【8000Bq/kg以下は公共工事へ】被曝強いられる土木作業員~除染土壌の再利用へ突き進む環境省。南相馬市で実証実験も
- 2016/06/09
- 07:12
福島県内の除染作業で生じた汚染土壌のうち、8000Bq/kg以下のものを全国の公共事業に再利用するとの方針を環境省が打ち出したことを受けて、国際環境NGO「FoE Japan」は8日午後、東京・永田町の参議院会館で中止を求める政府交渉を行った。除染土壌を減らすことが至上命題の環境省にとって再利用は悲願。従来の基準を無視し、土木作業員に被曝を強要してでも再利用に邁進する。5月2日に続いて提出された反対署名は1万5000筆を超えたが、環境省の方針は変わらない。帰還政策が招いた大量の除染土壌が、全国にばら撒かれる。
【再利用ありき、数字は後付け】
除染で生じた汚染土壌をとにかく減らしたい。目的のためには従来の考え方も基準も捻じ曲げる。施工現場の土木作業員が被曝を強いられようとも構わない─。環境省の方針が改めて浮き彫りになった。
政府交渉に参加した瀬川嘉之さん(高木学校)が環境省の〝被曝強要〟を批判する。
「通常、一般公衆の被曝限度は年1mSv。公共事業に従事する土木作業員は、その仕事に携わるだけで1mSvに達してしまうではないか」
しかも原発作業員と違い、健康手帳などで累積被曝線量が管理される訳ではない。複数の公共事業現場で働けば累積被曝線量は1mSvを大きく上回ることになる。「そもそも、汚染土壌を利用した公共事業であって被曝の危険性があるという事を現場の作業員はきちんと認識するのか。詳細な事前説明会が必要だ」。
瀬川さんの指摘はもっともだ。なぜ、土木作業員だけが「一般公衆」の適用を除外されるのか。前回に続いて出席した、環境省の山田浩司参事官補佐(水・大気環境局中間貯蔵施設担当参事官室)も反論出来ない。「施工中の土木作業員は年1mSv、施工後の周辺住民は年10μSvを下回るよう検討した」と繰り返すのが精一杯だった。
環境省の「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」は今月7日、第4回の会合を開いたが、土木作業員が汚染土壌に直接触れても問題ないレベルとして、作業期間が半年間の場合は8000Bq/kg、1年間の場合は6000Bq/kgという濃度を了承している(土砂やコンクリートで被覆する工事の場合)。そもそもこの国では、商業用原子炉の廃炉に伴って生じた廃棄物の再利用に関しては、100Bq/kgを超えてはならないというのがルールだった。それが原発事故が起きたら一気に80倍に引き上げられた。避難指示の解除基準が、年1mSvではなく20mSvにされているのと同じ構図だ。再利用の方針を先に打ち立てて、後から合理性のありそうな数字を当てはめていくやり方には、疑問を抱かざるを得ない。

除染土壌の再利用方針に反対して開かれた政府交渉。環境省は近く、福島県南相馬市で実証実験を始める方針だ=参議院会館
【本来は100Bq/kg以下でも限定再利用】
「ダブルスタンダードだ」という批判に対し、山田参事官補佐は前回同様の説明を繰り返した。
「100Bq/kgとは少し違う世界を考えています。100Bq/kgはむき出しのままでも使える基準だったが、今回の再利用は覆土とセットでないと駄目だという制度なんです」
汚染土壌を盛り土に再利用する場合、土砂やコンクリートで50センチ以上の高さで覆えば、通行人や周辺住民の追加被曝は年10μSv以下に抑えられるというのが環境省の考え方だ。「管理をするから大丈夫」。政府交渉の場でも、随所に「管理」という言葉が登場した。しかし、実際には環境省は汚染土壌を公共工事の事業者に引き渡した時点で終わり。覆土の高さが守られているかなど事業者任せになってしまう事は、環境省も認めている。
大規模な自然災害で覆土が崩壊する危険性もある。測定・分析を通して放射能汚染の実態解明に取り組んでいるNPO法人「ちくりん舎」の青木一政さんは言う。
「そもそも『管理された状態』というのはどういう状態を指すのか。地震や集中豪雨による崩壊は考慮されていないではないか。年月を経る事による劣化も加味されていない。手抜き工事などの不正も当然、起こり得るだろう。汚染土壌の再利用なんて、してはいけないんだ」
政府交渉に出席した電気事業連絡会(電事連)の大浦廣貴副部長(原子力部兼福島支援本部)が、100Bq/kg以下の放射性廃棄物再利用の現状を説明した。
「たとえばベンチに加工して原子力施設や原発PR施設、官公庁のロビーなどにPRを兼ねて置いていただいている状況です。製品として市場に流通しているという事はありません。あくまで限定再利用です」
100Bq/kg以下であっても、これだけ用途が限定されているのが実情なのだ。それを「覆土をし厳重に管理する」という名目で全国にばら撒こうとしているのが環境省。「FoE JAPAN」理事の満田夏花さんも思わず「本当に『環境』省ですか?」と尋ねたほどだ。
原子力規制委員会には、環境省の方針はどう映っているのか。しかし、中島和弘安全規制管理官補佐(廃棄物・貯蔵・輸送担当)の言葉には、参加者たちも失笑するしかなかった。
「縦割り行政で申し訳ないが、環境省の方針を云々する立場にありません。我々は原子力施設から放射性物質を外に出さないようにする立場です。外に出てしまった物については環境省の管轄ですから…」

5月2日に続いて提出された反対署名。署名数は1万5000筆を超えるが、環境省は再利用に邁進している
【至上命題の「除染土壌減らし」】
環境省は近く、8000Bq/kg以下の汚染土壌を再利用しても覆土をすることで被曝を抑えられる事を実証するための実験を、福島県南相馬市小高区内の仮置き場で始める。山田参事官補佐によると「既に行政区長会には説明し、了解をいただいている。これから地権者に説明をして同意を得る段階。金額やどこのゼネコンに請け負ってもらうかは、これから公募する」という。
周辺住民の同意は特に取り付けないが「今後、空間線量の測定会を開くなどして、住民には実際に(安全性を)感じていただくことも考えている」という。「ぜひうちに、という自治体があれば、福島県外でも実証実験を行いたい」(山田参事官補佐)と、全国での実証実験も念頭にあるという。「中間貯蔵施設に搬入した除染土壌は30年以内に福島県外の最終処分場に搬出する」と約束した以上、除染土壌を減らす事が至上命題。そのためには再利用を進める必要がある。昨年の集中豪雨や熊本地震のような災害が起きる事は当然、実証実験では想定されない。
この日は、改めて環境省方針に反対する署名が提出された。署名数は前回提出分と合わせて1万5734筆に達する。満田さんは「そもそも汚染物質は集中管理、移動させないのが大原則。『帰還』、『除染』ありきの政策を見直すべきではないか」と批判したが、環境省の方針は変わらない。土木作業員の犠牲の下、除染土壌減らしという名の汚染ばら撒きが始まる。
(了)
【再利用ありき、数字は後付け】
除染で生じた汚染土壌をとにかく減らしたい。目的のためには従来の考え方も基準も捻じ曲げる。施工現場の土木作業員が被曝を強いられようとも構わない─。環境省の方針が改めて浮き彫りになった。
政府交渉に参加した瀬川嘉之さん(高木学校)が環境省の〝被曝強要〟を批判する。
「通常、一般公衆の被曝限度は年1mSv。公共事業に従事する土木作業員は、その仕事に携わるだけで1mSvに達してしまうではないか」
しかも原発作業員と違い、健康手帳などで累積被曝線量が管理される訳ではない。複数の公共事業現場で働けば累積被曝線量は1mSvを大きく上回ることになる。「そもそも、汚染土壌を利用した公共事業であって被曝の危険性があるという事を現場の作業員はきちんと認識するのか。詳細な事前説明会が必要だ」。
瀬川さんの指摘はもっともだ。なぜ、土木作業員だけが「一般公衆」の適用を除外されるのか。前回に続いて出席した、環境省の山田浩司参事官補佐(水・大気環境局中間貯蔵施設担当参事官室)も反論出来ない。「施工中の土木作業員は年1mSv、施工後の周辺住民は年10μSvを下回るよう検討した」と繰り返すのが精一杯だった。
環境省の「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」は今月7日、第4回の会合を開いたが、土木作業員が汚染土壌に直接触れても問題ないレベルとして、作業期間が半年間の場合は8000Bq/kg、1年間の場合は6000Bq/kgという濃度を了承している(土砂やコンクリートで被覆する工事の場合)。そもそもこの国では、商業用原子炉の廃炉に伴って生じた廃棄物の再利用に関しては、100Bq/kgを超えてはならないというのがルールだった。それが原発事故が起きたら一気に80倍に引き上げられた。避難指示の解除基準が、年1mSvではなく20mSvにされているのと同じ構図だ。再利用の方針を先に打ち立てて、後から合理性のありそうな数字を当てはめていくやり方には、疑問を抱かざるを得ない。

除染土壌の再利用方針に反対して開かれた政府交渉。環境省は近く、福島県南相馬市で実証実験を始める方針だ=参議院会館
【本来は100Bq/kg以下でも限定再利用】
「ダブルスタンダードだ」という批判に対し、山田参事官補佐は前回同様の説明を繰り返した。
「100Bq/kgとは少し違う世界を考えています。100Bq/kgはむき出しのままでも使える基準だったが、今回の再利用は覆土とセットでないと駄目だという制度なんです」
汚染土壌を盛り土に再利用する場合、土砂やコンクリートで50センチ以上の高さで覆えば、通行人や周辺住民の追加被曝は年10μSv以下に抑えられるというのが環境省の考え方だ。「管理をするから大丈夫」。政府交渉の場でも、随所に「管理」という言葉が登場した。しかし、実際には環境省は汚染土壌を公共工事の事業者に引き渡した時点で終わり。覆土の高さが守られているかなど事業者任せになってしまう事は、環境省も認めている。
大規模な自然災害で覆土が崩壊する危険性もある。測定・分析を通して放射能汚染の実態解明に取り組んでいるNPO法人「ちくりん舎」の青木一政さんは言う。
「そもそも『管理された状態』というのはどういう状態を指すのか。地震や集中豪雨による崩壊は考慮されていないではないか。年月を経る事による劣化も加味されていない。手抜き工事などの不正も当然、起こり得るだろう。汚染土壌の再利用なんて、してはいけないんだ」
政府交渉に出席した電気事業連絡会(電事連)の大浦廣貴副部長(原子力部兼福島支援本部)が、100Bq/kg以下の放射性廃棄物再利用の現状を説明した。
「たとえばベンチに加工して原子力施設や原発PR施設、官公庁のロビーなどにPRを兼ねて置いていただいている状況です。製品として市場に流通しているという事はありません。あくまで限定再利用です」
100Bq/kg以下であっても、これだけ用途が限定されているのが実情なのだ。それを「覆土をし厳重に管理する」という名目で全国にばら撒こうとしているのが環境省。「FoE JAPAN」理事の満田夏花さんも思わず「本当に『環境』省ですか?」と尋ねたほどだ。
原子力規制委員会には、環境省の方針はどう映っているのか。しかし、中島和弘安全規制管理官補佐(廃棄物・貯蔵・輸送担当)の言葉には、参加者たちも失笑するしかなかった。
「縦割り行政で申し訳ないが、環境省の方針を云々する立場にありません。我々は原子力施設から放射性物質を外に出さないようにする立場です。外に出てしまった物については環境省の管轄ですから…」

5月2日に続いて提出された反対署名。署名数は1万5000筆を超えるが、環境省は再利用に邁進している
【至上命題の「除染土壌減らし」】
環境省は近く、8000Bq/kg以下の汚染土壌を再利用しても覆土をすることで被曝を抑えられる事を実証するための実験を、福島県南相馬市小高区内の仮置き場で始める。山田参事官補佐によると「既に行政区長会には説明し、了解をいただいている。これから地権者に説明をして同意を得る段階。金額やどこのゼネコンに請け負ってもらうかは、これから公募する」という。
周辺住民の同意は特に取り付けないが「今後、空間線量の測定会を開くなどして、住民には実際に(安全性を)感じていただくことも考えている」という。「ぜひうちに、という自治体があれば、福島県外でも実証実験を行いたい」(山田参事官補佐)と、全国での実証実験も念頭にあるという。「中間貯蔵施設に搬入した除染土壌は30年以内に福島県外の最終処分場に搬出する」と約束した以上、除染土壌を減らす事が至上命題。そのためには再利用を進める必要がある。昨年の集中豪雨や熊本地震のような災害が起きる事は当然、実証実験では想定されない。
この日は、改めて環境省方針に反対する署名が提出された。署名数は前回提出分と合わせて1万5734筆に達する。満田さんは「そもそも汚染物質は集中管理、移動させないのが大原則。『帰還』、『除染』ありきの政策を見直すべきではないか」と批判したが、環境省の方針は変わらない。土木作業員の犠牲の下、除染土壌減らしという名の汚染ばら撒きが始まる。
(了)
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