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【続・原発事故と〝いじめ〟】横浜の両親が会見。〝自主避難〟に対する誤解への悔しさにじませる。加害児童には「将来ある子ども。叩かないで」と配慮も

原発事故により福島県内から神奈川県に〝自主避難〟した家族の子どもが小学校で暴力を振るわれたり金を脅し取られたりした問題で、被害児童の両親が23日午後、横浜市内で開かれた記者会見で記者からの質問に答えた。自己保身とも言える対応に終始した小学校や横浜市教委の対応への怒りに加え、〝自主避難者〟への無理解に対する悔しさもにじませた。代理人の弁護士も「氷山の一角。国もメディアも避難者の立場を尊重していないから、こういう事態になる」と指摘する。子どもは大人の言動を見て真似る。子どもにまで広がる避難者への偏見を断ち切りたい。


【親が言わせる「賠償金あるだろ」】
 記者からの質問は当然ながら、学校や横浜市教委の対応のまずさや被害児童が書いた「手記」に集中した。しかし、私は原発事故による避難者、とりわけ政府の避難指示の出ていない地域からの〝自主避難者〟に対する世間の無理解や偏見に関して両親に尋ねた。父親は穏やかな口調でこう答えた。
 「自主避難者について、世間の人々は分からないと思います。確かに東電から賠償金は少し出たが、福島から横浜までの転居費用や家賃など全て自己負担です。今回の件で、避難者の実情を少しでも理解していただければありがたいです」
 踏み込んだ発言は避けていたが、被曝リスクに加えて、原発事故で仕事を失った事も新たな土地での生活再建を目指すきっかけとなった。地縁も血縁も無い横浜を避難先に選んだのも、働き口が見つかったから。福島からの避難者が多く、支援団体が充実していた事も横浜を選ぶ要因になった。母親は「地元に居られるものなら居たかったですよ。でも、残りたくても仕事が無い。もちろん、被曝リスクを避けるという意味合いもありましたけど、避難ってそれだけでは無いんですよ」と補足した。そして、ともすれば原発事故によって多額の賠償金を得ているかのように世間から誤解されている事への対する悔しさもにじませた。
 「(政府の避難指示も出ていないのに)勝手に避難したと思われていますよね。政府に対しても言いたい事はいっぱいありますけど、言えないな…。我慢していますよ。避難者って本当に個々に事情が違うんです。一定の支援を受けている人もいるだろうし、でも支援すら受けられていない避難者もたくさんいます。苦しんでいる人は多いんですよ。でも、世間の認識は『福島県民イコール賠償金をいっぱいもらっている』。あきらめるしかないですよね。当事者でないと理解出来ないと思う」
 自分に言い聞かせるように、何度も「しょうがない」と口にした母親。言葉を飲み込む場面も多々あった。しかし、当然ながら正しい認識を持って欲しいとも考えている。
 「『賠償金あるだろ』なんて、親が言わないと子どもも口にしないのではないでしょうか。それぞれの家庭で、(原発避難者に関して)どういう話をしているのかな、と思います。きちんと認識した上で口にしていただきたいですよね」


横浜市内で開かれた両親の記者会見は、プライバシー保護などの理由から撮影が禁じられた。両親は記者の質問一つ一つに丁寧に回答。「原発避難者の実情を理解していただければありがたい」などと語った

【報じられぬ避難者の実態】
 両親の代理人として横浜市教委などとの交渉にあたり、会見にも同席した黒澤知弘弁護士は、こう指摘する。
 「『子ども被災者支援法』の理念に従い。国が非を認めて避難の権利を公に認めていれば、避難者が苦労することも無かった」
 そもそも、原発事故など無ければ、子どもが〝いじめ〟に遭う事も無かった。その上、避難者は政府による避難指示の有無で一方的に区別され、挙げ句には避難を終わらせて福島に戻る事こそ復興に貢献するかのような風潮さえある。「自主避難者が風評被害を助長している」という声は、これまでの取材で何度も耳にした。
 「〝自主避難者〟は、避難の権利を否定され自己責任だと叩かれてしまっていますからね。国も東電も、それでいて、あたかも十分な賠償金を支払っているかのようなポーズをとっている」と黒澤弁護士。そして、メディアの責任にも言及する。「避難者の実態が全く報じられていないから、子どもたちにまで誤解が伝染してしまっています。国もメディアも避難者の立場を尊重していれば、そもそも避難指示区域内外での区別など無ければ、状況は違っていたと思います」
 今回の事件ではもちろん、児童の被害が発覚した後の学校や市教委の対応は酷い。この日の会見でも、両親は「対応する気が無いんだなと思った」、「いまだに不信感はある」などと怒りを口にした。児童が母親の財布から現金を抜いたのも、お金を渡せば「プロレスごっこ」と称した暴力を受けずに済んだからだ。親戚からの借金を返すためにタンスに入れておいたお金も、児童が身を守る手段として全て使われた。その金額は150万円にのぼる。
 「お金の管理が悪かったという点は十分に反省している。でも、あのお金があったからこそ、子どもは(自殺という)最悪の事を考えずに済んだのではないか」と父親は振り返る。それらを訴えても、学校は動かなかった。しかし、単なるいじめ事件という側面だけでとらえて良いものか。疑問も残る。
 「区域外避難者の立場というのは、自分ではどうする事も出来ないですよね。そういう『属性に対する攻撃』というのは、差別の最大の問題なんです。一番卑劣な攻撃です」。神奈川県弁護士会子どもの権利委員会の委員も務める黒澤弁護士は語気を強める。「今回の事件は氷山の一角。メディアの責任も重いですよ」。


「避難者の実態が全く報じられていない」と語る黒澤弁護士。今回の事件の背景には、原発避難者への無理解・偏見があると指摘する

【「死を選ばないで」】
 会見は、録音を含めて撮影が一切、禁じられた。個人が特定されて家族に悪影響が及ぶ事を懸念しただけでなく、加害児童までもがネット上などで叩かれてしまわないかと両親が心配したからだ。「仕事に影響するかもしれないし、経済的な理由から他の地域に引っ越す事も出来ない。くれぐれも個人情報出ないようにお願いします」と父親は頭を下げた。「言いたいことはたくさんあるが、加害児童も将来のある子どもですから」とも。保護者も含めて加害者側が名前などをさらされて叩かれるのは本意ではないと強調した。
 母親も「3年生までは、学校は本当に親身になってくれていた。校長は毎日、校門で待っていて、手をつないで教室まで一緒に行ってくれたんです。全ての先生が駄目だったようになってしまっているのは違う」と繰り返した。しかし、4年生になると学校の対応は一変した。話し合いで解決しようと努力したが、加害児童の保護者の対応にもがっかりさせられた。公表された被害児童の「手記」は昨夏、母親の前でルーズリーフに感情を殴り書いたものだ。大人たちにこう訴えた。
 「ばいしょう金あるだろ、と言われ、むかつくし、ていこうできなかたのも、くやしい」
 「ばいきんあつかいされて、ほうしゃのうだとおもって、いつもつらかった。福島のひとは。いじめられるとおもった。なにも、ていこうできなかった」
 そして
 「いままでなんかいも死のうとおもった。でも、しんさいでいっぱい死んだから、つらいけどぼくはいきるときめた」
 被害児童はフリースクールへの通学が始まり、少しずつ明るさを取り戻しているという。「仕事が休みの日は、一緒に自転車に乗りたいなどと甘えてくるんですよ」と父親。未曽有の大震災と原発事故で心に傷を負い、避難先で心身ともに深い痛手を負った少年は、ジグソーパズルのピースをはめ込むように少しずつ奪われた時間を取り戻そうと努力している。「学校が楽しい」とも口にするようになった。両親が記者会見に臨む事を知り、母親にこう話したという。
 「僕のように、いじめに苦しんでいる全国の子どもを助けて欲しい。とにかく死んで欲しくないんだ。死んじゃったら何も訴えられなくなる。必ず助けてくれる大人はいる。死を選ばないでと伝えて欲しい」
 そんなわが子を、母親はこんな言葉で包み込んだ。
 「うちの子はボロボロになりました。受けた仕打ちは、自殺してもしょうがない内容ばかりだった。生きていてくれて本当にありがとう」
 少年の想いに応えるためには何が必要だろうか。あなたも〝加害者〟になっていませんか。避難者を尊重出来ていますか。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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