【自主避難者から住まいを奪うな】半年間の奔走が実り請願採択。神奈川県議会も「住宅無償提供継続」求める意見書提出へ。採択の裏には苦渋の妥協も
- 2016/12/16
- 06:51
神奈川県議会の防災警察常任委員会が15日、開かれ、原発事故で福島県から神奈川県内に避難している人々から提出されていた「原発事故避難者に対する住宅提供の継続を求める請願」を全会一致で採択。意見書案の取りまとめに着手した。意見書は20日の本会議で可決される見通しで、半年にわたる避難者や支援者たちの執念とも言える奔走が実った。そして、採択の裏にある葛藤と妥協。ともすれば「わがまま」、「自己責任」で片づけられがちな〝自主避難者〟たちの必死の闘いを、私たちは直視する必要がある。打ち切りまで3カ月。原発避難者を路頭に迷わせてはいけない。
【「避難者は立ちすくんでいます」】
まさに執念が実った瞬間だった。
神奈川県議会の会議室に「異議なし」の野太い声が響いた。請願が採択され、国や福島県に提出する意見書案の取りまとめに着手する。意見書の提出は、20日の本会議で可決される見通し。傍聴席でほっと一息つく村田弘さん(74)=「福島原発かながわ訴訟」原告団長=に、自由民主党神奈川県議会議員団長の桐生秀昭県議までもが「良かったですね」と声を掛けた。17時を過ぎ、外はすっかり暗くなっていたが、村田さんの表情は晴れ晴れとしていた。
午前中には、村田さん自ら口頭陳述を行った。当初、与えられた時間は3分間だったが「せめて5分は欲しい」と求めた。ずらりと並ぶ県議や県庁幹部の前で「ぜひ力を貸していただきたい」と深々と頭を下げた。もちろん、国や福島県による住宅無償提供の継続を求めているが、口頭陳述ではそこにこだわらず、打ち切り強行後も神奈川県として独自の住宅支援を充実させて欲しいと訴えた。
「朝6時前に起きてパートに向かいながら『4月以降どうしたら家賃を払えるだろう』と頭がいっぱいになっているお母さんがいます。『新学期も同じ学校に通えるの?』と子どもに尋ねられて、『大丈夫だよ』と言いながら、こっそり不動産屋の掲示板の前に立つお父さんもいます。原発避難者はいま、3カ月後に迫った住宅提供打ち切り通告を前に立ちすくんでいます」
公営住宅入居者は現在の住まいに住み続けられるように。民間賃貸住宅入居者に対しては、福島県が打ち出している2年間限定の家賃補助(1年目は月額最大3万円、2年目は月額最大2万円)への上乗せを。しかし、それらを実現するには限られた予算の中から配分してもらう必要がある。「誠に心苦しいのですが、原発事故被害者の救済という大局的見地に立って浄財の一部を割いていただけるよう、県当局に働きかけていただきたい」。
村田さんは努めておだやかな口調で語りかけるように訴えた。福島県南相馬市から妻や猫とともに神奈川県横浜市に避難して間もなく6年。避難者らの苦労や想いは自身が良く分かっている。何とか形にしなければならない。これまで何度も国や福島県との交渉に参加したが、一向に前進しない。採択の裏には、妥協もあった。そこには、打ち切り強行を目前に控えて「正論ばかり叫んでも実を取れなければ意味が無い」という村田さんたちの苦渋の決断があった。


(上)防災警察常任委員会で口頭陳述した村田弘さん。「誰もができることなら故郷に帰りたい。でも、ただちに帰れる状況にはありません」と避難者支援の充実を訴えた
(下)深々と頭を下げた村田さん。なぜ避難者が頭を下げなければならないのか。様々な葛藤も渦巻くが「不採択では何の意味も無い」と村田さんは語る
【「不採択では意味が無い」】
請願提出の動きは、世間が参院選一色になっていた今年6月に遡る。6月議会に「住宅無償提供継続」と「神奈川県独自の支援策充実」の2通の請願提出を計画したが、提出に至らなかった。そこで、訴訟支援などを通じて交流のある「福島原発かながわ訴訟を支援する会」(ふくかな)が中心となり、請願審査が付託される常任委員会に所属する県議を訪ねて歩いた。訪問の効果を増すために地元の有権者が議員を訪ねた。1カ月以上かけて20人の県議と話をした。
そこまで奔走しても、取りまとめを期待した民進党県議は閣議決定までされている打ち切りに反対するような請願や意見書に難色を示した。「ふくかな」の共同代表・錦織順子さんは「一時は駄目だと思った」と振り返る。結局、9月議会への請願提出も叶わなかった。
それでも村田さんはあきらめなかった。「神奈川県の黒岩祐治知事は今年2月24日の本会議で『より一層、きめ細かな避難者支援を進めてまいります』、『お一人お一人の希望に沿った対応となるよう支援をしていきたい』と答弁している」。全議員105人のうち59人を占める自公県議から理解が得られるよう動いた。終盤、自民党会派から提示された請願の案文には、こんな一文が加えられていた。
「避難者が安心して福島県へ戻れる環境づくりに努めるよう国に求めること」
これは、厳密に言えば避難者たちの想いとは対極の〝帰還促進〟だ。それを村田さんは飲んだ。葛藤はあった。しかし、請願を採択させ、意見書を提出させる事に意味があると考えた。「その一文は、彼らの中央政府に対する言い訳なのでしょう。それを加える事で『住宅無償提供継続』や『子ども被災者支援法に基づく、個々の実情に寄り添った支援の継続』が盛り込まれるなら良いと考えた」。最終的に自民、公明、民進から3人が請願の紹介議員に名を連ねた。
神奈川県内では297世帯、770人が住宅無償提供打ち切りの対象となっている。そもそも家賃免除にすらなっていない避難者もいる。合言葉は「1人も路頭に迷わせない」。正論だけをぶつけるのは得策でないと考えた。「いろいろな考え方はあるでしょう。でも、不採択でも意味が無い。1つでも風穴を開けられたら良いのではないか」と村田さん。傍聴席で口頭陳述を見守った「ふくかな」のメンバーたちも大きくうなずいた。


(上)松本徳子さんは福島県郡山市から神奈川県川崎市に避難中。11月28日からの「直訴行動」にも参加し、福島県の内堀雅雄知事に住宅の無償提供継続を求めた=福島県庁
(下)内堀知事が頑なに方針を変えないまま、打ち切りの日は着々と近づく。避難者たちは「1人も路頭に迷わせない」を合言葉に住宅の無償提供継続を今後も訴えていく
【意見書無視する福島県知事】
この日は、川崎市議会でも住宅の無償提供継続を求める意見書の提出が可決された。既に意見書が提出されている茅ヶ崎、藤沢、横須賀、鎌倉などの市議会に加え、今12月議会で相模原や伊勢原の市議会でも請願が採択された。最終的に県議会も加えると神奈川県内33自治体のうち15の議会から国や福島県に意見書が提出されることになる。
住宅の無償提供打ち切り強行まで3カ月。11月末には5日間にわたる福島県庁への「直訴行動」も展開された。神奈川だけでなく、山形など全国の自治体から打ち切りに反対する意見書が届いているにもかかわらず、福島県の内堀雅雄知事は〝無視〟を続けている。山形県に至っては、吉村美栄子知事や米沢市の中川勝市長が直接、福島県に無償提供継続を求めたが、いずれも拒否されている。
一方の国も、菅直人元首相から提出された「打ち切りについて安倍晋三首相が福島県知事と協議をし、同意したのは事実か」との質問主意書に対し、答弁書で「福島県の応急仮設住宅に係る供与期間については、平成28年5月30付けで、福島県知事から内閣総理大臣に対し、平成29年3月末とされていたものにつき、特別な事情があるものについては、平成30年3月末まで延長したい旨、協議があった」、「内閣総理大臣は、平成28年6月6日付けで同意した」などと答えているが、「自主避難者切り捨て」への関与については「お尋ねの意味するところが必ずしも明らかでない」と言及を避けている。あくまでも「災害救助法に基づく応急救助の実施主体である都道府県知事」に下駄を預け、国の主体性を否定し続ける。
「われわれ避難者を受け入れてくれている自治体には頭を下げるが、国や福島県には絶対に頭は下げない」と語る村田さん。時間は限られているが、今後も、打ち切り反対と現実的な支援要望の両面から声をあげていく。
(了)
【「避難者は立ちすくんでいます」】
まさに執念が実った瞬間だった。
神奈川県議会の会議室に「異議なし」の野太い声が響いた。請願が採択され、国や福島県に提出する意見書案の取りまとめに着手する。意見書の提出は、20日の本会議で可決される見通し。傍聴席でほっと一息つく村田弘さん(74)=「福島原発かながわ訴訟」原告団長=に、自由民主党神奈川県議会議員団長の桐生秀昭県議までもが「良かったですね」と声を掛けた。17時を過ぎ、外はすっかり暗くなっていたが、村田さんの表情は晴れ晴れとしていた。
午前中には、村田さん自ら口頭陳述を行った。当初、与えられた時間は3分間だったが「せめて5分は欲しい」と求めた。ずらりと並ぶ県議や県庁幹部の前で「ぜひ力を貸していただきたい」と深々と頭を下げた。もちろん、国や福島県による住宅無償提供の継続を求めているが、口頭陳述ではそこにこだわらず、打ち切り強行後も神奈川県として独自の住宅支援を充実させて欲しいと訴えた。
「朝6時前に起きてパートに向かいながら『4月以降どうしたら家賃を払えるだろう』と頭がいっぱいになっているお母さんがいます。『新学期も同じ学校に通えるの?』と子どもに尋ねられて、『大丈夫だよ』と言いながら、こっそり不動産屋の掲示板の前に立つお父さんもいます。原発避難者はいま、3カ月後に迫った住宅提供打ち切り通告を前に立ちすくんでいます」
公営住宅入居者は現在の住まいに住み続けられるように。民間賃貸住宅入居者に対しては、福島県が打ち出している2年間限定の家賃補助(1年目は月額最大3万円、2年目は月額最大2万円)への上乗せを。しかし、それらを実現するには限られた予算の中から配分してもらう必要がある。「誠に心苦しいのですが、原発事故被害者の救済という大局的見地に立って浄財の一部を割いていただけるよう、県当局に働きかけていただきたい」。
村田さんは努めておだやかな口調で語りかけるように訴えた。福島県南相馬市から妻や猫とともに神奈川県横浜市に避難して間もなく6年。避難者らの苦労や想いは自身が良く分かっている。何とか形にしなければならない。これまで何度も国や福島県との交渉に参加したが、一向に前進しない。採択の裏には、妥協もあった。そこには、打ち切り強行を目前に控えて「正論ばかり叫んでも実を取れなければ意味が無い」という村田さんたちの苦渋の決断があった。


(上)防災警察常任委員会で口頭陳述した村田弘さん。「誰もができることなら故郷に帰りたい。でも、ただちに帰れる状況にはありません」と避難者支援の充実を訴えた
(下)深々と頭を下げた村田さん。なぜ避難者が頭を下げなければならないのか。様々な葛藤も渦巻くが「不採択では何の意味も無い」と村田さんは語る
【「不採択では意味が無い」】
請願提出の動きは、世間が参院選一色になっていた今年6月に遡る。6月議会に「住宅無償提供継続」と「神奈川県独自の支援策充実」の2通の請願提出を計画したが、提出に至らなかった。そこで、訴訟支援などを通じて交流のある「福島原発かながわ訴訟を支援する会」(ふくかな)が中心となり、請願審査が付託される常任委員会に所属する県議を訪ねて歩いた。訪問の効果を増すために地元の有権者が議員を訪ねた。1カ月以上かけて20人の県議と話をした。
そこまで奔走しても、取りまとめを期待した民進党県議は閣議決定までされている打ち切りに反対するような請願や意見書に難色を示した。「ふくかな」の共同代表・錦織順子さんは「一時は駄目だと思った」と振り返る。結局、9月議会への請願提出も叶わなかった。
それでも村田さんはあきらめなかった。「神奈川県の黒岩祐治知事は今年2月24日の本会議で『より一層、きめ細かな避難者支援を進めてまいります』、『お一人お一人の希望に沿った対応となるよう支援をしていきたい』と答弁している」。全議員105人のうち59人を占める自公県議から理解が得られるよう動いた。終盤、自民党会派から提示された請願の案文には、こんな一文が加えられていた。
「避難者が安心して福島県へ戻れる環境づくりに努めるよう国に求めること」
これは、厳密に言えば避難者たちの想いとは対極の〝帰還促進〟だ。それを村田さんは飲んだ。葛藤はあった。しかし、請願を採択させ、意見書を提出させる事に意味があると考えた。「その一文は、彼らの中央政府に対する言い訳なのでしょう。それを加える事で『住宅無償提供継続』や『子ども被災者支援法に基づく、個々の実情に寄り添った支援の継続』が盛り込まれるなら良いと考えた」。最終的に自民、公明、民進から3人が請願の紹介議員に名を連ねた。
神奈川県内では297世帯、770人が住宅無償提供打ち切りの対象となっている。そもそも家賃免除にすらなっていない避難者もいる。合言葉は「1人も路頭に迷わせない」。正論だけをぶつけるのは得策でないと考えた。「いろいろな考え方はあるでしょう。でも、不採択でも意味が無い。1つでも風穴を開けられたら良いのではないか」と村田さん。傍聴席で口頭陳述を見守った「ふくかな」のメンバーたちも大きくうなずいた。


(上)松本徳子さんは福島県郡山市から神奈川県川崎市に避難中。11月28日からの「直訴行動」にも参加し、福島県の内堀雅雄知事に住宅の無償提供継続を求めた=福島県庁
(下)内堀知事が頑なに方針を変えないまま、打ち切りの日は着々と近づく。避難者たちは「1人も路頭に迷わせない」を合言葉に住宅の無償提供継続を今後も訴えていく
【意見書無視する福島県知事】
この日は、川崎市議会でも住宅の無償提供継続を求める意見書の提出が可決された。既に意見書が提出されている茅ヶ崎、藤沢、横須賀、鎌倉などの市議会に加え、今12月議会で相模原や伊勢原の市議会でも請願が採択された。最終的に県議会も加えると神奈川県内33自治体のうち15の議会から国や福島県に意見書が提出されることになる。
住宅の無償提供打ち切り強行まで3カ月。11月末には5日間にわたる福島県庁への「直訴行動」も展開された。神奈川だけでなく、山形など全国の自治体から打ち切りに反対する意見書が届いているにもかかわらず、福島県の内堀雅雄知事は〝無視〟を続けている。山形県に至っては、吉村美栄子知事や米沢市の中川勝市長が直接、福島県に無償提供継続を求めたが、いずれも拒否されている。
一方の国も、菅直人元首相から提出された「打ち切りについて安倍晋三首相が福島県知事と協議をし、同意したのは事実か」との質問主意書に対し、答弁書で「福島県の応急仮設住宅に係る供与期間については、平成28年5月30付けで、福島県知事から内閣総理大臣に対し、平成29年3月末とされていたものにつき、特別な事情があるものについては、平成30年3月末まで延長したい旨、協議があった」、「内閣総理大臣は、平成28年6月6日付けで同意した」などと答えているが、「自主避難者切り捨て」への関与については「お尋ねの意味するところが必ずしも明らかでない」と言及を避けている。あくまでも「災害救助法に基づく応急救助の実施主体である都道府県知事」に下駄を預け、国の主体性を否定し続ける。
「われわれ避難者を受け入れてくれている自治体には頭を下げるが、国や福島県には絶対に頭は下げない」と語る村田さん。時間は限られているが、今後も、打ち切り反対と現実的な支援要望の両面から声をあげていく。
(了)
スポンサーサイト
【放射線の健康影響と学校教育】山下俊一氏が郡山で講演。「年20mSvは避難の必要無し」「チェルノブイリとは全く違う」「甲状腺ガンで誤った情報流れた」 ホーム
【子ども脱被ばく裁判】父親の怒り「原発事故で当たり前の生活奪われた」。母親の悔しさ「国も行政も住民守らなかった」~第8回口頭弁論で意見陳述