【自主避難者から住まいを奪うな】「寄り添いでなく追い出し」「戸別訪問は地上げ屋の手法」。あと3カ月、溝埋まらぬまま越年~第5回福島県庁交渉
- 2016/12/22
- 07:17
原発事故による〝自主避難者〟への住宅無償提供が来年3月末で打ち切られることに反対して行われている避難者団体と福島県庁職員との交渉が21日午後、福島県庁近くの中町会館会議室で開かれた。毎月、開かれている交渉は5回目だが、議論はかみ合わず、避難者と県庁職員との深い溝は埋まらない。避難者側は以前から内堀雅雄知事との直接対話を求めているが「組織として対応する」と応じていない。打ち切り・切り捨てまで3カ月。多くの避難者が新しい住まいが決まらないまま、原発事故から6度目の正月を迎える。
【「知事は日本酒の団体とは会う…」】
時間だけが過ぎていく。これまで何度も繰り返されてきたやり取りに、思わず出席者から「きめ細かな対応をする、なんてこれまでも耳にタコが出来るほど聞いて来た。私たちは交流の場を求めているんじゃない。決定権者である内堀知事と直接、話をしたいんだ」と怒りの声が上がった。交渉は予定の2時間を超えたが、県庁職員と避難者との溝は埋まらない。打ち切りは3カ月後に迫っているが、福島県庁の姿勢は変わらなかった。
11月28日から福島県庁で展開された5日間の抗議行動では連日、全国の避難者からの〝直訴状〟が県庁職員に託された。「秘書課からは『内堀知事は読んでいる』と聞いている。手紙の内容についての質問も来ているので、確実に読んでいると認識している」と生活拠点課の新妻勝幸主幹。しかし、打ち切られる側である避難者との直接対話は「福島県という組織全体で生活再建に向けて支援するよう指示を受けている」と内堀知事の考えを口にするばかり。避難者たちは「今日も、日本酒の団体の表敬訪問を受けているじゃないか。内堀知事には当事者の声を聴く義務がある。優先順位が違うだろう。常識を疑う」などと内堀知事の姿勢を批判したが、県庁職員は馬耳東風。「あなたたちじゃ駄目なんです。トップを出してくれ」。この言葉も何度、当事者から叫ばれただろう。
いわき市議の佐藤和良さんが我慢ならぬというように口を開いた。
「今のままでは『避難者切り捨て』のそしりを免れないですよ。あと3カ月で全部カバー出来るかというと、困難だというのが現実でしょう。であれば、そのように上司たる知事に上申するべきです。本当に避難者に寄り添うのであれば、1年ぐらいの猶予は必要だと内堀知事に上申してください。そもそも寄り添いという言葉の使い方を間違えている。これは追い出しだ。まさに地上げ屋のような手法ですよ」
これには、生活拠点課の新妻主幹も「追い出しでは無いという事をご理解いただきたい」と言うばかり。挙げ句に「4月からは家賃負担が発生するので、確かに全員が新しい住まいに入れるわけでは無いだろう」とも。「寄り添う」には時間が足りない事を分かっているにもかかわらず、3月末の期限は頑として動かさない。公共事業型復興に邁進する内堀知事にとって、県外に避難した県民などもはや守るべき対象では無いということなのだろう。


(上)12月4日に福島市内で開かれた集会で採択されたアピール文を切々と読み上げ、県庁職員に手渡した山田俊子さん(右)。「まず話し合いましょう」と深々と頭を下げた。
(下)交渉には今回も福島県生活拠点課の幹部らが出席したが、「これ以上、住宅の無償提供を延長する理由がどこにあるのか」と従来の見解を繰り返すばかりだった
【「避難者追い出しやめて」】
福島県が12月5日に発表した第2回戸別訪問(8月29日から10月21日)の結果概要によると、避難指示区域外から福島県内、福島県外に避難している人のうち、4月以降の住まいが確定しているのは1517世帯で、訪問出来た4688世帯のわずか32.4%にすぎない。生活拠点課は他に「ある程度確定」(45.5%)、「未確定」(22.1%)と分類しているが、「ある程度確定」とは「3月末をもって動く事は決まっているが、福島に戻る、避難を継続するなど複数の候補で悩んでいるという事」(小林正則副課長)という。だが、これには南相馬市から神奈川県横浜市に避難中の村田弘さんから実にもっともな異論が出た。
「3月末で打ち切ることを県が決めているのだから『動く事は決まっている』のではなくて『否応なしに動かざるを得ない』という事でしょう。こういう分類はまやかしではないか。住まいが決まっていないのだから『未確定』に分類するべきだ」
結局、福島県がどのように分類しようとも、把握できているだけで福島県内で1000世帯以上、福島県外でも2000世帯以上が来春以降の住まいが全く決まっていないのが現実なのだ。避難者から寄せられた意見も「住宅が見つからない」、「公営住宅に当選しない」、「家賃補助の対象となるか不安」など住まいに関するものが上位を占めた。子どもの就学や転校に関する不安も寄せられているという。福島県は年明けから第3回戸別訪問を実施する意向だが、出席した避難者たちからは「これ以上、戸別訪問で避難者を追い詰めるのはやめてくれ」と悲鳴にも似た声があがった。
「都営住宅に仮あっせんされたのは、たったの192世帯。まだ500世帯以上が新しい住まいが決まっていません。戸別訪問されても出て行けという話にしかなりません。今までと同じ『避難者追い出し』を繰り返すのなら、やめて意向調査を実施してください」(田村市から東京都に避難中の熊本美彌子さん)
過去4回の交渉でも、高圧的・威圧的な戸別訪問で、避難者が精神的に追い詰められている実態は何度も訴えられてきた。東京だけでなく千葉県内でも、退去を強要するような言動が戸別訪問であったと報告されている。
しかし、福島県庁職員は「どういう事例があるのか、ぜひ御教授いただきたい」ととぼける。小林正則副課長は「東京都に確認したが、『そのような戸別訪問は無い』とのことだった」と発言して出席者の怒りを買った。筆者が終了後に小林副課長に発言の真意を確認すると「訂正します。『高圧的・威圧的だと誤解を受けてもやむを得ない戸別訪問はあった』ということでした」と発言を撤回した。担当部局の幹部がこれでは、避難者が「あなたたちじゃ駄目なんです」と怒るのも無理はない。


(上)かみ合わない議論に、村田弘さんは思わず天を仰いだ。打ち切りは刻一刻と迫る。「4月以降、悲劇が起きたら誰が責任を取るんですか」
(下)「県のやり方は地上げ屋の手法だ。寄り添いでは無い。避難者追い出し」と怒りの声をあげた佐藤和良さん
【家賃補助申請わずか41件】
このまま打ち切りが強行されれば、住宅の無償提供は終了し、2年間限定の家賃補助制度(1年目3万円、2年目2万円)に移行する。福島県が寄せた事前質問への回答によると、10月3日から11月30日までの補助金申請件数は41件にとどまっている。そのうち、補助金交付が決まったのは3件。収入要件(21万4000円)の事前確認依頼も226件にすぎない。村田弘さんは「2カ月でたったこの程度の数字。これでは、新たな制度が避難者に認められていないということになるし、そもそも新たな住まいへの見通しが立ってないという事の裏付けになるのではないか」と指摘したが、生活拠点課の新妻勝幸主幹は「電話での問い合わせは1000件を超えている」と否定した。
家賃補助に関する問い合わせや申請受付業務は福島市内の人材派遣会社に委託。〝自主避難者〟切り捨ての一端を避難していない福島市周辺の住民が担うという歪んだ構図になっている。
南相馬市から神奈川県に避難中の山田俊子さんは「被害者の声を聴きもしないで打ち切りを決めてしまった。だから〝直訴〟をしたんです。私たちの声を聴いてもらいたいんです。毎日の生活があるから、こういう場に来たいけど来られない避難者がたくさんいます。だから代表して届けたんです。今のまま住み続けさせてください。自力で家賃を払うお金はありません。それが神奈川では圧倒的な意見です」と訴えた。
生活拠点課によると、福島県外へ避難した人のうち、4月以降に福島県に戻る意向を示しているのはわずか9.9%にすぎない。ほとんどの人が避難継続を望んでいる。避難者を受け入れている全国の自治体からは、12月20日現在で延べ41の議会から住宅の無償提供継続を求める意見書が福島県知事宛てに提出されている(3議会は2回提出)。意見書は今後も増える見通しだ。山形県米沢市長は自ら福島県を訪れて継続を求めたが、避難地域復興局長は〝拒否〟した。千葉県弁護士会は12月9日付で「区域外避難者の『最後の命綱』を断ち、ようやく築きあげつつある避難先での生活を奪うことになりかねない」などとする「区域外避難者への住宅無償供与打ち切りに反対し、原発事故避難者の恒久的な住宅支援策を講じることを求める会長声明」を発表した。
当事者、受け入れ自治体の声を無視して内堀知事は打ち切り・切り捨てを強行しようとしている。「国の同意を得ているので、国も同じ考え方だと認識している」(新妻勝幸主幹)。自民党が多数を占める福島県議会・企画環境常任委員会は20日、無償提供継続を求める請願を継続審査と決めた。深い溝は埋まらないまま〝最後の越年〟が決まった。
(了)
【「知事は日本酒の団体とは会う…」】
時間だけが過ぎていく。これまで何度も繰り返されてきたやり取りに、思わず出席者から「きめ細かな対応をする、なんてこれまでも耳にタコが出来るほど聞いて来た。私たちは交流の場を求めているんじゃない。決定権者である内堀知事と直接、話をしたいんだ」と怒りの声が上がった。交渉は予定の2時間を超えたが、県庁職員と避難者との溝は埋まらない。打ち切りは3カ月後に迫っているが、福島県庁の姿勢は変わらなかった。
11月28日から福島県庁で展開された5日間の抗議行動では連日、全国の避難者からの〝直訴状〟が県庁職員に託された。「秘書課からは『内堀知事は読んでいる』と聞いている。手紙の内容についての質問も来ているので、確実に読んでいると認識している」と生活拠点課の新妻勝幸主幹。しかし、打ち切られる側である避難者との直接対話は「福島県という組織全体で生活再建に向けて支援するよう指示を受けている」と内堀知事の考えを口にするばかり。避難者たちは「今日も、日本酒の団体の表敬訪問を受けているじゃないか。内堀知事には当事者の声を聴く義務がある。優先順位が違うだろう。常識を疑う」などと内堀知事の姿勢を批判したが、県庁職員は馬耳東風。「あなたたちじゃ駄目なんです。トップを出してくれ」。この言葉も何度、当事者から叫ばれただろう。
いわき市議の佐藤和良さんが我慢ならぬというように口を開いた。
「今のままでは『避難者切り捨て』のそしりを免れないですよ。あと3カ月で全部カバー出来るかというと、困難だというのが現実でしょう。であれば、そのように上司たる知事に上申するべきです。本当に避難者に寄り添うのであれば、1年ぐらいの猶予は必要だと内堀知事に上申してください。そもそも寄り添いという言葉の使い方を間違えている。これは追い出しだ。まさに地上げ屋のような手法ですよ」
これには、生活拠点課の新妻主幹も「追い出しでは無いという事をご理解いただきたい」と言うばかり。挙げ句に「4月からは家賃負担が発生するので、確かに全員が新しい住まいに入れるわけでは無いだろう」とも。「寄り添う」には時間が足りない事を分かっているにもかかわらず、3月末の期限は頑として動かさない。公共事業型復興に邁進する内堀知事にとって、県外に避難した県民などもはや守るべき対象では無いということなのだろう。


(上)12月4日に福島市内で開かれた集会で採択されたアピール文を切々と読み上げ、県庁職員に手渡した山田俊子さん(右)。「まず話し合いましょう」と深々と頭を下げた。
(下)交渉には今回も福島県生活拠点課の幹部らが出席したが、「これ以上、住宅の無償提供を延長する理由がどこにあるのか」と従来の見解を繰り返すばかりだった
【「避難者追い出しやめて」】
福島県が12月5日に発表した第2回戸別訪問(8月29日から10月21日)の結果概要によると、避難指示区域外から福島県内、福島県外に避難している人のうち、4月以降の住まいが確定しているのは1517世帯で、訪問出来た4688世帯のわずか32.4%にすぎない。生活拠点課は他に「ある程度確定」(45.5%)、「未確定」(22.1%)と分類しているが、「ある程度確定」とは「3月末をもって動く事は決まっているが、福島に戻る、避難を継続するなど複数の候補で悩んでいるという事」(小林正則副課長)という。だが、これには南相馬市から神奈川県横浜市に避難中の村田弘さんから実にもっともな異論が出た。
「3月末で打ち切ることを県が決めているのだから『動く事は決まっている』のではなくて『否応なしに動かざるを得ない』という事でしょう。こういう分類はまやかしではないか。住まいが決まっていないのだから『未確定』に分類するべきだ」
結局、福島県がどのように分類しようとも、把握できているだけで福島県内で1000世帯以上、福島県外でも2000世帯以上が来春以降の住まいが全く決まっていないのが現実なのだ。避難者から寄せられた意見も「住宅が見つからない」、「公営住宅に当選しない」、「家賃補助の対象となるか不安」など住まいに関するものが上位を占めた。子どもの就学や転校に関する不安も寄せられているという。福島県は年明けから第3回戸別訪問を実施する意向だが、出席した避難者たちからは「これ以上、戸別訪問で避難者を追い詰めるのはやめてくれ」と悲鳴にも似た声があがった。
「都営住宅に仮あっせんされたのは、たったの192世帯。まだ500世帯以上が新しい住まいが決まっていません。戸別訪問されても出て行けという話にしかなりません。今までと同じ『避難者追い出し』を繰り返すのなら、やめて意向調査を実施してください」(田村市から東京都に避難中の熊本美彌子さん)
過去4回の交渉でも、高圧的・威圧的な戸別訪問で、避難者が精神的に追い詰められている実態は何度も訴えられてきた。東京だけでなく千葉県内でも、退去を強要するような言動が戸別訪問であったと報告されている。
しかし、福島県庁職員は「どういう事例があるのか、ぜひ御教授いただきたい」ととぼける。小林正則副課長は「東京都に確認したが、『そのような戸別訪問は無い』とのことだった」と発言して出席者の怒りを買った。筆者が終了後に小林副課長に発言の真意を確認すると「訂正します。『高圧的・威圧的だと誤解を受けてもやむを得ない戸別訪問はあった』ということでした」と発言を撤回した。担当部局の幹部がこれでは、避難者が「あなたたちじゃ駄目なんです」と怒るのも無理はない。


(上)かみ合わない議論に、村田弘さんは思わず天を仰いだ。打ち切りは刻一刻と迫る。「4月以降、悲劇が起きたら誰が責任を取るんですか」
(下)「県のやり方は地上げ屋の手法だ。寄り添いでは無い。避難者追い出し」と怒りの声をあげた佐藤和良さん
【家賃補助申請わずか41件】
このまま打ち切りが強行されれば、住宅の無償提供は終了し、2年間限定の家賃補助制度(1年目3万円、2年目2万円)に移行する。福島県が寄せた事前質問への回答によると、10月3日から11月30日までの補助金申請件数は41件にとどまっている。そのうち、補助金交付が決まったのは3件。収入要件(21万4000円)の事前確認依頼も226件にすぎない。村田弘さんは「2カ月でたったこの程度の数字。これでは、新たな制度が避難者に認められていないということになるし、そもそも新たな住まいへの見通しが立ってないという事の裏付けになるのではないか」と指摘したが、生活拠点課の新妻勝幸主幹は「電話での問い合わせは1000件を超えている」と否定した。
家賃補助に関する問い合わせや申請受付業務は福島市内の人材派遣会社に委託。〝自主避難者〟切り捨ての一端を避難していない福島市周辺の住民が担うという歪んだ構図になっている。
南相馬市から神奈川県に避難中の山田俊子さんは「被害者の声を聴きもしないで打ち切りを決めてしまった。だから〝直訴〟をしたんです。私たちの声を聴いてもらいたいんです。毎日の生活があるから、こういう場に来たいけど来られない避難者がたくさんいます。だから代表して届けたんです。今のまま住み続けさせてください。自力で家賃を払うお金はありません。それが神奈川では圧倒的な意見です」と訴えた。
生活拠点課によると、福島県外へ避難した人のうち、4月以降に福島県に戻る意向を示しているのはわずか9.9%にすぎない。ほとんどの人が避難継続を望んでいる。避難者を受け入れている全国の自治体からは、12月20日現在で延べ41の議会から住宅の無償提供継続を求める意見書が福島県知事宛てに提出されている(3議会は2回提出)。意見書は今後も増える見通しだ。山形県米沢市長は自ら福島県を訪れて継続を求めたが、避難地域復興局長は〝拒否〟した。千葉県弁護士会は12月9日付で「区域外避難者の『最後の命綱』を断ち、ようやく築きあげつつある避難先での生活を奪うことになりかねない」などとする「区域外避難者への住宅無償供与打ち切りに反対し、原発事故避難者の恒久的な住宅支援策を講じることを求める会長声明」を発表した。
当事者、受け入れ自治体の声を無視して内堀知事は打ち切り・切り捨てを強行しようとしている。「国の同意を得ているので、国も同じ考え方だと認識している」(新妻勝幸主幹)。自民党が多数を占める福島県議会・企画環境常任委員会は20日、無償提供継続を求める請願を継続審査と決めた。深い溝は埋まらないまま〝最後の越年〟が決まった。
(了)
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