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【放射線の健康影響と学校教育】山下俊一氏が郡山で講演。「年20mSvは避難の必要無し」「チェルノブイリとは全く違う」「甲状腺ガンで誤った情報流れた」

第5回放射線教育に関する国際シンポジウムの一般公開セッション「放射線の健康影響と学校教育」 が18日、福島県郡山市で開かれ、山下俊一氏(長崎大学副学長、福島県立医科大学副学長)が「放射線健康リスクを一般公衆にどのように説明するのか~チェルノブイリと福島の原発事故から学んだ教訓」と題して基調講演。会場では「福島のうまいもんを食べよう!」と書かれたチラシが配られ「復興」一色。山下氏は「年20mSvは避難の必要無し」、「福島とチェルノブイリとは全く違う」、「甲状腺ガンで誤った情報流れた」などと語った。NPO法人放射線教育フォーラムの主催。


【「チェルノブイリと同一視するな」】
 口調は穏やか。聴衆に優しく語りかけるように、しかし山下氏はきっぱりと言った。
 「年間20mSvは健康に影響を及ぼしません」
 2020年の東京五輪を見据え、国は年間被曝線量が20mSv(毎時換算で3.8μSv)を下回っている事を根拠に避難指示を解除。たとえば飯舘村は、来年3月末に帰還困難区域を除く避難指示が解除される。避難指示の出されていない〝自主避難者〟に対する住宅の無償提供がやはり3月末で打ち切られるのも、年20mSvを大きく下回っているというのが福島県の言い分だ。
 「100mSv以下ではガン発症との因果関係を証明できない」、「100mSv以下では明らかな健康影響を見る事は出来ない」などと〝100mSv安全論〟をこの日も展開したが、冒頭の発言は住民の「避難の権利」を否定することにつながる。講演後、山下氏に直接、確認すると「年20mSv以下では健康に影響を及ぼさないから、政府も避難指示を解除している。区域外避難者も避難の必要はありません」と明言した。これでは、予防原則の考えに基づいた〝自主避難〟が理解されるはずが無い。
 山下氏は「放射線というと、反射的に『原爆』、『原発事故』、『生命を脅かす』という発想になってしまい、『怖い』が論理的思考を超えて頭を覆ってしまう」と指摘。その原因を「私たちも反省が必要だが、放射線教育がなされて来なかった」事にあると語った。「福島の現実を正しく理解していただきたい。シーベルトやベクレルなどの単位、電離と非電離の違いすら理解されていない。多くの人が風評被害に苦しんでいる」。
 さらに「チェルノブイリと福島とは違う」と繰り返し強調。「チェルノブイリでは情報が封鎖される中、放射線ヨウ素に汚染されたミルクを飲んで内部被曝をした子どもたちが甲状腺ガンを発症した。経口による内部被曝です。日本では、農家には大変申し訳ないことをしたが原乳を廃棄した。全く違うのです」、「福島で得られたエビデンスは、チェルノブイリとは線量が全く違うという事です」などと語った。




(上)「年間20mSvは健康に影響を及ぼしません」などと語った山下俊一氏。取材に対し「区域外避難者は避難の必要が無い」とも
(下)質疑応答では「論理的、科学的に聞こえない」との指摘もあった山下氏の講演会=郡山商工会議所会館

【「100mSv超の被曝無い」】
 山下氏はさらに、甲状腺検査を柱とした「県民健康調査」にも言及。「世界に類を見ない規模の超音波検査だが、原発事故が無ければ検査の必要など無かった。小さなのう胞がたくさん見つかった事で『ほら、もう異常が見つかった』という誤った情報が流れてパニックになった。残念ながらメディアや医師にまでも間違った解釈をされてしまった」と語った。
 「影響がほとんど考えられない中で大量検査をした結果、大人のガンを早く見つけてしまった。全国で広く甲状腺検査をするべきだという声もあったが、意味がありません。過剰診断の走りになるだけ。甲状腺検査に対する議論の根底は次の一点であるべきです。つまり『検査を受ける子どもたちの利益になるか否か』です」
 「福島では誰も、100mSvを超えるような被曝は無いだろうと強く言える」とも述べた山下氏。「世界では甲状腺ガンが増えているんです。それは精度管理された超音波検査が普及した事で微細な病原が見つかるようになったからです。それを福島県民は理解するべきです」。そして、こうも語った。
 「ほとんど不可能に近い問いだが、福島の人々の健康を見守る事で将来、低線量被曝の健康影響が分かるかもしれません」
 誤解、過剰診断、チェルノブイリとの違いに終始した山下氏の講演。質疑応答では「福島ではプルトニウムやストロンチウムはほとんど少ない。風評被害を防ぐために環境モニタリングの結果をきちんと理解する必要がある」とも。
 「福島ではリスクコミュニケーションは避けられない」、「現状をしっかりと理解して子どもたちに話せる指導者の養成が必要だ。広島・長崎への原爆投下が放射線を正しく教える機会を奪ってしまった。それにより、今回の原発事故と大量被曝、急性障害の恐ろしさとがごちゃごちゃに理解されてしまった」、「福島では慢性の環境汚染により日々、ストレスにさらされている。精神・心理的問題にも目を向ける必要がある」などと語って足早に会場を後にした。




(上)今年3月まで郡山第六中学校の教師だった佐々木清氏。現在は福島県環境創造センター交流棟「コミュタン福島」に勤務している
(下)佐々木氏はウクライナ視察で出会った小学6年生の言葉を紹介。「こういう子どもを福島でも出していかなければいけない」と語った

【「プラスイメージ広まる教育を」】
 実際に学校で放射線教育に取り組んでいる教師たちも報告。
 今年3月まで郡山市立郡山第六中学校の教師だった佐々木清氏は、山下俊一氏とともにウクライナ視察に行った際に出会った小学6年生の児童の言葉を紹介しながら「彼は『私の父はチェルノブイリ原発で働いています。私は父を尊敬しています。私も勉強して父と同じチェルノブイリ原発で働きたいです』と話していた。福島でも、そういう子どもを教育の中で出していかなければいけないんじゃないか」と語った。
 さらに、福島第一原発で廃炉作業に従事する作業員を学校に招いた事も報告。「東電寄りではないかとも言われたが、現状を伝えなくちゃいけない。フクイチで働いている人たちがどんな想いで働いているか、福島県の人が身を切って一生懸命やっているという事を伝えたかった」。子どもたちが「僕たちのためにありがとうございます」、「命がけで仕事をしてくださり、ありがとうございます」などと作業員宛てに書いた応援メッセージも写真で紹介しながら「人と人のつながりなんです」とも。今後の課題は「学校とコミュタンをいかにコラボさせて放射線教育を進めていくか」だという。「測定できる人材も育てたい。教育ですから、プラスイメージが広まるようにしていきたい」と話した。
 県立福島高校でスーパーサイエンス部の顧問を務める原尚志氏は、2014年からDシャトルを使った外部被曝の個人積算線量測定の取り組みを発表。「福島県内外、フランスやベラルーシ、ポーランドの学校にも協力を得て216人の高校生に携帯してもらったが、いずれの数値もほとんど変わらなかった。福島県内の生徒だけが著しく放射線を浴びているわけではないというデータが得られました」と報告した。昨年からはフランスから学生を招き、桃農家などと交流。学生らは「福島の本当の姿が分かった。帰国してぜひ伝えたい」と話したという。南相馬市立総合病院の坪倉正治医師(内科)も毎年、学校に招いて子どもたちの学習に役立てているという。
 「復興」が飛び交った一日。会場では、NPO法人ドリームサポート福島のこんなチラシも配られた。
 「福島のうまいもんを食べよう!」
 放射線教育とは結局、そういうことのようだ。



(了)
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鈴木博喜

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