の無償提供打ち切りは、決して〝安全宣言〟では無い。
10月下旬、東京・永田町で開かれた集会で、福島市から京都府に避難している母親は「住宅以外の支援がほとんど無い中で、みんな本当に苦労してきた。いじめや不登校と闘っている子どももいる」と無償提供継続を訴えた。菅直人元首相(民進党)も「何とか(打ち切りを)押しとどめなければならない」と語る。しかし、福島県の内堀雅雄知事は避難者との面会要求に応える事も無く、打ち切りを強行しようとしている。
あなたの周りに、原発事故による被曝リスクから逃げてきたとさえ口に出来ずにじっと身を潜めている避難者はいないだろうか。まずは彼ら彼女らの言葉に耳を傾ける事から始めたい。孤独からの解放が、どれだけ避難者にとって救いになるだろう。そういった歩み寄りが、子ども同士の暴力も無くしていくのではないか。
(了)
【「放射能がうつるから近づくな」】
本紙ではこれまで、避難者が受けてきた〝いじめ〟をたびたび報じてきた。
「こんなにいじめられるくらいなら、いっそのこと原発事故の爆発でひと思いに死んでしまった方が良かった」と話したのは、福島市から山形県南陽市に母子避難した30代の母親(2012年10月25日号)。
南陽市では「東電からずいぶんと金をもらったんだろ?」と質問攻めに遭った。 「年配の方には非常に親切にしていただきました。でも、多くの人が『福島の人は東電からいくらもらっているの?』と好奇心丸出しで聞いてくるんです。次第に福島から来たといえなくなってしまいました」。避難を中断し、福島市に戻れば、娘の通っていた小学校の保護者から「よくも戻って来られたな」、「そんなに被曝を気にするのなら帰って来なければ良かったのに…」などと責められた。
政府の避難指示が出ていない区域から避難した、いわゆる〝自主避難者〟に対しては、東電から今も賠償金が支払われているという「誤解」が少なくない。そもそも、加害者側が一方的に避難区域の内外を線引きした上に、大人に対しては1人12万円、原発事故当時、18歳以下の子どもか妊娠していた女性に対しては40万円が支払われただけだ。とてもじゃないが「ずいぶんと東電からもらった」とうらやましがられるほどの賠償金を手にしているわけではない。各地で完全賠償を求める訴訟が起きているのはそのためだ。
郡山市の40代の母親は、近所の人が福島県外に避難し、子どもが転入した学校で「放射能がうつるから近づくな」との暴言を浴びて不登校になったと証言した(2014年03月15日号)。福島ナンバーの車が傷つけられたという話は数えきれないほどある。福島県からの避難者であるということを悟られないために、避難先でナンバープレートを現地のものに交換した母親さえいるほどだ。
同じく郡山市から静岡県内に避難した父親の息子は、小学校のクラスメートに「お前なんか福島に帰れ」、「原発が無くなったら電力が足りなくなって困るんだよ」などと暴言を浴びていた事に心を痛めていた(2016年03月09日号)。息子は母親に「僕だって、来たくて静岡に来たわけじゃない…」と怒りをぶつけた。原発事故さえ無ければ、避難する必要など無かったのだ。何も好き好んで住み慣れた街を離れたわけでは無い。

2012年8月、都内で行われた抗議行動。国が明確に「避難の権利」を認めなかった事が、避難者への偏見を助長した
【「放射能で死んじまえ」】
福島県中通りから北海道に〝自主避難〟した母親の息子は、やはり転入した小学校で質問攻めに遭った。「避難所にいたの?津波で家がなくなっちゃったの?」。子どもは困ってしまった。どちらも当てはまらない。悪意のある〝いじめ〟ではないが、「じゃあ何で避難したの?」という単刀直入な問いかけは、被曝リスクから逃れようと必死な想いで避難した母子には酷だった。
甲信越地方に避難した家族の子どもは、同級生から「放射能で死んじまえ」と罵られた事を機に転校した。今回のように大きく報じられないだけで、原発事故による避難者は、有形無形の迫害を受けてきた。9日に開かれた「福島原発被害東京訴訟」の原告本人尋問でも、いわき市から都内に避難した子どもが、同級生から「放射能がやって来た」、「お前らタダで東京に住んでるのか」などと暴言を浴びせられ、蹴られた様子が母親の口から赤裸々に語られた。
心無い言動に傷ついたのは、政府の避難指示が出ている区域からの避難者も同じだ。浪江町から中通りに避難した町民は、独自に自治会をつくり毎月積み立てたお金で温泉旅行に行った。普段、世話になっているからと近所の人にお土産としてまんじゅうを買ってきたら「あらいいわねえ、原発事故の賠償金で温泉に入れるのね」と嫌味を言われたと悔し涙を流した。避難指示区域の住民は今も1人10万円の賠償金を毎月受けているが、それとて正当な権利。非難されるいわれは無い。しかし同じ福島県民同士ですら、原発事故によるあつれきが生じているのが現実だ。
先の北海道に避難した母親は、職場での〝パワハラ〟にも悩まされている。「職場の上司から『避難をやめて帰るの?定住するの?』と尋ねられました。定住するつもりだと伝えると『定住するつもりなら良いんだけどね、ちょっと来て帰るっていう人が街づくりに関して色々と発言するのは、ここに長く住んでる人は良く思わないからね』と言われました」。これではまるで、避難者はおとなしくしていろと言わんばかりだ。仕事の面接で「避難者だから、どうせすぐに帰るんでしょ?」と言われて不採用になったケースもあるという。大人がこれでは、子どもが原発避難に正しい理解を出来ないのも無理も無いのかもしれない。

夫を福島に残し、母と子だけで県外に避難した家族も少なくない。その上、周囲の心無い言動に傷つけられては、避難者があまりにもかわいそうだ
【「いいわね、避難者はお金がもらえて」】
今回は、2011年に福島県から神奈川県横浜市に〝自主避難〟した家族の息子が、転入した横浜市内の市立小学校で名前に「菌」を付けて呼ばれたり「原発事故の賠償金をもらっているだろう」などと現金を脅し取られた事。中学生になった現在に至るまで学校に通えていない事が各メディアの報道で指摘された。いじめ防止対策推進法に基づく「横浜市いじめ問題専門委員会」(弁護士や精神科医、学識経験者などで構成)が、今月まとめた報告書で学校側の対応の不備を問題視した事も、〝事件〟が大きく報じられる一因となった。
しかし、問題は原発事故による避難者が今回のケースに限らず、5年以上にわたって傷つけられ続けてきた事だ。都内への避難者らでつくる「むさしのスマイル」(岡田めぐみ代表)が2015年9月に発行した冊子「今、届けたい。避難してがんばっているママたちへ」でも、次のような避難者の声が紹介されている。
「友達に差別的な事を言われてしまいました。そういうことを子どもが言うとは思えないので、親が家で言っているのかな、と思ってしまいます」(福島市から避難)
「(避難指示区域と違い)私たちは月10万円の賠償金はもらっていないけれど、それを知らない人も多くて誤解されているなと思います」(郡山市から避難)
「カーテンを交換した時、通りすがりの女性に『いいわね、避難者はお金がもらえて』と言われた事がある」(いわき市から避難)
大人の無理解、偏見が子どもにも波及し、避難者を傷つける。そして、極めつけの〝いじめ〟が、来春に控えた自主避難者向け住宅の無償提供打ち切りだ。これではますます「避難する必要が無いのに逃げている」、「いつまで国や行政の支援を受け続けたいのか」などと誤解が広がってしまう。国や福島県による住宅の無償提供打ち切りは、決して〝安全宣言〟では無い。
10月下旬、東京・永田町で開かれた集会で、福島市から京都府に避難している母親は「住宅以外の支援がほとんど無い中で、みんな本当に苦労してきた。いじめや不登校と闘っている子どももいる」と無償提供継続を訴えた。菅直人元首相(民進党)も「何とか(打ち切りを)押しとどめなければならない」と語る。しかし、福島県の内堀雅雄知事は避難者との面会要求に応える事も無く、打ち切りを強行しようとしている。
あなたの周りに、原発事故による被曝リスクから逃げてきたとさえ口に出来ずにじっと身を潜めている避難者はいないだろうか。まずは彼ら彼女らの言葉に耳を傾ける事から始めたい。孤独からの解放が、どれだけ避難者にとって救いになるだろう。そういった歩み寄りが、子ども同士の暴力も無くしていくのではないか。
(了)
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