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【68カ月目の浪江町はいま】「自宅を新築してはいけませんか?」。賠償金への無理解、心無い暴言に浪江町民から怒りと悔しさ~復興なみえ町十日市祭

賠償金などに関する原発避難者への心無い言動は、原発事故後から今日に至るまで止まることなく福島県内外で発せられてきた。19、20の両日、福島県二本松市で開かれた「復興なみえ町十日市祭」でも、これまで浪江町民が浴びせられてきた暴言への怒りや悔しさが聞かれた。事故の〝加害者〟側が一方的に線引きした避難指示区域の設定が生んだ無用の対立。それは原発事故の本質を見誤らせる。原発事故で飛散した放射性物質は、避難指示区域の内外を問わず環境を汚染した。すべての避難者が周囲の目に遠慮せず堂々と生きられる社会を目指したい。


【車の買い替えにも〝周囲の目〟】
 浪江町内の帰還困難区域から中通りに避難している女性(60代)の目は、怒りと同時に哀しみに満ちていた。
 「避難先に家を建てるのは当然でしょ?かつての自宅と同じような規模の家に住みたいと考えるのは当たり前でしょ?それなのに、周囲からは『賠償金をもらってるから、あんなに立派な家が建てられるんだ』なんて陰口を叩かれる。直接、言ってくる人もいますよ。5年8カ月が経ったって、いまだに言われます。自宅周辺は今でも10μSv/hから20μSv/hもあるんですよ。逃げているのには、ちゃんとした理由があるんです。そこをきちんと理解して欲しいですよ。自宅を建てるのは、そんなにいけない事ですか?」
 車を買い替えようとするにも、周囲の目を気にしなければならない。原発事故が無ければ、そもそも避難する必要など無かった。今まで通り、浪江町の自宅で暮らせた。賠償金を得るのは当然の権利。そして放射能汚染で住まいを奪われたのだから新たな住居を求めるのは当然の事だ。しかし、そんな〝正論〟が通用しないのが現実社会というものか。
 「賠償金が多額になるのは一部の人で、私だって決して十分に償われているわけでは無いですよ。それとて、住めなくなった事や働けなくなった事などを、それしか方法が無いからお金に換算して払ってもらっているだけ。毎月支払われている10万円(避難指示区域からの避難者に対し、東電が「避難生活等による精神的損害」との名目で支払っている賠償金)にしても、そんな金額で心のすきまは埋まりませんよ」
 同じように中通りに避難した仲間たちと作った手芸作品を手にしながら、女性は寂しそうな表情をした。皆で集まり、愚痴を言い合いながら作業に没頭する時間が一番のストレス解消になるという。原発事故被害者を妬みの対象にしてはならない。




(上)十日市祭で披露された「室原の神楽」。地域の伝統芸能を存在区の危機に追いやっているのもまた、原発事故だ
(下)仮設住宅などで暮らす町民の手芸作品も展示された。愚痴を言い合いながら作ることでストレス解消になるという

【「10万円が走ってるぞ」と野次】
 「朝起きたら、自家用車に生卵がぶつけられていた事がありました。『いわきナンバー』だから浜通りからの避難者だって分かるんでしょうね」
 やはり中通りに避難している60代の女性も、哀しげな表情で語った。
 「賠償金に関して間違って伝わっていると思う。私たちはお金に代えられない多くの物を失ったのよ。裏山には山の幸がいっぱいあった。キノコやシイタケ、ヤマブドウなどがお花畑のように生えていて、それを味わう事が出来た。それらも全部、放射能汚染に奪われたのよ。そういう事も含めてお金で償ってもらうしか無いのに『そんなに金が欲しいのか』って言われてしまうでしょ。納得出来ないわよね」
 福島県外に避難した家族の子どもが学校で「放射能がやって来た」とからかわれたのを機に、学校に通えなくなってしまったというような話はいくつも耳にした。自身も、健康を維持しようと避難先の公営プールを利用しようとしたら、係員から拒否された。「避難者は税金を払っていないから利用する資格が無い」という趣旨の事を言われたという。「双葉郡から避難してきた連中は良いなあ。俺たちが払った税金で生活出来て」という会話を偶然、聞いてしまった事もある。
 「悔しくて涙が出ますよ。同じ福島県民なのにね。今、横浜の子どもの事で騒がれているけど、私たちだって散々、同じ目に遭って来たのよ」
 郡山市内に自宅を新築した女性(70代)も「賠償金の事を言われると哀しいよね。私らは何もかもを失ったのよ。原発事故が無ければ、大地震だけで終わっていれば、避難する事も家を新たに建てる必要も無かったんだから」と言葉少なに語った。「復興なみえ町十日市祭」を主催する浪江町商工会の幹部は「いわき市で行われた運動会で、徒競走中の子どもに対して『10万円が走ってるぞ』という野次が浴びせられた事がありましたね。何年か前の話ですが」と表情を曇らせた。放射性物質は人の心までも汚染してしまうのか。




(上)町民の作品の中には「難局」と「南極」を掛けた作品も。浪江町民の〝敵〟は残念ながら放射能だけではない
(下)来春、在校生の卒業をもって休校が決まっている浪江高校と津島校の校旗も展示された=二本松市・市民交流センター

【〝加害者〟側の線引きで溝】
 こんな声もあった。
 「避難って言っても、避難した先には〝自主避難〟した人たちがいるわけでしょ。被曝の不安があるような地域に〝避難〟している私らって何なんだろうね。二本松だって決して放射線量が低いわけでは無いものね」
 放射性物質の飛散は行政区分に左右されない。福島第一原発から100kmも離れた西郷村にも降り注いだ。福島県外でもホットスポットは確認されている。政府の避難指示に土壌の汚染度合いは考慮されず、判断材料は空間線量のみ。しかも浪江町など「避難指示区域内」と中通りやいわき市など「避難指示区域外」は、原発事故を起こした側が一方的に線引きした。
 避難先にも被曝リスクが存在する矛盾。そこに金銭が絡み、本来であれば手を携えるはずの被害者の間に無用の溝を作り出してしまった。これは、福島県伊達市や南相馬市の一部で指定された「特定避難勧奨地点」と同じ構図だ。
 福島県外で娘と暮らす30代の母親は言う。「私たちは幸いにして直接、嫌な想いをした事は無かった。でも、理解不足から『来年、避難指示が解除されるのね、良かったわね。これでもう帰れるわね』などと言われると、ちょっと違うんじゃないかなって思いますよね。現実は、そういう状況では無いですから。まだまだ時間がかかります」。一方で「私も、立場が逆だったら、悪意が無くても相手を傷つけてしまう事があるかもしれませんね。当事者でないと、なかなか理解しにくいですよね」とも。国も行政もメディアも、理解を深め、溝を埋める努力を怠ってきたのではないか。
 今年の「復興なみえ町十日市祭」では、休校が決まっている福島県立浪江高校や同津島校の校旗や行事の写真など、学校の歩みも展示された。それぞれ県立本宮高校、県立安達高校内の仮設校舎で学んで来たが、14人と12人の現3年生を送り出す卒業式が最後の学校行事となる。「原発事故が無ければ休校なんて事にはなりませんでした」と教諭。女学校としてスタートした浪江高校は今年、創立90周年を迎えた。原発事故は伝統ある学校までも奪った。90周年記念誌には「休校は悔しい」などと在校生の言葉が並ぶ。
 避難者が遠慮がちに生活しなければならない社会は、もう終わりにしたい。無用の対立は原発事故の本質を隠してしまう。それこそ、原発再稼働に邁進したい国や電力会社の思うつぼなのだ。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)

大手メディアが無視する「汚染」、「被曝」、「避難」を追い続けています。

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