【中通りに生きる会・損害賠償請求訴訟】東電「具体的な健康への危険は生じていない」。いまだ続く不安や精神的苦痛。加害者の姿勢に怒る原告~第3回口頭弁論
- 2016/12/20
- 07:44
政府の避難指示が出されなかった福島県福島市や郡山市などの「中通りに生きる会」(平井ふみ子代表)に参加している男女52人が、原発事故による放射性物質の拡散で精神的損害を被ったとして東電を相手取って起こしている損害賠償請求訴訟の第3回口頭弁論が19日、福島地方裁判所206号法廷(金澤秀樹裁判長)で行われた。東電側は準備書面で原告たちの主張を「避難指示区域外において生活を送るものに対して、低線量被曝による客観的かつ具体的な健康に対する危険が生じていると言うことはできない」などと一蹴。傍聴席は怒りに包まれた。次回期日は2017年2月7日14時。来夏にも原告の本人尋問が行われる見通しだ。
【東電「中通りでは危険生じていない」】
法廷でのやり取りは10分ほどで終わったが、被告・東電の代理人弁護士は70ページ超の準備書面を12月9日付で提出。原告たちの主張に反論した。
国や福島県が内部被曝の危険性について十分な周知を行っていなかったとする点に関して、東電側は「食品の安全性基準は厳しい値に決められている」(朝日新聞、2011年3月20日付)、「短期間、規制値を超える水を飲んだからといって神経質になる必要はない」(同、2011年3月22日付)、「母乳の心配なし、妊婦も影響なし」(同、2011年3月25日付)などと当時の新聞報道を引用。福島民報の記事や厚生労働省が2011年4月に公表した「妊娠中の方、小さなお子さんをもつお母さんの放射線へのご心配にお答えします」というパンフレットも引用しながら「内部被曝に関する情報についてはこれまで、新聞報道や政府の広報などにより広く提供され、広く知られていると認められ、また住民がこのような情報に接する事は十分に可能な状態にあった。国や福島県が内部被曝の危険性について十分な周知を行っていなかったとの原告らの主張にはそもそも理由がない」と反論している。
さらに「本件事故は、チェルノブイリ原発事故に比べ放射性物質の放出量はセシウム134で41%にとどまっており、汚染面積は6%、放出距離は約10分の1の規模であり、ストロンチウムやプルトニウムはほとんど放出されていない。したがって、チェルノブイリ事故と放射線の放出量において同等であることを前提とした原告らの主張は失当である」とも記述している。
ほかにも「LNT仮説を理由として、低線量被曝による健康リスクが大きいかのように言う原告らの主張は失当」、「避難指示区域外において生活を送るものに対して、低線量被曝による客観的かつ具体的な健康に対する危険が生じていると言うことはできない」などと反論。
津田敏秀教授(岡山大学)の「福島で甲状腺ガンが多発している」との論文を原告たちが主張の根拠の一つに挙げている点に関しても「津田研究は現実からかけ離れた仮説に基づく」、「結果も科学的妥当性を欠くものと評価されている」、広く妥当性・信頼性の認められた科学的知見に当たるとは到底評し得ない」、「UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)が示す科学的知見については国際的にも広く受け入れられている」などと酷評したうえで「福島県で小児甲状腺ガンが多発しているとする原告らの主張は明らかに失当である」と一蹴している。

法廷でのやり取りを改めて原告たちに解説する野村吉太郎弁護士。提出した準備書面で「原発事故前の自然放射線量と比べれば、5年を経てもなお中通りの放射線量は何倍も高く、子どもの甲状腺がんの人数は飛躍的に増加している」と主張している=福島市市民会館
【消えぬ不安、家族内対立も】
閉廷後の集会では、原告たちから東電の主張に怒りの声があがった。
男性は「私の請求している損害に真摯に向き合っているとは思えない。私が仮に隣人に対して同等の迷惑をかけたら、到底12万円の賠償金では済まないだろう。事前に原発の危険性に関する周知は無く、右往左往した。恐れおののくのは当然で、肉体的にも精神的にも損害を被ったんです」と話した。
女性の原告は「11月22日にも福島県沖の震源とする大きな地震があった。地震や台風などのたびに、私たちは廃炉作業中の原発にもしもの事が起こりはしないかと大きな不安を抱く。そこをなぜ東電は分からないのか。今、福島から避難した子どもたちへの〝いじめ〟が問題になっているが、福島市内にもそのような事例はある。浪江町から避難している子どもに福島市の子どもが『10万円もらってるんだろ』などと言うんです。原発事故が無ければ、こんな事も起きなかった」と強い憤りを口にした。
別の女性は「原発事故が起こる前までは、自宅の庭に落ち葉は肥料として利用してきた。でも、残念ながら今年も全部捨てました。私はいつまで、こういう不安を抱きながら生きて行かなければいけないのでしょうか」と話す。世話人の女性に「東電の準備書面にすごく腹が立った」と電話をかけてきた原告もいるという。
原告たちからは「水俣病のように健康被害が形として現れるのであればそれを訴えれば良いが、私たちは低線量被曝だからそこが難しい」、「原発事故さえ無ければ、孫たちを自主避難させる事無く楽しい同居を続けられていた。福島県外の人は『どうせお金をもらってるんだろ』という想いがあるから心まで響かないのではないか」、「家庭内でも被曝に関する意見の対立はあります。夫は私とは真逆で中通りは安全だ、という考え方。そんな事(危険性)を言うなと怒られてしまう。そんな中で食べ物などを気を付けて少しでも子どもを守ろうとしているんです」などの声が聞かれた。
「孫を産み、中通りで働いている娘から『お母さん、そんな事を考えていたらノイローゼになっちゃうよ』と言い合いになってしまった」と涙ながらに話す女性も。しかし、それらを全て無視して淡々と原告の主張を否定しているのが東電だ。

東北新幹線が通る「中通り」では、依然として自宅敷地内に除染土壌が仮置きされている
【「精神的損害は深くて広い」】
原告代理人の野村吉太郎弁護士は、法廷で「なかなか議論がかみ合わない。既に支払われた一律の賠償金では足りないというのが訴訟の要点だし、年20mSv以下の環境では法益侵害は無いと主張するのなら、なぜ賠償金を支払ったのか」などと陳述。12月6日付で提出した準備書面でも「被告が裁判例として列挙するような騒音・悪臭・日照などの被害とは全く異なり、原発事故による被害は日常生活のあらゆる面で生ずる多種多様で複雑なものであり、しかも被害の深刻さははかりしれない」と主張。「原発事故による精神的損害については、人の『心の損害』を推しはかることの難しさがある。本当は『精神的損害』という言葉でひとくくりにできないほど多様」、「原告らの精神的損害は、(原子力損害賠償紛争審査会がまとめた)原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針で触れられている精神的損害よりも深くて広い」などと、原発事故で負った心の傷を訴えている。
被曝への恐怖や不安による精神的苦痛について、野村弁護士はこうも述べている。
「原発事故前の自然放射線量と比べれば、原発事故後5年を経てもなお中通りの放射線量は何倍も高く、子どもの甲状腺ガンの人数は飛躍的に増加し、放射性廃棄物が詰まったフレコンバッグが町のあちこちに行くあてもなく押し黙ったようにしてビニールシートに包まれ(中略)福島県沖で強い地震があれば福島第一原発は大丈夫だろうか、事故で壊れた施設がさらに破壊されて大量の放射線が放出されるのではないかとハラハラする。原告らはそのような生活を強いられているにもかかわらず、なぜ無責任に『放射線被曝への恐怖や不安』を抱くという心理状態に起因する精神的苦痛はないと言えるのだろうか」
初めて法廷を訪れた原告たちからは「自分の気持ちを伝える難しさを痛感した」、「東電という巨大な組織と闘うことの難しさを感じた」などの声もあがった。それでも、原発事故で受けた心の傷を賠償してもらおうと踏ん張っている。原発事故さえ無ければ法廷闘争などとは無縁のはずだった市民たち。野村弁護士は準備書面で裁判所に訴えた。
「原告らの『心の損害』を綴った陳述書を法律の視点から読むのではなく、『こころ』の視点から感じていただきたいと切に願う」
(了)
【東電「中通りでは危険生じていない」】
法廷でのやり取りは10分ほどで終わったが、被告・東電の代理人弁護士は70ページ超の準備書面を12月9日付で提出。原告たちの主張に反論した。
国や福島県が内部被曝の危険性について十分な周知を行っていなかったとする点に関して、東電側は「食品の安全性基準は厳しい値に決められている」(朝日新聞、2011年3月20日付)、「短期間、規制値を超える水を飲んだからといって神経質になる必要はない」(同、2011年3月22日付)、「母乳の心配なし、妊婦も影響なし」(同、2011年3月25日付)などと当時の新聞報道を引用。福島民報の記事や厚生労働省が2011年4月に公表した「妊娠中の方、小さなお子さんをもつお母さんの放射線へのご心配にお答えします」というパンフレットも引用しながら「内部被曝に関する情報についてはこれまで、新聞報道や政府の広報などにより広く提供され、広く知られていると認められ、また住民がこのような情報に接する事は十分に可能な状態にあった。国や福島県が内部被曝の危険性について十分な周知を行っていなかったとの原告らの主張にはそもそも理由がない」と反論している。
さらに「本件事故は、チェルノブイリ原発事故に比べ放射性物質の放出量はセシウム134で41%にとどまっており、汚染面積は6%、放出距離は約10分の1の規模であり、ストロンチウムやプルトニウムはほとんど放出されていない。したがって、チェルノブイリ事故と放射線の放出量において同等であることを前提とした原告らの主張は失当である」とも記述している。
ほかにも「LNT仮説を理由として、低線量被曝による健康リスクが大きいかのように言う原告らの主張は失当」、「避難指示区域外において生活を送るものに対して、低線量被曝による客観的かつ具体的な健康に対する危険が生じていると言うことはできない」などと反論。
津田敏秀教授(岡山大学)の「福島で甲状腺ガンが多発している」との論文を原告たちが主張の根拠の一つに挙げている点に関しても「津田研究は現実からかけ離れた仮説に基づく」、「結果も科学的妥当性を欠くものと評価されている」、広く妥当性・信頼性の認められた科学的知見に当たるとは到底評し得ない」、「UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)が示す科学的知見については国際的にも広く受け入れられている」などと酷評したうえで「福島県で小児甲状腺ガンが多発しているとする原告らの主張は明らかに失当である」と一蹴している。

法廷でのやり取りを改めて原告たちに解説する野村吉太郎弁護士。提出した準備書面で「原発事故前の自然放射線量と比べれば、5年を経てもなお中通りの放射線量は何倍も高く、子どもの甲状腺がんの人数は飛躍的に増加している」と主張している=福島市市民会館
【消えぬ不安、家族内対立も】
閉廷後の集会では、原告たちから東電の主張に怒りの声があがった。
男性は「私の請求している損害に真摯に向き合っているとは思えない。私が仮に隣人に対して同等の迷惑をかけたら、到底12万円の賠償金では済まないだろう。事前に原発の危険性に関する周知は無く、右往左往した。恐れおののくのは当然で、肉体的にも精神的にも損害を被ったんです」と話した。
女性の原告は「11月22日にも福島県沖の震源とする大きな地震があった。地震や台風などのたびに、私たちは廃炉作業中の原発にもしもの事が起こりはしないかと大きな不安を抱く。そこをなぜ東電は分からないのか。今、福島から避難した子どもたちへの〝いじめ〟が問題になっているが、福島市内にもそのような事例はある。浪江町から避難している子どもに福島市の子どもが『10万円もらってるんだろ』などと言うんです。原発事故が無ければ、こんな事も起きなかった」と強い憤りを口にした。
別の女性は「原発事故が起こる前までは、自宅の庭に落ち葉は肥料として利用してきた。でも、残念ながら今年も全部捨てました。私はいつまで、こういう不安を抱きながら生きて行かなければいけないのでしょうか」と話す。世話人の女性に「東電の準備書面にすごく腹が立った」と電話をかけてきた原告もいるという。
原告たちからは「水俣病のように健康被害が形として現れるのであればそれを訴えれば良いが、私たちは低線量被曝だからそこが難しい」、「原発事故さえ無ければ、孫たちを自主避難させる事無く楽しい同居を続けられていた。福島県外の人は『どうせお金をもらってるんだろ』という想いがあるから心まで響かないのではないか」、「家庭内でも被曝に関する意見の対立はあります。夫は私とは真逆で中通りは安全だ、という考え方。そんな事(危険性)を言うなと怒られてしまう。そんな中で食べ物などを気を付けて少しでも子どもを守ろうとしているんです」などの声が聞かれた。
「孫を産み、中通りで働いている娘から『お母さん、そんな事を考えていたらノイローゼになっちゃうよ』と言い合いになってしまった」と涙ながらに話す女性も。しかし、それらを全て無視して淡々と原告の主張を否定しているのが東電だ。

東北新幹線が通る「中通り」では、依然として自宅敷地内に除染土壌が仮置きされている
【「精神的損害は深くて広い」】
原告代理人の野村吉太郎弁護士は、法廷で「なかなか議論がかみ合わない。既に支払われた一律の賠償金では足りないというのが訴訟の要点だし、年20mSv以下の環境では法益侵害は無いと主張するのなら、なぜ賠償金を支払ったのか」などと陳述。12月6日付で提出した準備書面でも「被告が裁判例として列挙するような騒音・悪臭・日照などの被害とは全く異なり、原発事故による被害は日常生活のあらゆる面で生ずる多種多様で複雑なものであり、しかも被害の深刻さははかりしれない」と主張。「原発事故による精神的損害については、人の『心の損害』を推しはかることの難しさがある。本当は『精神的損害』という言葉でひとくくりにできないほど多様」、「原告らの精神的損害は、(原子力損害賠償紛争審査会がまとめた)原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針で触れられている精神的損害よりも深くて広い」などと、原発事故で負った心の傷を訴えている。
被曝への恐怖や不安による精神的苦痛について、野村弁護士はこうも述べている。
「原発事故前の自然放射線量と比べれば、原発事故後5年を経てもなお中通りの放射線量は何倍も高く、子どもの甲状腺ガンの人数は飛躍的に増加し、放射性廃棄物が詰まったフレコンバッグが町のあちこちに行くあてもなく押し黙ったようにしてビニールシートに包まれ(中略)福島県沖で強い地震があれば福島第一原発は大丈夫だろうか、事故で壊れた施設がさらに破壊されて大量の放射線が放出されるのではないかとハラハラする。原告らはそのような生活を強いられているにもかかわらず、なぜ無責任に『放射線被曝への恐怖や不安』を抱くという心理状態に起因する精神的苦痛はないと言えるのだろうか」
初めて法廷を訪れた原告たちからは「自分の気持ちを伝える難しさを痛感した」、「東電という巨大な組織と闘うことの難しさを感じた」などの声もあがった。それでも、原発事故で受けた心の傷を賠償してもらおうと踏ん張っている。原発事故さえ無ければ法廷闘争などとは無縁のはずだった市民たち。野村弁護士は準備書面で裁判所に訴えた。
「原告らの『心の損害』を綴った陳述書を法律の視点から読むのではなく、『こころ』の視点から感じていただきたいと切に願う」
(了)
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