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【県民健康調査】「県民の理解深めたい」。星座長が第三者委の設置を提案。背景に日本財団の提言、検査体制縮小の布石か~甲状腺ガンは9人増えて183人に

原発事故後、福島県が被曝線量の評価や県民の健康状態把握のために実施している「県民健康調査」の第25回検討委員会が27日午後、福島市内のホテルで開かれた。甲状腺超音波検査の2巡目で「悪性または悪性疑い」と診断された子どもは、前回より9人増えて68人。1巡目からの通算では、「悪性または悪性疑い」は183人に達した(9月30日現在)。しかし、日本財団の提言を受ける形で星北斗座長が「中立的、国際的、科学的」な第三者委員会の設置を突如、福島県に提案。「県民の正しい理解」の名の下に、検査体制の縮小を懸念する声が高まっている。


【突如浮上した第三者委の設置】
 何を言いたいのか何をしたいのか、さっぱり分からない。しかし、その裏にある強い〝意志〟だけは明確。そんな会合だった。
 福島県医師会副会長でもある検討委の星北斗座長(星総合病院理事長)が突如、第三者委員会の設置を福島県に投げ掛けた。そのきっかけとなったのが、12月9日に福島県の内堀雅雄知事に提出された提言「福島における甲状腺課題の解決に向けて~チェルノブイリ30周年の教訓を福島原発事故5年に活かす~」だった。
 日本財団(笹川陽平会長)が主催し、福島市内で9月に開催された「第5回放射線と健康についての福島国際専門家会議」を受けて「福島事故による一般住民の甲状腺被ばく線量は、チェルノブイリ事故に比べてはるかに低い量にとどまっている」、「福島におけるこの明らかな甲状腺異常の増加は、高性能な超音波診断機器を導入したために引き起された集団検診効果であると考えられる」、「この甲状腺がんの明らかな増加が、福島第一原発事故に起因するとは考えられない」などとして①健康調査と甲状腺検診プログラムは自主参加であるべき②福島原発事故の健康影響の低減と健康モニタリングに関する課題を取上げる専門作業部会の招集─などを提言。地元紙の福島民報が「県民健康調査検討委員会で今後、提言を踏まえた検査の改善などを協議するとみられる」と報じるなど、甲状腺検査体制の縮小に向けた布石だと警戒する声が多方面からあがった。提言書提出に同席した山下俊一氏(長崎大学副学長、福島県立医科大学副学長)は18日に郡山市内で開かれた講演でも「影響がほとんど考えられない中で大量検査をした結果、大人のガンを早く見つけてしまった。甲状腺検査に対する議論の根底は次の一点であるべきです。つまり『検査を受ける子どもたちの利益になるか否か』です」と強調している。
 星座長の想定する第三者委員会のイメージは「中立的、国際的、科学的」で「甲状腺検査の結果とは切り離したい、切り分けたい」という。「私だけが再び袋叩きに遭いそうですが」、「十分な説明が足りていないなあと感じる」、「もっと県民の理解が深まるような検討委を県の方で考えてくれ、と打ち返したい」などと、委員会の終盤は星座長の〝独演会〟になった。


「県民の理解を深めたい」と盛んに強調した検討委の星北斗座長(左)。しかし「理解」の具体的中身を質してもあいまいな回答に終始した=ホテル・福島グリーンパレス

【「県民の正しい理解」とは何か】
 この日の委員会では甲状腺検査体制の「縮小」は表立って議論されなかったが、一つの方向に大きく舵を切った事は間違いない。星座長は何度も「県民の理解」を口にしたが、理解とは何か、何をもって理解が足りないと判断しているのか、どの段階で理解が深まったと考えるのか、問うても明快な答えは無かった。
 委員会後の会見では「どれだけ専門家の知見を並べても不安はあるだろう。『理解』を強要するものではない」と言いながら、一方で「これまでの知見に照らして『原発事故の影響は考えにくい』と言っても理解していただけない」とも。つまり、星座長の言う「県民の理解不足」は過剰不安。「中立的、国際的、科学的な第三者委員会」は「福島第一原発事故による健康被害、被曝被害は出ない」という「正しい理解」を広めるために設置されると考えるのが自然だ。そして、その先には「検査対象者への精神的なストレスが生じ、それに比例して、精神衛生状態や生活の質への悪影響が引き起されている」(提言)と甲状腺検査のデメリットが強調され、検査体制が縮小される。そんなシナリオが見え隠れする。第三者委について、福島県の井出孝利保健福祉部長は「どういう場を設けたら良いのか、国にも相談しながら検討したい」と語った。国に相談するとなれば自ずと方向性は見えてくる。しかし、本当に検査体制を縮小して良いのだろうか。委員会では〝見落とし〟に関する議論もあったのだ。
 成井香苗委員(福島県臨床心理士会会員)は「『悪性ないし悪性疑い』と判定された68人のうち、62人までが先行検査でA判定だった。甲状腺ガンは進行が遅いと言われているが、そんなに短期間でC判定まで行ってしまうものなのか。見逃されるという話もある」と〝見落とし〟に言及。清水一雄委員(日本医科大学名誉教授、金地病院名誉院長)も「私も同じような疑問を持っている。見落としがあるんじゃないか。子どものガンがどのように成長するか分かっていない。大人のガンよりアグレッシブという話もある」と指摘した。しかし、星座長が「〝見落とし〟というのではなくて、見えなかった、引っかからなかったという事ですね」と抑え込む形で収めてしまい、議論は深まらなかった。
 記者会見では、堀川章仁委員(双葉郡医師会長)が「超音波検査で100%見つかるわけでは無い」と語った。福島県立医科大学の大津留晶教授も「見えないという事はあり得ると思う」と述べた。であれば尚更、検査体制は縮小するべきではない。だからこそ、多くの団体がむしろ検査体制を充実するよう求める要望書が県内外から福島県に寄せられているのだ。


甲状腺ガン患者への療養費給付を始めた「3・11甲状腺がん子ども基金」。代表理事の崎山比早子さん(左)は「復興が叫ばれる中、甲状腺ガン患者がいる事が復興の妨げになるという雰囲気が社会に蔓延している。異常事態だ」と警鐘を鳴らした

【県の検査で〝見落とし〟も】
 検討委員会に先立って会見を開いた「3・11甲状腺がん子ども基金」(崎山比早子代表理事)は、甲状腺ガン患者向け療養費給付事業(手のひらサポート)について、第1回として35人(男性14人、女性21人)への10万円の給付を決定したと発表した。地域の内訳は福島県が最も多く26人。神奈川県が3人のほか、宮城、群馬、千葉、埼玉、長野、新潟の各県がそれぞれ1人だった。
 基金によると、福島県の県民健康調査では甲状腺ガンが見つからず、自主検診で発見されたケースが複数あったという。副代表理事の海渡雄一弁護士は「その方々は、県民健康調査でガンが見つかったわけでは無いとの理由で福島県の『サポート事業』の給付対象外となっている。明らかに不合理で制度を改める必要がある」と指摘。「福島県内ではカルテ開示を求めたら医師に怒鳴られたケースもあった。十分な説明がなされていないのではないか」とも。「検査体制の縮小には大いに疑問がある。自治体の検査だけでは不十分で、国が包括的な検査体制を敷く必要がある」と訴えた。吉田由布子理事(「チェルノブイリ被害調査・救援」女性ネットワーク)も「早期発見・治療がプラスになる。福島県外にも甲状腺検査を広げていただきたい」と語った。
 検討委員会を傍聴した崎山さんは「他のガンでは、社会的プレッシャーから病名を隠すという事は無いだろう。復興が叫ばれる中で、甲状腺ガン患者がいる事が復興の妨げになるという雰囲気が社会に蔓延している。異常事態だ」と警鐘を鳴らした。海渡弁護士も「この基金には、甲状腺ガンについて自由に語りづらい状況を変えて行く任務がある。声なき声を拾って皆さんに届けたい」。国や福島県や星座長の目指す第三者委員会が機能すれば、ますます被曝リスクについて語りにくくなる事が容易に想像出来る。
 検査体制縮小を懸念して、「原発事故被害者団体連絡会」(ひだんれん)や「いわきの初期被曝を追及するママの会」、「NPO法人はっぴーあいらんど☆ネットワーク」などが甲状腺検査体制の維持・拡充を求める要望書を内堀雅雄知事宛てに提出している。福島県内だけでなく、宮城県仙台市の「日本基督教団東北教区放射能問題支援対策室いずみ」も「甲状腺検査『縮小』につながる見直しに慎重な対応を求めます」と声明を発表している。
 福島県県民健康調査課の小林弘幸課長は会見で「学校検診をやめる、縮小するという事は考えていない」と明言した。残念ながら、甲状腺ガン患者は増え続けている。他の疾患も含め、継続的な健康管理が求められる。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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